| 2001.12.10. |
|
その少女は、天気がいいと笑い、悪いと涙を流すのだった。 空が青々と晴れ渡ったときの少女の笑顔は、それはもう実に楽しげで屈託のない、見るものすべてを幸せにするような晴れ晴れとしたものだった。 ところが空が曇っているときにはその笑顔はすっかり影を潜め、顔からは一切の表情が消え去り、少女は無表情のまま押し黙ってしまう。 そして雨の日に至っては、少女はこの世の不幸という不幸が一身に降りかかってきたような顔で涙を流し、絶望そのもののような声で泣くのだ。 そんなわけで少女と共に住む村の人々は、天気のいい日はもともと気分がいいのに加え、さらに少女の笑顔を見ることができるので一層気分がよく、天気の悪い日はただでさえ憂鬱だというのに、そのうえ少女の泣き声を聞かねばならないので、ますます気持ちが落ち込むのだった。 いったい少女はどうして天気によってこうもコロコロと表情を変えるのか。それは少女の両親にも分からないのだ。 母親は、この子が生まれるちょっと前に、自分のお腹に白く輝く大鷲が入っていく夢を見たと言い、父親は、この子が生まれた嵐の晩に、家の前で黒い大蛇がイタチを呑み込んでいるのを見た、と言った。 ある村人は、両親の罪が娘に降りかかったのだ、と主張した。 別の村人は、少女が変なものを食べたからに違いない、と断言した。 旅の僧侶は神からの授かりものだと告げた。 ジプシーの呪術師は、偉大な先祖の霊が少女の体に宿っているのだと語った。 しかし結局、なにが原因なのか、本当のことは誰にもわからなかった。 そして月日は流れ、少女もとうとう天に召されるときがきた。 その朝は前の晩から降り続く大雨で、だから少女は病と熱に苦しみながら涙を流し、声も出ないほど衰弱していながら泣き喚いた。 それは誰もが目をそむけたくなるほどの悲惨な光景だったが、それでも村人全員が彼女の家に集まり、じっと静かに彼女の様子を見守っていた。 だれもが彼女の死を惜しんでいた。彼女の表情、その正体がなんであるにしても、それは非常に特別なものだと思われていたからである。 少女は、悲しみの涙を流しながらも、そのことを非常にうれしく思った。 だから少女は死ぬ間際に、生まれてはじめて自分の意志でうっすらと微笑んだのである。そして実に幸せそうな笑顔で、そのまま息を引き取った。 彼女の亡骸に別れの挨拶をすませ、棺に蓋をすると、村人たちは葬列を作って家の外へと出た。そしてようやく、彼らは彼女の笑顔が何をもたらしたのかを理解した。さっきまで降っていた雨がすっかり止んで、今や空は青々と晴れ上がり、東の空に見事な虹の橋を見せていたのだ。 その空はどこまでも高くそして青かった。気持ちのいい風が村人たちの間を通り抜けていった。 すると、空に架かる虹を眺めながら、もうあのとびきりの笑顔も気の沈むような泣き顔も決して見れないんだなあ、と誰かが悲しげに言った。 それを聞くと村人たちはなんだかさっきよりもずっと寂しい気持ちになって、ああ本当に少女は死んでしまったのだ、と思うのだった。 彼らはみな、心から彼女の冥福を祈った。 村人たちの頭上で、太陽はキラキラと輝いていた。 ──けれどもやがて、村はそのまま日照りによって全滅した。 誰も天気を元に戻すことができなかったからである。 |