読書案内:持駒使用の謎

現在は関西将棋会館の将棋博物館の館長である木村九段が、将棋専門誌に連載した記事を増補改定したものです。

興福寺からの出土した11世紀の駒が持駒あり向けであったことを軸にして。世界各地の将棋・チェス類似のゲームの伝播や変化とその理由から、日本の現在の将棋がいかにして形成されたかを、最新資料を駆使して論じています。

ビッグチェスなどと呼ばれる駒数の多い巨大ゲームは、技量が上がると勝敗がつかなくなることへの対策として、良く行なわれてきたこと。そしてそののち、ゲームシステムを改善するというのが主流になるあたりは、たいへん興味深いものです。ウォーゲームでもビッグゲームが一時期ありましたが、ああいうのは普遍的なんですね。

玉にあたる駒の行動を制限して詰みやすくするか、駒の移動力をあげて局面の変化がつきやすくするのが正道だったようですが、日本では持駒として再利用できることにすることで局面の多様化と展開の緊張感・スピード感をもたらしたようです。対策としてわずかだがなかなか思いつかないアイデアを投入するだけで、優れたゲームができあがるあたりが、わくわくします。

チェスでは桂馬に相当するナイトのが八方向に移動できますし、金将に相当するクイーンが飛車+角行の動き、銀将に相当するビショップが角行の動きで、香車に相当するルークは飛車の動きです。このような変化は、幾度かに渡って蓄積されたものですが、日本将棋は移動力のおとなしい古いスタイルのまま、持駒という別の解決策をとったとの見解です。

しかし一勝負に二時間半ほどかかるだろう百三十枚大将棋は「のんびりしていた昔の人とはいえ、時間がかかりすぎる」とか書かれてしまっていたり。まあ、こういう洗練されたアブストラクトゲームと比べると、盤面が広く複雑なゲームってのは、先祖返りなんだなと思ったりもします。

チェスや将棋がいかに洗練されていったのかが良くわかり、大変勉強になりますね。「一手差で勝負が決まる」ということ自体が、すごいんですね。

書誌情報
日本将棋連盟『持駒使用の謎 日本将棋の起源』木村義徳 ISBN4-8197-0067-7 本体価格2000円 四六判ハードカバー310ページ 2001年03月発売
語り部日報掲載日
2001/06/09
文責
sfこと古谷俊一
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