読書案内:大江戸泉光院旅日記

江戸時代末、1812年から1818年にかけて、ほぼ日本全国を、徒歩で托鉢しながら旅をした老山伏の残した『日本九峰修行日記』。その日記をもとにして、旅程を現在の地名と勘案しつつ、当時の庶民の生活を追っているのが、この本です。

執筆者の山伏は出発当時。皇族の居る寺院の直下の地位にある寺院の住職で、大先達という高位の山伏として日向一国の山伏を支配するという階級であったばかりか、佐土原の島津家の縁者として禄も受けており、佐土原では弓術の指導などもしていたという人物であります。なんというか、ゲームのパラメータで表現しようとするとえらく強そうな人物ですな。

そして『日本九峰修行日記』の興味深いところは、そのような有能な人物が、貧しい人々の間を托鉢修行をしていった記録の中から、当時の一般の人々、とくに農民の生活の一端がうかがえるというあたりにある……ということでありまして。この本では、旅の経路を現在の地名と照らし合わせつつ、当時の一般の生活を浮き彫りにしようという主旨で書かれております。

藩ごとに国境警備体制がまるで違うこと、旅行者がかなり多いこと、このような旅の修行者から教養や武術・呪術などを教授してもらう機会があったということ(なにかRQなどでの訓練の教師を思い起こさせますな)、貧しい地域の方が托鉢してもらいが多いこと、詩歌や教養が広く普及していたこと、などなど興味深い事実が書かれており、当時を舞台とした話を考える上ではいろいろと参考になります。なにせ、都市部……それも江戸以外の場所の生活については、ほとんど書かれている本がありませんからね。

書誌情報
講談社文庫『大江戸泉光院旅日記』石川英輔 ISBN4-06-263519-4 本体価格600円 1997年五月発行
語り部日報掲載日
1998/11/29
文責
sfこと古谷俊一
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