2001.12.16.

 その少年は、恐ろしく長いこと黙っていたが、やがてぽつり、ぽつり、と語りだした。

 夜があまりにも暗いこと、そこに光るのはただ月と星ばかりだったこと、けれども本が読みたかったこと、ランプを買おうと思ったこと、でも母親に火を使ってはならないと言われていること、炎の見せる踊りの幻想が好きであること、火を使わないランプを探さねばならないと思ったこと、なのに誰もそれがどこにあるか知らなかったこと。

 「でもぼくはどうしても夜、本が読みたいんです」と少年は言った。


 そこでわたしは、彼に秘密の店を教えてやることにした。
 そこなら、夜の暗がりに灯す、火を使わないランプが売っている。
 ただし─── とわたしは少年に忠告した。 もし君が店を見つけることができなかったら、すぐに戻ってくるんだよ。

 わたしがそう言うと、見つかるまで探すよ、と彼は答えた。

 それならそれでいい、とにかく、見つからない理由を考えなくてはいけない、 見つけたい理由を考えていなければならない。 それから───


 しかし少年はわたしの言うことには まるっきり興味がないようだった。 とにかく早くその店の場所を教えてくれとせがむ。 わたしは苦笑した。
 それじゃいいかい、とわたしは言った。まず、その店は、本当に行きたいと強く願わなければ目に見えない……。

 少年は、真剣な表情で頷いた。


 それから、その店は 常に目的地のひとつ手前の路地を入ったところにある。 君がどこに向かっていてもだよ。 わかるね?

 少年は、さっき以上に真剣な表情で頷いた。そして言った。
 「ぼく─── ぼく、わかると思います。」

 よろしい、では行くといい。 そう言って、わたしは少年を送り出した。
 少年はわたしに頭を下げて礼を言うと、(わたしには見えない何かに向かって)元気よく歩き出した。
 その姿がだんだんと遠くなっていき、やがて全く見えなくなると、少年を見送っていたわたしは、静かに扉を閉めて ため息をついた。

 ───それにしても、とわたしは思う。










 いくら子供だからとはいえ、ここがその店であるということくらい 気づいてくれても良さそうなものではないか。

 ブツブツ言いながら、わたしは 店内を優しい光で照らしていた、火のいらないランプを吹き消した。





 明かりの消えた店に光るのは、ただ月と星ばかりだった。

出典「ある夜の冒険」




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