読書案内:裏側からみた都市

裏側……といっても、裏稼業から見たというわけではありません。この本では、都市を支える廃棄物処理システムの歴史的な経緯をたどり、いかにして下水道やゴミ処理が確立されていったか……もしくは確立されなかったのかを描いております。

中世都市が非常に汚い……ありていに言って汚物にまみれた状態であったことは、わりと有名になってますね。道路には汚物やゴミが放置・投擲され、町中を豚などの動物が闊歩する……。しかしまあ、これはヨーロッパの中世都市に特有だったというわけでもないようです。イタリアなどの諸都市はローマ以来の下水道システムと清掃の習慣から、またドイツの小都市も(たぶん見栄の張り合いから)清掃の努力をしていたようです。

そして、この本では中世都市に匹敵・凌駕しさえするような劣悪な状態の都市も紹介されています。ギリシャの栄光はなやかなりし時期のアテネ、産業革命後のロンドンです。

アテネでは都市計画は皆無に等しく、誰もが小さな家に住み、自宅があまりにも不快なので、公共施設に出かけて議論や政治・哲学に没頭するしかないような状態だったらしいとか。入念な考古学的調査の結果、ついにトイレの形跡発見できなかったアテネでは、どうやら家と家との間が便所かつゴミ捨て場となっていたとか。まあ、これではヨーロッパ最初の伝染病による大量死を経験したのもむべなるかな、というところですか。

19世紀のイギリス……特にロンドンははさらに凄まじいありさま。街路は厚さ一フィート(30cm)もの柔らかい汚物で被われ、生活廃水は溜まったまま水が蒸発するのを待つありさま。工業排水と煤煙に被われた当時のロンドンは人間の住むべき環境とはいえないものだったようで、ボーア戦争時(1900年ごろ)の徴兵検査で、4割の若者が廃人同様と診断されたとか。サイバーパンクの光景を地で行っている……いやもっと悲惨ですかね。

とりあえず目につく悲惨な状況だけでなく、インダスやローマ初期などの高度に発達した下水道システムなどについても、しっかりと紹介されています。

書誌情報
NHKブックス415『裏側からみた都市 生活史的に』川添登 ISBN4-14-001415-6 1982年06月発売
語り部日報掲載日
1998/07/01
文責
sfこと古谷俊一
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