| 2001.12.21. |
歌姫の声は枯れてしまった。 天使のような歌声、およそ一人の人間が出せるとは思えないほどの豊かな声量、聞くものすべてを歌の世界へ引きずり込む調べ……それらは、永遠に過去のものとなったのだった。 なぜあれほどの才能が、と人々は嘆き悲しんだ。だがその人々の心からの悲嘆すらも、かつての彼女が歌う悲しみの歌ほどに悲しく響かなかったのはなんという皮肉であったことだろう。 その歌声も今はなく、彼女の歌を覚えているものも少なくなった。 それでも人々は彼女の歌を懐かしんだが、そのイメージは もはやかつてのような鮮明なものではなかった。 さらに年月が流れると、記憶は風化し、やがて歌姫のことを口にするものもなくなった。その歌がどのようなものだったか、思い出すことができるものは一人もいなかった。 だが、時折 風に乗って流れてくるあの声は、過去を目にしたとき聞こえるあの調べは、急に心の奥底から湧いてくるあの楽の音は─── あれは彼女の歌ではなかったか、と人々は思うのだった。 |