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Date: Mon, 05 Jan 1998 10:34:50 +0900
From: "E.N." <nakazono@ss.ffpri.affrc.go.jp>
Subject: [KATARIBE 8226] HA06:EP:年の瀬
Sender: owner-KATARIBE@teleway.ne.jp
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こんにちは、いー・あーるです。
年末年始にかけて、書いたEPでございます。
#まあ、いー・あーるのどじで、送れなかったもんですが(汗)
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EP :「年の瀬」
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夜分遅く、花澄の部屋。
一通り片付けを終えて、花澄が溜息をつく。
花澄 :「……この、本(汗)」
出来るだけ文庫本を選んで買っているとはいえ、恐ろしいほどの
増殖率である。
譲羽 :『花澄、その本、捨てちゃうの?』
花澄 :「……でないと、床が抜けそうだしね(まじ)」
それでなくても古いアパートの畳は、歩く度にきしむのだ。
譲羽 :「……ぢいっ(退屈、だようっ)」
花澄 :「…そうだね(苦笑)」
片付けの間、『おてつだいー』と騒ぐ譲羽を、なだめすかして
天袋の中に入れておいたのだが。
花澄 :「丁度牛乳切れてるし……買い物、行こうか」
譲羽 :「ぢ!」
諸手を挙げて賛成する木霊の少女を袋に入れて、花澄は外に出る。
夜半を過ぎる頃ともなると、流石に人通りが無い。
譲羽が何時の間にか袋から抜け出し、花澄の肩に移る。
と。
譲羽 :「……ぢ?」
首を傾げると同時に、花澄の髪を一房引っ張る。
花澄 :「何?」
応じながらも、花澄は目を凝らす。
さわさわと、気配だけが感じられる。
さわさわと。
何だか気ぜわしくなるような。
花澄 :「……あ」
とととと、と、走ってくるのは、せいぜい譲羽程度の背丈しかない、
これは少年。
白絹の着物と袴をつけて、手には箒とちりとりを抱えて。
花澄 :「……大掃除?」
呟いたつもりが、走っていた少年が足を止めた。
少年 :「うん、きちんと奇麗にしてやらないとね」
花澄 :「……ふうん?」
少年 :「いろいろあったし」
言いかけた少年の後から、とととと、と、何人もの子供たちが駆けてくる。
やはり箒やちりとりを持つ者、そして大きな頭陀袋を持つ者。
花澄 :「あれは何を入れるの?」
少年 :「穢れ」
花澄 :「え?」
こらさぼるな、いそがしいんだぞ、と、高い声がかかる。少年は慌てて
走っていった。
花澄 :「……穢れ?」
穢れ。
昔読んだ文章を思い出す。
古事記だったか日本書紀だったか。
沢山のヒメだのヒコだのの神々が、繰り返し繰り返し呑み込んでは捨て、
呑み込んでは捨て、ようよう遥か彼方に放つもの。
花澄 :「豹がその斑点を消すことが出来るなら……か」
譲羽 :「ぢ?」
お前たちの穢れも、消す事が出来よう、と。
続けたのは誰だったか。
花澄 :「……大掃除、どころじゃないよね(苦笑)」
部屋の掃除をして。
年忘れの為の様々な行事を重ねて。
自分たちはその年を過ぎこしてゆく。
残ったものを、いつのまにか忘れて。
花澄 :「……そんなものよね(苦笑)」
少年たちが駆けていった方角に一つ礼をして、花澄はまた歩き出した。
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昔、そういう類の文をどっかで読んだんですけど、
あれ、出典は古事記だったっけ……
……全然違ったりして(汗)
ではっ。
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『Hitch your wagon to the Star in Heaven』
いー・あーる(nakazono@ffpri.affrc.go.jp)
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