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Date: Mon, 05 Jan 1998 11:10:33 +0900
From: "E.N." <nakazono@ss.ffpri.affrc.go.jp>
Subject: [KATARIBE 8228] HA06:EP:「除夜の鐘」
Sender: owner-KATARIBE@teleway.ne.jp
To: KATARIBE@teleway.ne.jp
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こんにちは、いー・あーるです。
書き溜めEPそのさん、でございます。
里帰りした時に、よく考えりゃ、こいつがいたんだな、という事で。
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EP 「除夜の鐘」
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大晦日。
花澄達は夜遅く、祖母の家から実家に戻ってくる。
それを待ちわびている一名。
譲羽 :「ぢ(……花澄い)」
年末一人でお留守番は余りに可哀相、ということでは、兄妹とも意見が一致した。
で、袋に入れて押し入れの天袋に隠しておけ、というのが
兄上の指示だったりする。
譲羽 :「……ぢい(……花澄ぃ……)」
クリスマスに貰ったサンタの格好のクマさんと、赤いミトンをはめた羊を
譲羽はしっかり抱え込んでいる。
灯り無しじゃ怖いわよね、と、花澄が懐中電灯を持たせてくれたが、
家中が暗い中では、懐中電灯の威力もたいした物ではない。
譲羽 :「……ぢ(泣かないもん)」
自分と変わらないくらい大きなクマのお腹に顔を突っ込んで、もごもごと
呟く。
涙は、それでも出ない。
譲羽 :「……ぢいい(花澄い)」
と、自動車の音。そして、ざわざわとした音。鍵の開く音。
譲羽は、しゃっきりと座り直す。
母 :「じゃ、二人ともお茶でも飲む?」
花澄 :「うん」
声と同時に、花澄が部屋の扉を開ける。
譲羽 :「ぢいっ!」
花澄 :「!」
同時に天袋から飛び出した木霊の少女を、すんでのところで花澄は受け止めた。
花澄 :「(小声で)……危ないなあ……」
譲羽 :「(やはり小声で)ぢいぢいっ(待ってたの)」
すっかり冷え切った木粘土製の体を抱きかかえて、花澄は苦笑した。
花澄 :「お母さん、ちょっと除夜の鐘聞いてくるから、お茶だけ
:私の分も入れといて」
母 :「はいはい」
返事を確認する前に、外套を着込み、その中に譲羽を隠す。
しいんとした、夜。
遠くから除夜の鐘が聞こえる。
人気は、ない。
譲羽 :「ぢい?(あれ何?)」
花澄 :「除夜の鐘」
遠くから聞こえる音色は、少し高い。
譲羽 :『何それ?』
花澄 :「人の百八つの煩悩を祓う為に、百八回鐘を撞くの」
そして、通りは撃たれた煩悩たちのさまよう場所となる。
何故切り捨てる。
その恨みの声も、聞こえてきそうなほどはっきりと。
歩く、者達。
譲羽 :「ぢ(少し脅え)」
花澄 :「大丈夫(苦笑)」
すりよってくる譲羽の肌がまだ冷たい。
花澄 :「大丈夫、よ」
切り捨てなければ、立てない者達もいることだろう。
切り捨ててなお、前に進もうとする心をこそ、近いものと感じる。
譲羽 :「ぢ(新年、来るの?)」
花澄 :「そう、もうすぐよ」
空を仰ぐ。
星が幾つか、雲の合間から見える。
花澄 :「帰ろうか?」
譲羽 :「ぢ(うん)」
静かに、花澄は視線を東へと向けた。
すぐそこまで迫った、年と年との区切れ。
静かに押し寄せる波のような。
蒼く、透き通った波のような。
来年はどんな年になるのだろうか。
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いや全く。
どんな年になるんでしょうね。
では。
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『Hitch your wagon to the Star in Heaven』
いー・あーる(nakazono@ffpri.affrc.go.jp)
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