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都市といえば風呂が付き物。それが西アジアのシュメール以来の伝統です。日本よりはるかに古くから大いに発展してきた風呂の文化を受け継いだイスラム文化圏の公衆浴場を、多面的に解説した楽しい本です。
目次と内容は以下の通りです。
トルコの公衆浴場と温泉の歴史。
シュメール以来の風呂文化について、文献資料と遺跡・遺物を元に紹介。
この遺跡地図はTRPG的にも興味深いんじゃないかなと思います。ヨーロッパと中国・日本以外の建造物の地図などは、あまり見かけませんしね。
イスラム以前から現代までの風呂とその入浴方法の詳細な手順を解説。風呂に入るための小道具類なども写真つきで解説され、情景が良く理解できます。
イスラム法における浴場がどのような位置づけにあるのかについての解説。浴場を持たない地域で生まれ、悪魔の住処的に捕らえていたイスラム教。それが浴場を健康のために必要とする地域への普及とともに、いかに解釈により対応してきたか、というのが興味深いところです。
アブドウッラー・ラシード『1978年から1948年までの、アンマン市における庶民生活の諸特徴』第六章第五節「公衆浴場」の全訳。
当時の公衆浴場の慣習、結婚式のときの機能、喧嘩、医療行為などについて書かれています。男は風呂場で喧嘩しないのね。
風呂屋を舞台にした小説「ハンマーム・マラーティーリー」の紹介。映画化もされているそうです。
12世紀あたりから近代までの書籍から、当時の風呂の社会的位置づけや風習などを考察しています。
北アフリカのチェニスの事例を中心に、ハンマーム(公衆浴場)の都市空間における位置づけ、利用の時間帯、利用方法と入浴具、礼拝と入浴の関係、儀礼に関係した浴場の利用法、浴場関係者とその組合、海水浴や温泉など浴場以外の水浴との違い、などを解説。
図版多数を交えた公衆浴場建築の発達史を中心として、燃料としての糞の意義、水利と浴場、などについても解説されています。
縮尺つきの平面図や屋の構造の理解できる平面図がたくさんあり、これもマップ作成の参考になります。ドーム型だと中庭がなくても採光できるけど、複数階建造物にできないんですね。
イラン西北部の東アゼルバイジャン州の州都タブリーズを例に、都市内共同体街区制度と公衆浴場の関係を分析したものです。タブリーズは17世紀に55万を数えたこともある大都市でした。そのタブリーズの都市構造が破壊される以前、19世紀における精密な地図をもとに、分析が行われています。
後半では、旅行記から入浴頻度などを分析しています。週一くらいなんですな、だいたい。
あまり知らない社会についての書籍では、索引があると便利ですね。
全体として、各章を書いている人が異なることもあり、解釈や認識の違いがいろいろとありますが、それも含めて全体像がつかめます。
日本人は風呂好きだなどといわれますが、なんのその、イスラム圏の人々と比べると歴史も浅い若造ですね。という感じのする一冊です。同じところ、違うところ、詳細に書かれていますので、たいへん興味深く読めますので、お薦めです。