この小説は実際に行われたアクトを元にしていますが、ただの読み物ですのでプレイの参考にはならないと思います。

 それでもいいと言うのでしたら、内容は
←こんなのですが、ごゆっくりお楽しみください。


その日も、いつもと変わらない夕暮れだった。薄曇りの空が段々と暗くなろうとしている。その中を僕は一人家路についていた。

 僕の名前は伊東俊夫。とある理由から数年間勤めた会社を辞めて、今はフリーのカブト、つまり日雇いのボディーガード、として生活している。勤めていた頃に比べると仕事も少なく、暇も多い。だからこのごろは友人の剣術道場に行って腕がなまらないよう相手をしてもらっている。今日もそうやって一日が終わり、あとは特に何事もなく家に帰って寝るだけだと思っていた…

 

LEADING ACTOR
HANDLE 伊東 俊夫 Toshio Ito
POST フリーランス
STYLEZ カブト◎ フェイト● カタナ
AJ 24 BIRTHDAY 6/18
JENDER EYEZ BROWN
HEIT 185cm HAIR BROWN
WEIT 96kg SKIN YELLOW

 ふと前方が騒がしくなったかと思うと、路地から一人の少女と、それに続いて数人の黒服の男達が飛び出してきた。少女は僕の姿を見ると男達から隠れるように僕の後ろへと回りこみ、男達は少女を逃がすまいと僕と少女を取り囲んだ。

「その少女を我々に渡してもらおう。」
男達の一人が、前に進み出て言った。

「大のおとなが多人数で一人の女の子を追いかけ回すとは感心できないな。」
僕はそう答えてから、おびえた表情で男達を見据えながら僕の服をつかんでいる少女に尋ねた。
「君、何か悪い事でもしたのかい?」
もちろん少女は首を横に振る。

「きちんとした理由がなければ彼女は渡せない。彼女が何をしたって言うんだ?」
「お前が知る必要はない。」

僕の心は決まった。護身用に持ってきたクリスタル・ウォール・シールドを構え、少女の腕をつかんで包囲網の突破にかかった。男達はこのような事態を想定していなかったのか、僕が思っていたより簡単に突破できてそのまま逃げ去る事ができた。



 とりあえず仕事用の事務所に戻ってきた。彼女はだいぶ落ち着きを取り戻してきたようだが、まだ不安そうな表情をしている。僕は暖かい飲み物を差し出して、

「もう大丈夫、あの男達は追いかけてこないよ。もし来たとしても僕が君を護ってあげるよ。」
と言ってあげた。すると彼女はようやく安心したのか、ふわっと表情が和らいだ。

 見た感じ年齢は14・5歳、透き通るような白い肌、ゆったりとした金髪、深く、鮮やかな碧眼。僕は女の事はよく分からないが、多分美少女の部類に入るのだろう。それでも、微笑んだ彼女がとてもかわいらしいということだけは僕にも分かった。
…いつまでも見とれているのは止めて、一体何があったのか聞いてみなければなるまい。

「ねえ君、名前は?」
「…ノイエ。」
「僕は俊夫。伊東俊夫っていうんだ。」
「…トシオ?」
「ああ。」

…色々と聞いてみたところ、彼女はどこかの研究員の娘で家を飛び出してきたらしい。そんなこんなしている間に時間が経ってしまった。ホームセキュリティ兼パソコンの、DAKが6時を告げる。

「もう暗くなるし、家まで送ろうか?」
「…いや。帰りたくない。」

完全な家出だ。
彼女は身一つで飛び出してきたらしく、身分を示すものを何も持っていない。彼女に帰る気がなければ送ってやるべき家がどこにあるか分からない。どうしたものかと考えていると突然、ガシャンという音とともに握りこぶし大の物が部屋に転がり込んできた。
…爆弾だ!!
僕はノイエを引っ張って事務所の外へ飛び出した!
間一髪、僕たちの後ろで爆音とともに事務所であるマンションの一室は吹き飛んだ…



 数分後、数ある警察の中で唯一の公的団体であるブラックハウンドのイヌが駆けつけてきてくれた。そして今忙しそうに後処理と捜索をしてくれている。僕は震えるノイエをなだめながら、手際良く処理を進めていくイヌ達を数人の野次馬とともに眺めていた。
 突然人の近づく気配に気付いて後ろを振り返ると、無個性な黒のビジネススーツに表情を隠すサングラスといった、いかにもクグツ風の男が一人立っていた。黒服の男なんてどこにでもいるので夕方の男達と関係があるのかどうかは分からない。とにかくそいつの相手をするつもりはないので、

「もし仕事の依頼に来たんだったらまた今度にしてくれないか?今忙しいんだが。」
だが男はそんな事を気にもしない様子で、

「私はイワサキの者です。あなたに護衛の依頼をしたい。」
と言い出してきた。そしてノイエを指差して、
「彼女を我が社の営業所まで連れてきていただきたい。報酬はプラチナム1枚、前金はシルバー3枚でいかがですか?」

僕は一瞬、自分の耳を疑った。人の護衛でこの値段は普通じゃない高さだ。彼女の親がよっぽど重要な人物なのか、あるいは彼女自身にそれほどの価値があるのか…。どちらにせよ報酬と今までの事を考えればかなり危険ではあるがこれだけ関わったのだから受けるしかないだろう。
 まあ最初にノイエを助けた時から面倒事に巻き込まれるのは百も承知だったし、一度護った相手が安全なところにいくまで護ってやるのはカブトとして当然の事だ。それに仕事を受けて金を稼がない事には生きていけない。

「分かりました。無事送り届けましょう。」
「ではよろしくお願いします。」

前金を受け取り、まだ作業をしているイヌのトップとおぼしき人に連絡先を伝えて僕はノイエを連れて自宅へと向かった。

 

KEY PERSON
HANDLE ノイエ Noie
AJ 14 BIRTHDAY
JENDER EYEZ BLUE
HEIT 148cm HAIR GOLD
WEIT ?kg SKIN WHOITE

 よほど疲れていたのか、ベッドを貸し与えるとノイエはすぐ眠ってしまった。…イワサキは超巨大企業だ。無事連れて行ければ誰も手は出せないだろう。彼女は嫌がるかもしれないがこんな所で危険にさらされるよりはもといた場所に戻る方がいいに決まっている。それまでは、僕がなんとしても護り抜かなくては。
 襲ってくるであろう敵は、金もうけのネタを手に入れたチンピラから他の企業の者までさまざまであろう。僕は壁に立てかけてあるウォールと、右腕のオメガREDの具合を確かめた。ウォールは、もちろん彼女と自分を護る為の盾だ。オメガREDとは腕に埋め込む機械の鞭で、振動によって巻きついた相手をズタズタに切り裂く強力な武器だ。最長で5mほどになるが、振動している間は柔軟性を失うので1m程度の長さにすれば剣として扱うこともできる。違法物品ではあるがこれで、昔は会社の為に、今は依頼人の為に何人もの敵を倒してきた。
 だが、それもいつまで続くかは分からない。僕より強い奴はいくらでもいる。戦っている限りいつだって死とは隣り合わせだ。今回の仕事で死ぬことだって当然ありうるのだ。だけど、護るべき相手を目の前で殺されるよりはマシである。彼女だけはきちんと護り抜いてみせる。
 僕はベッドで安らかな寝息を立てているノイエの髪をそっとなでてから床に横たわった。



 次の日、昨日の爆破事件担当となった岸田さんという、連絡先を伝えたイヌが事情徴収にやってきた。ノイエはこんな殺風景な家のどこがいいのか、あちらこちらを興味深そうに見て回っている。

「まだ犯人は分かっていないんでしょうか?」
「ええ、、残念ながらまだ…。ところでこのような目に遭う心当たりは何かありませんか?」

…無いと言えば嘘になる。どう言おうか一瞬迷った。だが相手はブラックハウンドのイヌである。似ても似つかない制服を着てはいるが黄金の犬のバッチだけは本物だ。どこかの会社に属しているわけではないのだし、本当の事を言ってもかまわないだろう。僕はノイエを黒服の男達から保護した事とイワサキの営業所まで護衛の依頼を受けた事を話した。

 岸田さんはノイエに聞き込みを始めたので、それを聞きながら僕は最近のイワサキ、特に新製品の開発について調べた。どうやらイワサキはバイオトロンの研究をしているらしい。バイオトロンとは、生体内に部品を埋め込むことによって埋め込まれた生体が一つのトロンとして機能する、いわゆる生きたトロンである。当然そのようなものは存在自体が許されざるものである。…一つの嫌な想像が頭をよぎった。その時、僕の耳にノイエの声が割り込んできた。

「だって、研究所の人たちあたしをベッドにねかせて体のあちこちに痛い事するんだもの。」

…もしかしたらノイエは実験体なのかもしれない。もしそうだったら連れていっても平和で幸せな生活が送れるとは思えない…だが仕事は仕事だ。余計な事を知ると口封じの為に処分されるかもしれない。僕はこれ以上考えるのを止めた。

「岸田さん、もしよろしければしばらくの間ごいっしょしていただけませんか?犯人のねらいがノイエだったら再び現れるかもしれません。その時捕まえて聞き出したらどうでしょう。」
「それが手っ取り早いかもしれませんね。応援を呼びますので少し待っててください。」

到着の連絡が入るまで待ってから、僕たち3人は動き始めた。路上に2台のリムジンと1台のセダンが止まっているのが見える。よこしてもらった車はリムジンらしいから残りの2台は僕たちの行く手を阻む者の車かもしれないし、そうでないかもしれない。どちらにせよ急ぐに越した事はない。が、横から近づいてきた男に呼びとめられてしまった。

「伊東さんですね?」

やはりクグツ風の男ではあるが、目はズールックという、目の機能を大幅に強化するリーサルウェアに変えられており、ただの人間には見えない。

「そうですけど、今仕事中なのでまた今度にしてください。」
「私はあなたに依頼をした方の者です。少々お聞きしたい事があるのですが。」

僕は必死に記憶の糸をたぐった。…思い出した!やはりこいつはイワサキの人間じゃない、チハヤの人間だ。勤めていたころに見たことがある。たとえ元勤めていた会社であっても今回の仕事中、イワサキ以外は全て敵だ。それに僕はあの会社に金以外の物で何かをする義理はもう持ち合わせていない。

「聞きたいことがあるならそちらの上司に聞けばいいでしょう?」
男の相手をしないことにして、前で待っている岸田さんに追いつこうとした。

「チッ、ばれちまったか。」

銃を構える音と共に殺気が膨れ上がる!
僕はとっさにウォールを構え、ノイエを先に行かせた。最初の弾をやり過ごしながら、僕は激しく後悔していた。襲われると分かっていながらどうして武器の方も準備していなかったのだろう!僕の右腕はまだカムフラージュ用の手袋で覆われたままだ。
 何とか弾に当たらないようにしながらリムジンまで走ると、ノイエが岸田さんに引っ張られて乗りこむのが見えた。リムジンの陰でもう一発弾が飛んでくるのをしのいで僕も乗り込んだ。
これでもう大丈夫だろう、この手の車には防弾加工が十分にしてあるはずだ。しかし、いやな予感がして思わず身をそらすと背中に鋭い痛みが走った。なんて奴だ!この装甲を貫けるなんて、奴は相当腕のいいカブトワリのようだ。だが、発進さえしてしまえばこちらのものだ。この車の持ち主らしい、身なりのいい男が運転手に発進を命令している。
 何とかなりそうだと思ったのも束の間、とんでもない事が起こった。車の下の地面が裂け、大口をあけたのだ!
呑まれる!
僕達は車ごと地割れの中へ…呑まれなかった。下に地面はないはずなのに窓からはさっきまでと同じ景色が見える。

「こんな事もあろうかとホバーに切りかえられるよう改造しておいたのですよ。」

車の持ち主がこともなげに説明する。彼が車の改造の技術を持っているのは分かったが、どうやったらこんな事態を想定できるんだろう。やはり技術者とか研究員とかいう人の考えは僕には理解できない。しかしそれによって救われたのは確かだ。僕はこの男の気まぐれに感謝しながら運転手の方に目を移した。
 その瞬間、僕たちの間に絶望感が広がった。頼みの運転手が撃たれたのだ!何の戦闘訓練も受けていない人がカブトワリに狙われてはひとたまりもない。向こうも僕たちを逃がすまいと必死だ。
 だが、こんなところで諦めてたまるか、やれるだけの事はやってやる。僕は運転手の変わりに運転席へ滑りこんだ。幸運な事に僕がつけているオートマンにはヴィークルのチップがささっている。今の僕にはプロ並みの運転ができるはずだ。チップから流れてくる情報にしたがって車を動かす手順をとる。
…エンジンがかからない、あせって間違えたのか、それとも何度も撃たれて車が故障したのだろうか。

「故障は何とかするから君は動かす事に専念しなさい。」

持ち主にそう言われて、僕は気を取り直してもう一度同じ手順を繰り返した。
 …かかった!車は低いエンジン音を響かせながら滑らかに走り出した。これで逃げられると思ったが、奴が隣に止まっていたセダンに乗りこむのが見えた。まだまだ逃がしてはくれないようだ…



 僕たちの車を追ってくるのは2台、一つはもちろんセダンだ。もう一つはいっしょに止まっていたリムジンだ。連携は取れていないので別の会社の者だろう。
 僕はできる限り車をとばした。車の中では岸田さんがノイエをかばうように座っていて、持ち主の男は車の調子を見ながら追手達の車を観察している。ルームミラーをのぞくと、鏡越しに僕をじっと見つめているノイエが鏡の隅に映っていた。カブトの名にかけて無事に連れて行ってみせる!僕はそう、心に誓った。
 2台の車は追跡の手をゆるめてくれる様子はない。どうしたものかと考えていると、

「まずリムジンの方にぶつけてやりなさい。向こうの運転手は一般人だからすぐに追いつけなくなるでしょう。」

とアドバイスがあった。言われた通りにすると相手のリムジンは見る間に後ろへと消えていった。この車の持ち主、パックキングといって壊れたものなどを修理して売りさばいているらしい、は見た感じ一癖も二癖も有りそうな人だが言うことは確かなようだ。さて、問題のセダンの方はれっきとしたカゼが操っているようだ。この付け焼き刃みたいなもので本物に勝てるかどうか不安がよぎる。

「この車ならそう簡単には壊れませんし、多少の事なら何とかするので強気にぶつけてやりなさい。」
心強い言葉を受けて、真っ向から勝負することにした。

 今回ほど、リムジンの硬さを実感したことはなかったし、オートマンをつけていてよかったと思ったことはなかった。カブトワリの弾はほとんど車を傷付けてはいないし、運転の技術も向こうに引けを取らない。
 さらに、幸運の女神は僕たちに味方してくれたようだ。相手の車が対向車をよけてバランスを崩したすきに2・3度ぶつけてやるとスピードが落ちて僕たちの車からだんだんと離れてゆき、そして見えなくなった。
 僕は鏡越しにノイエに微笑みかけ、まだ見えない目的地へと急いだ。



 車をとばしながら、僕は自分が会社を辞めることになったきっかけを思い出していた。あそこはいい会社だった。気前のいい上司がいたし、成果を上げれば十分に評価してもらえたし。色々な面から見ても全てをささげて忠誠を誓うに値した会社だった。あの時までは。
 …僕の目の前で崩れ落ちる友人、斬ったのは自社の関係者だ。災いを未然に防ぐ為に、有無を言わせず斬り伏せられた。僕はすぐそばにいながら指一本動かすことすらできなかった。
 こうなることを回避する手段はあったはずなのに気付かなかったこと、目の前にいながら護れなかったこと、確かに疑いはかかっていたもののいきなり殺すという手段をとったあいつ、それでも仕事を優先しなければならない会社、全てが嫌になった。だから僕は会社を辞め、自分で護ろうと思ったものだけは護りきろうと誓ったのだ。

 もうすぐ営業所につく。最後の障害があるとしたら、それは車を降りた時だろう。あと少しだが冷静に、気を引き締めていこう。そう心の中でつぶやいた。



 イワサキのビルの前に車を止めると、さっきの二人が立ちはばかるように立っている。さすがカゼ、N◎VA内の交通網を知り尽くしているだけあって何らかの手で先回りをしたのだろう。二人共形は違うが大型の銃を構えている。カブトワリの実力は既に立証済みだし、カゼの方も油断できない。僕は車から降りて彼らに言った。

「そこをどけ。どかないのなら斬るぞ!」

もちろん武器を構えてである。同じ失敗はそう何回も繰り返したくない。岸田さんも横に控えていて、数では2対2で対等である。だが、岸田さんはあまり戦うのが得意ではないそうだ。だからといって僕一人で突っ込んでいって間合いを詰める前に蜂の巣にされるわけにもいかないし…どうやら向こうの方も、僕たち二人共がウォールを構えているせいか攻めあぐねているらしい。
…沈黙が流れた。そしてその沈黙を破ったのは女性の声だった。

「お願い!その娘をイワサキに渡さないで!」

その声は僕たちの斜め後ろから飛んできた。パックキングさんの車の隣にもう一台リムジンが止まっており、そこから降りてきた女性が叫んだのだ。たぶん僕の自宅から追いかけてきていたのだろうが今はそんなことを気にしている場合ではない。とりあえず特に武器を構えていない彼女は放って置いて前の二人に視線を戻した。
!僕は自分の目を疑った。何とノイエがパックキングさんに連れられてイワサキのビルに向かって走っているのだ。銃を構えた二人が陣取っているにもかかわらず!

「危ない、ノイエ!」

こうなっては仕方がない。たとえこの身が蜂の巣になっても彼女たちのところまでいって護るしかないのだ。どうか間に合ってくれ!そう祈りながら僕は全力で駆け出した。
僕が駆けてくるのを見てカゼは、

「今日は見逃してやる、覚えとけよ!」
とだけ言って、一瞬にして消え去ってしまった。

賢明な判断だろう。僕はこの一太刀でどちらか一人は殺すつもりなのだから。僕は残ったカブトワリの方に目を移した。多勢に無勢だと悟ったのか、彼は「ちっ」と悔しそうに舌打ちをして道を開けた。
 まあ今回は倒すことが目的ではないのだから、あとは動きにだけ注意しておけばいいだろう。僕はノイエの元に駆け寄るだけにして、構えた右腕をおろした。
 リムジンから出てきた女性の方は、どこの会社かは分からないがエグゼクといった感じだ。どうやら部下は連れてきていないし武器も持っていないようだ。彼女一人ならば何かする前に対処できる自信がある。彼女も放っておいてよいだろう。

 ようやくこれで全ての障害を取り除けた。あとは目の前のビルまでノイエを連れて行くだけだ、と思っていたら岸田さんが、僕が聞かないでおこうと思っていたことをノイエに聞いてしまった。

「君は一体何者なんだい?」

頭の奥に押し込めた、嫌な考えが再びうごめき出した。僕はノイエが「分からない」とか「言いたくない」と答えるのを期待したが、岸田さんの気迫に押されたのか、彼女は全てを話し出した。

 …聞かなければよかった。やはり思った通りだった。ノイエはイワサキが開発中のバイオトロンそのものだったのだ。その時、後ろで見ていたエグゼクが口を開いた。

「バイオトロンは存在そのものが違法です。この世にあってはならないものです。さあそれを破壊してしまいなさい。」

僕はそのエグゼクの言葉に操られるようにノイエを見た。彼女は、昨日の夕方、黒服の男達に向けたようなおびえた表情で僕を見上げている。
…いくらこの世にあってはならないものだとしても、僕に殺せるわけが無い。それに、彼女を無事にビルの中まで連れて行くのが僕の仕事だ。

「たとえ違法であっても僕には護るべき者を殺すことはできません。」

僕はノイエの手を取ってビルへと歩き出した。エグゼクの女性は諦めたらしく、自分の車の方へ歩いていった。岸田さん達もここで別れるようだ。

「イワサキが何を開発しているかも分かりましたので我々は帰ります。爆破事件の方の犯人も、見つかったらお知らせしますね。見つからなかったとしても壊れた事務所だけは何とかしますのでご安心ください。」
そう言い残して去っていった。
僕は仕事を終わらせるべく、重い足取りでビルの入口をくぐった。



 ノイエを連れてきた僕を、一人の男が出迎えてくれた。
「試作品bXを無事連れてきてくださりありがとうございました。約束の報酬です、お受け取りください。」

僕は残り7枚のシルバーを受け取り、ノイエを引き渡しながら尋ねた。
「一つだけ聞かせてください。ノイエは今後人間として、平和で安全に暮らしていけるのでしょうか?」
答えは分かりきっていたが、それでも聞かずにはいられなかった。

「安全に、は保証しますが人間として、というのは無理ですね。彼女は実験体ですから。これ以上はあなたの知ることではありません、お引き取りください。」

彼女はこれからずっとデータを取る為だけのものとして扱われるだろう。そのようなことは利益を出す為にはどこの会社だってやっていることだし、僕一人の力でどうにかなるものではない。ここから立ち去って、この後味の悪い仕事にピリオドを打つしかないのだ。

「トシオー!」

僕は助けを求めるノイエに背を向けて立ち去ろうとした。が、その時また、友人が殺されるシーンとその事に対する後悔の念が頭の中を駆け巡った。

あの時は護れなかった。でも今回は自分から護らないのか?

 後ろを振り返るとノイエが男に引っ張られて、奥へ連れていかれようとしている。…今ならまだ間に合う!ここで彼女を見捨てたら僕の後悔はさらに深まるだけだ。
 彼女を護ろう!
そう決めたら僕の動きは速かった。一瞬で男を切り捨て、ノイエを連れてビルから飛び出した。
後ろで警報が鳴り響いて人の声が飛び交っていたが恐くも何ともなかった。相手が強大な力を持つ超巨大企業でも関係ない。どこか、外国でもどこでもいいから手の届かないところまで逃げ切ってやる。どんなに追手が来ても倒してみせる。

僕は、必ず彼女を護り抜いてみせる!!

僕がつかんでいるノイエの腕はとても華奢で折れてしまいそうだけれども、とても暖かかった。



…イワサキのバイオトロンを奪って伊東俊夫はN◎VAから姿を消した。その後彼をN◎VA内で見た者は誰もいない……


後書きという名のたわごと

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