読書案内:中世大学都市への旅

エッセイ的な書かれかたであり、内容が整理されて網羅的に提示されているとは言いがたいところはありますが、中世ヨーロッパの大学を概観する上では便利な一冊。大学の組織が、人の集団から場所に依存する集団へと変化を遂げて行った過程。大学の組織の変化と役職の推移、学業のあり方の変化などについて記述されています。

この本の中で大学の流れの主軸は、移動する大学から固着する大学へというものだと考えられています。

中世を彩る旅人たちのなかに、学生というものの存在があった12世紀ごろ。いまだ大学という概念が特定の建物に属するものではなく、人間の団体、つまりギルドであった時期には、今風にいえば適当に場所を借りて講義などをする、学問サークルであったわけですね。

それが特定地域にいくつもの建物をバラバラに借りている状態となり、のちには権力者などの後援を得て建物を丸ごと所有できるようになる。そんな中で、官僚の育成のための最高学府の利便性から、給与により教授を都市に永住させるようになり、地方各地にもそれぞれの大学ができるようになっていく。

そうして大学というものが、あちこちの都市をまわり良い先生につこうとすることから発生した独立自尊の存在から、政府のための組織に変化して行くなか、どのように変化して行ったのか、というあたりについて、色々と書かれています。

その過程で出てきた、パトロンによる独自の目標や選抜基準を持つ学寮で、生活費を保証されるかわりに、パトロンの決めた規則や理念に基づき特訓を受けるというような構図は、TRPGで使ってみると面白い環境かも知れません。PC全員が学寮住まいで、みんな寮の規則で厳しく縛られているとか。

ちなみに、大学共通語としてのラテン語の存在意義ってのは、こうしてあちこちから集まった学生が共通の言葉で学問を納めるために必要とされたという側面があったわけですね。だからのちに地方ごとの大学が重視されるようになるとは、あまり流行らなくなったわけなんでしょうね。

あと、我々の想定するようなキャンパス、塀で囲まれたひとかたまりの建物が誕生するのはアメリカにおいてであるという話も、けっこう興味を引きました。

書誌情報
朝日選書453『中世大学都市への旅』横尾壮英 ISBN4-02-259553-1 本体価格1165円
語り部日報掲載日
1998/12/30
文責
sfこと古谷俊一
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