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メールを受信しました
順番が逆だ、とぼくはいつも怒られた。
「いいか!後悔先に立たず!」 老人は逆上しながら言う。 「物事が起こってからではいかにも遅い、だからこそわしらはいつも後悔するのではないか!」
わからぬかわからぬか、なぜわからぬと口から泡を出しながら怒鳴り散らす老人の剣幕はすさまじく、地獄の閻魔でさえ裸足で逃げ出すのではないかとぼくは震えながら思い、おそるおそる尋ねる。 ……では一体どうすれば?
老人は目を剥き、おそろしい表情で何事かを叫ぶ。だが老人はすっかり興奮しており、なにを口走っているのかぼくにはさっぱりわからない。
と、顔を真っ赤にして老人が杖を振るう。ぴしゃり。ものすごい勢いで振り下ろされた杖はぼくの肩に当たり、ぼくはあまりの痛さに飛び上がる。
「逆だ逆だ、逆なのだ!先んじろ!先んずれば人を制す!」老人はこの世の果てまで届くのではないかと思うほどの大声で絶叫する。「備えあれば憂いなし!」
こうした狂人のもとでぼくは育てられた。
環境が人を作る。いつもいつも、何から何までではないにしてもだ。
ぼくたちのある部分は育った環境の力によって捻じ曲がり、独特の魂を形作るのだ。ではぼくはどのように捻じ曲がったのか。
答えは 「老人の教えの通りに」 だ。
ぼくは物事に先んじる癖がついてしまった──それはもう、病的なほどに。ぼくは飯を作る前になにかを口にし、鏡をのぞく前に髪を整え、病気になる前に薬を飲む。映画や芝居は見終わる前に席を立ち、目的地に着く前に電車を降りる。会う約束をする前に会う、怒られる前に怒る。万事、この調子だ。
こういった偏執的な行為こそが大いなる無駄、自分を苦しめるだけの行動に過ぎず、本来それをこそ避けるつもりであった後悔、まさにそれを生み出すだけの意味しかないことに自分でも気づいてはいるのだが、ぼくが苦心してその衝動を押さえ込もうとしても、頭の中に物凄い形相でぼくに向かってわめき散らすあの老人の顔が浮かんでは消え、ぼくはどうしてもこの性癖を改めることができずにいる──。
さて、話はこれで終わりだ。
なるほど、このままでは、一人の男の奇癖と、それにまつわる過去が簡単に紹介されただけで、わざわざ手間をかけ、貴重な時間を割いて感想(やなにか他のもの)を送ってくれた人に対して、この上さらに読むことを強いるほどの内容ではないかもしれない。 だが、それは違う。
このことをあなたに、他ならぬあなたに話しておく意味はあるのだ。
というのも、つまりぼくがもうあなたのメールに対する返事を出してしまったというおかしな状況を説明し納得してもらうために、この話をしておくことがどうしても必要だったからだ。ぼくはまた先走ってしまった。あなたからのメールを受け取る前に、感謝のメールを返信してしまったのだ。
でも、1通の手紙に対して2通も返事を書くなんてちょっとおかしなことだし、さっき告白したようにぼくは物事が終わった後に行動を起こすことができないので、今からあなたに返事を書くというようなことは──ぼくだって本当はそうしたいのだけれども──できない。
そしてぼくが出した返事だけれど、もちろん、それが送られてくるまではあなたがどこの誰だかわからなかったので正しい宛先を書けるはずもない。
そんなわけで、あなたのところにはぼくからの返事が届かないかもしれない。届かないかも、というか届いてないかもしれない。でも安心してほしい。それは実に心のこもった、あなたに対するぼくの感謝を存分に伝える内容だったはずだし、ひょっとしたらちゃんとあなたのところにそれが届いているという可能性もないわけじゃないからだ。それに、今ここできちんと、その、ぼくが送った返信の内容を簡潔にまとめてあなたに伝えればいいのだということに気づいたからだ。
メールを送ってくれて、本当にありがとう!
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