2001.12.26.

 嵐のあとの海は、穏やかだった。


 おれは、死んだ父さんの残した小舟を物置から引っぱり出して、家を出た。出かけるとき後ろから母さんがなにか叫んだけど、気にしない。どうせ、また止めようとするに決まってるからだ。だれがなんと言おうと 今日こそはやるんだ、とおれは決意していた。

 父さんが死んでから、もう一年になる。もうこれ以上、人の世話になるわけにはいかない。 誰かが稼がなければならないのだ。母さんもそれをわかっているからこそ、呼び止めはしたものの、追いかけてこないのだろう。

 嵐のあとに訪れる数少ないチャンスを、おれは毎日波に乗る練習をしながら待っていた。波に乗って猟をするのは難しい。おれのような子供には 特にだ。村の大人たちでさえ───熟練の狩人である彼らでさえ、数年に一人か二人、命を落とすのだ。 父さんのように。
 だけど、海が、波が、必ずしも常に厳しい顔を見せているわけではない。おれは昔、父さんに聞いたことがある。嵐のあとの海は穏やかで、そのとき敵である波は友人となって(だからといって優しいばかりでもないのだが)、舟を力強く押し流してくれるという話を。

 小舟を引きずりながら海へと向かっていると、後ろから弟が追いかけてきた。「兄ちゃん、波乗りに行くのか?」
 おれは黙って頷き、弟の頭をくしゃくしゃとなでた。今日、おれが波にうまく乗れずに父さんのように死んでしまったら───こいつはおれたちの後を追うのだろうか?この小舟を波に浮かべて、海に挑むのだろうか。 おれは、そう思わずにはいられなかった。



 弟と二人、岬の先端に立つと、目の前には、白く輝く海がどこまでも広がっていた。  海は今までに見たこともないほど穏やかで、波にいつもの荒々しさはなかった。

 しばらくして、おれは遠くからやってくる、大きくて強そうな波を見つけた。
 おれは心を決めた。 よし、あれに乗ろう。


 おれは舟を小脇に抱え、心配そうな表情を浮かべる弟に向かってにっこりと微笑むと、





 風の波に小舟を乗せ、一面に広がる雲海に飛び出したのだった。




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