読書案内:動物裁判

犯罪(人殺しや農地荒らしなど)を犯した動物を、通常の裁判制度にのっとって判決を下し、絞首刑する。涜聖を侵した動物や昆虫を、宗教裁判で破門や火刑に処する。12世紀から18世紀のヨーロッパに広く存在した、そのような動物裁判について、事例を紹介し、その背景となる心理を探るという本です。

冒頭、人間の子供を食べてしまった豚のシーンあたりは、たいへん印象深いかと思います。当時の豚は猪に近いですし、猪はたいへん危険な猛獣ですから、理解はできるのですが。そういうシーンがありうるのだ、というあたりにまで、なかなか気が回らないんですよね。

イメージソースとして利用できるものはいろいろありますが。動物による災害の事例、裁判の展開、自然物を破門する概念、自然にたいする認識の推移、あたりは役にたつと思います。

ただまあ、日本では動物裁判的な概念が無かったのだという視点は、すこし調査不足ではないかなとも思いました。人間の持つ法体系により処分する、祭儀体系により悪霊として処理するというのは。実は日本でも蛇神信仰が伊勢などの天皇家系の信仰や仏教により、抑圧され転化されという過程と、同じものな気がするんですよね。急々如律令、ひとつとっても、そうですし。だとすると、筆者の書いているような、ヨーロッパの状況が産んだのは事実としても、それが特殊であるということはないのではなかろうか。裁判という制度を利用するのは、確かに特殊かも知れませんが。

書誌情報
講談社現代新書1019『動物裁判――西洋中世・正義のコスモス』池上俊一 ISBN4-06-149019-2 583円 1990年09月発行
語り部日報掲載日
2000/05/16
文責
sfこと古谷俊一
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