TRPG.NET > 書籍情報 > 読書案内 > 2000年 > 04月 >
人間の意識、世界の認識とはどうなっているのか。それを、脳に機能障害の発生した事例をもとに分析していく、スリリングな内容です。例外的な処理になっている事例から、人間の認知の処理手順を追いかけるというのは、たいへん分かりやすく説得力がありますね。
幻の腕を実在するかのように認識して。動かせる、手でものを持った、感覚がある、と主張する人々。片手が動かないのに、拍手してみせてくれといわれると、ちゃんと手を打ちあわせたと主張する。動かない自分の腕を、これは兄の腕です、と本気で主張する……。そんな"幻肢"とその治療法を中心に、脳の認識する現実と、外部の世界との感覚フィードバックの仕掛けについての分析を行なっています。
そして、その延長として……。肉親をみても自動的に親愛の感情が励起されないことを、本物の肉親ではないと合理化し確信する、ごく良識ある人。視覚障害をもつ多くのひとが、鮮明な幻影をあたりまえのように見るという現実。電気刺激で特定部位を刺激するだけで、神々を知覚するという事実……など。むしろ脳のなかの神々、脳の中の現実、とでも言いたい内容となっています。
人間の知覚と認識が、いかに作り上げられていくか。そして、いかに自分、自我というものが一貫性を取り繕っただけの、ごまかしによって成立している存在であるか。一章一章、わくわくします。
現実がこんなものなら、ちょっとやそっと変わった世界観や概念を出しても、まったく平気な気がして来ますね。認識、意識を利用したSF概念には、まだまだ未開の地が沢山ありそうです。