[KATARIBE 674] [HA06]ラブレター for You (モノローグ部 )

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Date: Fri, 11 Apr 1997 16:42:56 +0900
From: Masaki Yajima <yajima@cht.co.jp>
Subject: [KATARIBE 674] [HA06]ラブレター  for You (モノローグ部 )
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 こんにちは葵です。
 進行中EP「ラブレター for You」のモノローグ部を編集しましたので
 EP先頭部へ付け加えてみます。

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エピソード「ラブレター for you」
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序章
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 時は古。

「来ぬ人と  知りつつ待ちし 日を数え……」

 女が、いたという。

 ろうたけて美しい女であったが、特にその髪は解けば床へと流れ落ち、鏡の
ような光沢であったという。

 女には、待ち人がいたという。
 都へ行き、会うこともままならぬ男からの文を、女は来る日も来る日も待って
いたという。

 文は、日に日に間遠くなり、周りの者達も諦めよと口に出すまでになったが、
やはり女は日に日に髪を梳きつつ、男を、文を待ったという。

 やがて。
 女は、風の便りに、男が都で妻を娶ったと聞いた。
 女は、筆を取り、文を送った。
 まことか、と。

 文が返る。
 まことなり、と。

 一夜。

 女の黒髪は庵を包み、地を覆い、天に向かってよじれるように延び。
 そして、ざん、と地に落ちた。

 翌朝、残ったものは、壊れた庵と何かが這い巡った跡だけであったという。

 そして、同じ朝。
 男は、己の黒髪にがんじがらめに縛られて息絶えた妻を見出したという。
 男の悲鳴に近寄った者達の目の前で、妻の髪はゆるゆると男に巻きつき、な
ぶるように、いとおしむように男を包み込んでいったという。

 以来、男の姿は消えたという。

 そして。
 その日より、夜、悄然と立ちすくむ女の姿があったという。
 男が声をかければ、待つ人のおいでかと問い返す。否といえばそれまで、肯
えば御主もか、と一声叫び、頭より食らうという。
 怪異は人の知るところとなり、そして或る時より、ふつりと絶えた。


 後に、春日の宮の端に埋められたものがあった。
 如何にその嘆きの故とはいえ、その罪余りに重し。然れども汝、同じ痛み持
つ者の為に、共に嘆き、共にその痛みを負え、と。
 それは、封じられて有るが故に、益ともなる台詞。



 時は流れ、いつしか哀しき娘の話は人々の口の端にも登らなくなり忘れ去られ
ていった。

 しかし……。

 浜の真砂は尽きるともこの世に恨みと恋の尽きる事無し。
 哀しき少女が又一人。


 ある日の放課後、外は急に降りだした雨。

 一人、下駄箱にたたずむ女の子。
 その手にはしっかりと淡い水色の折り畳み傘と白い封筒が握られている。

「今日こそは、あの人に渡そう……」

 誰もいない下駄箱で、靴箱の前に一人待つ女の子。

 あの人はまだ…教室にいたはず。ここで待っていれば…あの人に手紙を渡せる。
 あの人に傘を貸してあげられる。
 手紙を胸に抱きしめ深呼吸をする。自然と胸が高鳴り、顔が熱くなる。

 そして、かすかに廊下から足音が聞こえてきた。
 あの人が……歩いてくる……。

「……だめ、……やっぱりできない……」

 そっと、靴箱に折り畳み傘をはさみ、下駄箱を離れていってしまう女の子。

「……傘、使ってください……」

 小さな…ほんとに小さな声でつぶやき、外に出て走っていってしまう。

 その後で、不思議そうに水色の傘を見ながら校門に歩いていくあの人が建物
の陰からかすかに見えた。

「……いくじなし……」

 水色の傘をさして歩いていくあの人をそっと見送りながら、ずっと握り締め
たままの手を開く。 
 手のひらの白い封筒……すっかりしわくちゃになっていた。
 「……君へ」、雨で宛名がにじんでしまっている。

「今日も……渡せなかった……」

 これで何通目だろう、渡せないままになっている手紙は。
 いまだに降りしきる雨の中、女の子は雨にうたれながら一人たたずんでいた。



 そして、バレンタインデーも近いある日のこと、少女はある雑誌の記事に目
を奪われます。それは『ふたつの懸想文』という白魔術のお呪いを紹介する記
事でした。

 少女は非常に内気で気が小さく、ラブレターを書いては机の奥にしまいこん
でしまうような女の子です。机の中には、切なく苦しい胸の裡を切々と綴った
ラブレターが、ぎっしりつまっていました。
「おまじない……やってみようかな……」
 少女が一縷の望みを託し、お呪いをやってみようと思ったのも無理からぬ事
でした。

 記事のお呪い。それは、意中の相手をふりむかせ、恋のライバルを退けるお
呪いでした。まず赤いインクで意中の相手に贈るラブレターを書き、差出人に
自分の名前を書きます。
 そして、まったく同じ文面を黒いインクで書き、ライバルの名前を差出人と
して書き入れます。赤のほうは好きな相手の写真と重ねて大事にしまっておき
ます。黒のほうは小さなビンに詰めて清められた地面に埋めます。自分の想い
は相手に届き、ライバルの心は届かない。そんなお呪いでした。

 少女は知らなかったのです。そのお呪いは白魔術などではなく、狙った相手
の心を虜にし、ライバルの命を奪うための黒魔術であることを。記事のネタに
困った無責任なライターが黒魔術を白魔術と詐って紹介したのだということを。
 でも、もしも少女が記事のとおりの方法で実践していれば、これから起こる
悲劇は避けられたのです。

 少女は、何としてもこの想いを伝えたいと考えました。そしてお呪いの効果
を高めようと、赤いインクに自分の血を、黒いインクには蛇の血を混ぜたので
す。それが、本来の魔術の作法であるなどとは、少しも気づかないで。

 稚拙な魔術です。ですが、そこにこめられた想いは本物です。魔術は発動し
てしまいました。あとは、黒いラブレターを地面に埋めれば完了します。

 どこに埋めようかしら、少女は考えました。そのとき少女の目に、春日神社
のお守りが入りました。今日は渡そう、明日は渡そう、そう思いつづけて、結
局今まで渡せなかったお守りでした。春日さんにしましょう、そう決めて少女
は微笑みました。

 夜になって、少女は春日神社へ出かけます。春日の丘の片隅に、ビンを埋め
る穴を掘ります。すると、スコップの先に何かが当たりました。石だと思って
掘り出したそれは、球形をした陶器でした。何か字の書かれた紙が張り付けて
あります。よく見ようと持ちかえたひょうしに、手が滑って落としてしまいま
した。

 陶器は粉々に割れてしまいました。ちょっと残念ですが、しかたがありませ
ん。それに、今はもっと大事なことがあります。掘った穴にビンを収めて、上
から土をかけました。

 最後の土をかけおわった瞬間、少女の意識はとだえました。陶器の玉に封じ
込まれていたものが、少女の身体を奪ったのでした……。

 そして。
 それはすべての始まりでもあったのです。

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以下本文へ接続。

 ってな所でどうでしょう。(^^;

                                                       葵 一
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 / Okaya-city Nagano-pref, 394 Japan        /「どうして?」
/ E-Mail: yajima@cht.co.jp  (Masaki Yajima)/「俺と知り合いになれたじゃない」
    

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