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「おまえはこのことを知っているのかもしれないし」 男はゆっくりと語り出した。 「ひょっとしたら前に聞かせたことがあるかもしれないんだが」
暗闇と静寂と──ただそれだけが支配する、狭く湿った地下墳墓の一室で、彼は端正な顔に深い苦悩の表情を浮かべ、ポツリ、ポツリと言葉を重ねる。
男の声は低いがよく通り、この何千という死体の眠る広大な墓、そのおびただしい数の棺へと吸い込まれるかのように、ひっそりと湿った風に乗り、暗闇に溶けてゆく。
「──おれは貧しい家庭に育った。おれの父親には職がなかったから、仲間と一緒に町の外の地下墳墓に潜っては、埋葬品や装飾品などを奪ってくることで金を稼いでた。要するに墓荒らしだな。 最低の犯罪だ。クズのやることさ。
「だがそれでおれだって食わせてもらってたから、文句が言えるはずもない。 もちろん褒められたことじゃないさ。だけどなにをやってでも稼がなきゃ死んじまう。そういう時代だったんだ」
「ある日のことだ。いつものように親父とその仲間たちはスコップやらつるはしやらを担いで、あのくそったれの墓場の中に入っていった──そして、それっきり出てこなかったんだ。親父だけじゃない、潜った連中全員がだ」
「誰もが神罰が下ったんだ、と言った。おれたち家族でさえそう思ったよ。他にも、高価な品の取り合いになって殺し合ったんじゃないかとか、地下にガスが溜まっていて、それにやられたんじゃないかとか、いいかげんな憶測が飛び交った。
「そして、それからちょうど一週間後に、親父と一緒に潜った連中のうちの一人が地下墳墓の入口に倒れているところを発見されたんだ」
「しかしその姿は実に奇妙なものだった。なんでそんなことになったのかはわからない。本当に神罰が下ったのかもしれんし、なにやら妖しげな呪いにかかったのかもしれん。なんにしても、そいつからなにかを聞き出すことはできなかった。すっかり頭がおかしくなってしまっていたからな。
「自分の身に起きた変化がよっぽどショックだったんだろう、そのままわけの分からないことばかりぶつぶつ呟いて、一月も経たないうちに死んじまった」
「だがそいつがおかしくなっちまう理由もわからないわけじゃない。なぜって、おれが今まさに同じ状態になって、しかも気が狂っちまいそうだからな」
男はそう言うと、隣に並んだもう一つの頭のほうに顔を向けた。実際、゛その姿は実に奇妙なものだった"。男の体からは2つの首が生え、それぞれの上にそっくり同じ顔が乗っている。男は、男と顔を見合わせて弱々しく微笑むと、言った。
「その話はもちろん知っていたし」 もう1人の男はゆっくりと語り出した。 「聞くのもこれで5度目なんだが、まあいいさ」
部屋にただ一つだけ灯された小さな明かりは揺らめき、男をゆらゆらと照らし出した。彼らはしばらく黙りこくっていたが、やがてその四つの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙をこぼして独り静かに泣き始めた。 男は泣きながら呻いた。
「どうしてこんなことになっちまったんだろうなあ。おまえ、覚えてるかい、どうしておれたちがこんな姿になって、よりによってこんな場所にいるのかを、さ」
男は、やはり呻きながら答える。
「おまえが覚えてないのにおれが覚えてるはずないさ。だが思うに、これが地獄ってやつなんじゃないのかね。おれたちは今までずいぶんとひどい事をしてきたからなあ。いつかはこういうことになるんじゃないかと思ってたよ」
男は再びさめざめと泣きはじめた。そうやって彼らは長いこと泣き続けていたが、やがて一人は気を取り直したらしく、鼻をすすって涙をぬぐい、未だ泣き止まぬもう一人の自分に向かって優しく声をかけた。
「おい、なあ。いつまでもめそめそしてたって仕方がないぜ。 どうだ、なにか話をしてくれないか。話をしていれば少しは気が紛れるし、話を聞いているうちに、この悪夢から目が覚めるかもしれないからな。
「だから、なにか聞かせてくれ。 ──そうだな、おれたちと同じような姿になってしまった男の話があったろう。あの話をしてくれよ」
「いや、もちろん話の内容は知っているし」 男は少し笑みを浮かべながら言う。 「聞くのも聞かせるのもこれがはじめてってわけじゃないがね」
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