[KATARIBE 25025] [HA06P] エピソード:『柵の外』

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Date: Wed, 9 Oct 2002 00:25:35 +0900 (JST)
From: みぶろ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25025] [HA06P] エピソード:『柵の外』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200210081525.AAA40574@www.mahoroba.ne.jp>
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2002年10月09日:00時25分35秒
Sub:[HA06P]エピソード:『柵の外』:
From:みぶろ


みぶろです。
ちと長めのEPです。不出来ではありますが、書いておきたかったんで。
感想等頂けたらと思います。

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エピソード   『柵の外』
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 登場人物
  藤咲千緒(ふじさき ちお)
  :春日高校一年生。結界術の使い手。座右の銘は「触らぬ神にたたりなし」                 
  袴田葵(はかまだ あおい)
  :千緒のクラスメイト。女子バスケ部。宝塚の男役風の容姿で女子に人気。
  染田菜々子(そめだ ななこ)
  :千緒のクラスメイト。千緒と同じ文芸部。ロリ顔Dカップで男子に人気。

舞台   文芸部部室及び屋上
時系列  10月上旬 夜

本文
----------

  
  文化祭で売り出す部誌の締め切り日が迫ってきた。部長の「三日前提出」
 という方針により、居残り作業を命じられた菜々子。千緒は既に提出してい
 たが、菜々子に泣きつかれつきあうことに。既に外は暗くなっていた。

 千緒     :「もー、7時前やでー。菜々子頑張りぃ」
 菜々子    :「あうー。ごめんちーちゃん、もうちょっと待ったって」
 千緒     :「先週、九分九厘できてるって言ってたやん」
 菜々子    :「でも、九割一厘はできてなかってん」
 千緒     :「ボケんでええから、はよ書いてー」

  SE:ガラッ
  突然、部室の扉が開いた。

 葵      :「こらーいつまで残ってるんだー。早く帰れー」
 菜々子    :「ひゃ。すいません、すぐ……おいちゃんかぁ」
 千緒     :「あれ?こんな時間まで何してんの?」
 葵      :「それはこっちのセリフやん。いや体育館で喋っててんけ
        :どな。ここの明かりがついてたから、もしかしてラヴいイ
        :ベントでも発生してるんかなーって見に来てん」
 菜々子    :「まめだねー」
 千緒     :「いや、あほやろ。葵、いらんこと良く知ってるけど、も
        :しかして、いっつもそんなんしてんの?」
 葵      :「まさにそう」
 千緒     :「…………」
 葵      :「ほれ菜々、かえっぞ。遅くまでおると幽霊が出るで」
 菜々子    :「でぇへんもーん」
 葵      :「ほんまやって。何年か前に屋上から飛び降りた生徒がお
        :ってな。それがこう、徘徊するという」
 菜々子    :「帰ろう」
 千緒     :「まあ葵のあほ話は置いといても、ええ時間やしね」
 葵      :「あほ話ってひどっ。確かな筋からの情報やで」
 千緒     :「どんな筋よ……」

  そそくさと帰り支度を始める菜々子。ふと、葵が窓の外を見ると……

 葵      :「あれ? なんか屋上に人がおるで」
 菜々子    :「ちょっとー、ほんまもうやめてー」
 葵      :「ほんまやって。なあ千緒?」

  確かに屋上に人影がある。しかし、それは「人間」ではなかった。

 千緒     :「(自殺者の……さっきの話、ほんまやってん)」
 菜々子    :「そんなんおれへんやん。もう、おいちゃんのあほー」
 千緒     :「うん。おらんよ。はよ帰ろ?」
 葵      :「えー、おったってー。お、とすると本物かぁ。なー、見
        :に行かへん?」
 菜々子    :「嫌」
 千緒     :「帰るもーん」
 葵      :「なんや自分らー。ええわい。あたし一人で見に行くっちゅ
        :ーねん。へーん、チキンチキンー」

  本当に一人で行こうとする葵。もしものことがないように、しぶしぶ千緒
 もついていくことに。一人になるのを嫌がった菜々子も加わり、結局三人で
 屋上に上がることになった。

  屋上の扉の鍵は開いていた。仮にも自殺者が出たなら封鎖されてそうなも
 のだが。躊躇せず屋上に出る葵。すこし緊張した千緒だが、何も居ない。
  屋上からは吹利の夜景が一望できた。

 葵      :「おおー。これはなかなかいいなー」
 千緒     :「うん。お昼にお弁当とか食べたいよね」
 葵      :「昼間の話なんかするなよ。今は夜、恋人達の時間さ。ほ
        :ら千緒、夜景が綺麗だろう?(と言いつつ、千緒の制服の
        :リボンを解く)」
 千緒     :「やだ、葵さん、お星様が見てる……」
 葵      :「ふふ、見られると興奮するくせに」
 千緒     :「待てー。そこでいきなりエロ小説テイストにせんでー」
 葵      :「ち。珍しく千緒がのって来たのについ地が……菜々子?」
 
  ふと気付くと、菜々子が屋上の柵に向かって移動している。決して自分の
 意思ではないことは、菜々子にうかぶ恐怖の表情から明らかだ。じわり、じ
 わりと、誰かが引っ張っている。
 
 声      :『……暗いの……』
 菜々子    :「体が……動かれへん……」
 葵      :「うっそだろっ」
 千緒     :「葵、行ったらあかん」
 
  葵の足は速い。あっというまに菜々子に追いつき、腕を取る。
 
 葵      :「菜々子っ、しっかりしい。お前、何やぁ!」
 声      :『……みんな……一緒に……』

  柵の外に女生徒が立っている。その首は、ありえない角度で曲がっている。
 陰鬱な微笑を浮かべる口元からは、喋るたびに血泡がこぼれた。

 千緒     :「(私が『力』をつかったら、多分助かる。でも……)」

  千緒は躊躇した。『力』を使った後の二人の反応が怖かった。また『化け
 物』と呼ばれるためだけに力を使うの?そう囁く声が聴こえる。千緒は、そ
 んな自分にひどい嫌悪感を抱いた。
 
  急に菜々子の体から力が抜けた。気絶したのだろうか。抵抗する力が減り、
 菜々子と葵は一気に柵まで引っ張られた。葵も既に金縛りにかかっている。
 女生徒の霊が柵の外から手を伸ばし、二人に触った。

 声      :『……あなたも……』
 千緒     :「(あほか、私は。ここで見捨てたら、私も『向こう側』
        :の住人じゃない)」

  深呼吸を、一つ。

 千緒     :「今、助けるから」

  千緒は右手の人差し指と中指を伸ばし、残りを曲げた。これは護身の剣。
 術式は、家紋のような図形意匠にイメージとして織り込まれている。
  深い蒼の背景に細い銀の真円。それが悪霊から身を守る結界のイメージ。
  ――御みづらに刺せるゆつつま櫛――わだつみに浮ぶ月輪――御幣を掲げ
 て巽に四歩――霊域には葵と菜々子と――
  図形をイメージした瞬間、必要な術式が脳裏に次々と浮かび上がる。同時
 に柵を境界として結界が完成した。

 千緒     :「葵、菜々子を連れてこっちに来て」

  急に体が軽くなった。葵は一つ息をつき、悪霊を睨んだ。すぐ近くにいる
 はずなのに、妙に遠く感じる。さっきまでの、海の底のような圧迫感は消え、
 かわりに冬の体育館のような清冽な緊張感があたりを支配している。
  わけもわからず、後ろを振り返った。千緒の右手が光っている。なぜ?

  葵の訝しげな目を見て、千緒の動悸が早くなる。呼吸が、乱れた。
  結界の乱れを見越したように、悪霊が一気に柵を越えてくる。集中力を振
 りしぼり、術を立て直す千緒。悪霊は悔しげに下がった。がちがちと歯噛み
 の音がする。墓土の匂い、臓腑の腐った匂い、硫黄の匂い――死臭。

 葵      :「こらぁ。てめーで自殺しといて人を巻き込むなよ」
 声      :『ここは……いや……』
 葵      :「へーん。悔しかったらこっち来て見い。負け犬ー。きゅ
        :うりー」
 千緒     :「(逆切れしてはるわ)」

  千緒は苦笑して、葵のそばに移動した。悪霊は、それを恐れる者がいなけ
 ればその力が減殺されるものだ。

 千緒     :「ここまでよ。人を巻き込んで殺せば、もっと暗いところ
        :に囚われるだけよ。消えなさい」
 声      :『嫌……一人は嫌……』

  遮る物一つない屋上に、千緒の声は深く響いた。威圧的な口調と結界領域
 を広げることでプレッシャーを与えていく。

 千緒     :「柵の内側は生者の世界。二度と触れないで。さあ、消え
        :なさい。それとも、消してあげようか?」
 声      :『うぐ……るぐぅ……』

  千緒の声に含まれる霊圧に屈し、悪霊は薄まり、消えた。

 葵      :「成仏したんか……?」
 千緒     :「ううん。どっか行っただけやね。まあここにはもう出ん
        :と思うけど」
  
  葵はくたくたとしゃがみこみ、千緒を見た。彼女が超能力かなんかで追い
 払ったのは間違いない。が、どうしても現実感が湧かない。
  千緒が葵の視線に気付き、つ、と目を逸らした。
  沈黙。

 葵      :「(……なんでこんな気まずいことになってんねん。たま
        :たま友達が特殊技術の持ち主やったってだけやん。……つ
        :き抜けて特殊やなぁ。いやっ、『私、実はレズやってん』
        :とか『私、実は天王星の裏側から来た銀河帝国の姫やねん』
        :とか言われるよりましや。……そんなんと較べるんもアレ
        :かなぁ)」

  考えているうちに面倒くさくなった葵は、この話題に触れないことに決め、
 努めて明るい声を出した。

 葵      :「はあ。さんざんやったなぁ。菜々子おこすか」

  気絶した菜々子を起こそうとする葵のブラウスの裾を、千緒はそっとつま
 んだ。

 千緒     :「今日のこと、誰にも言わんといて?」
 葵      :「わかってる。言うたかて信じんてー」
 千緒     :「菜々子にも、言わんといて?」
 葵      :「…………」
 千緒     :「自信、ないねん」

  葵は思わず振り返った。怯えたような顔をした千緒が立っていた。いつも
 の、大人びて取り澄ました彼女からは、想像もつかない表情。葵は無言で強
 くうなづいた。

 葵      :「けど、菜々子が気絶する前に見てたらどうするん」
 千緒     :「それやったら夢ですむねん。屋上で金縛りにあって怖い
        :夢を見た、といえばもっともらしく収まるでしょ?」
 葵      :「……そか」
 千緒     :「うん」

  再び沈黙が降りる。千緒のほうを見ても目をそらしても、不自然な気がし
 て、困った葵は、気絶している菜々子の頬をつまんだ。

 葵      :「なかなか目ぇさまさんなー。ここに置いてったろか」
 千緒     :「そんなことしたら明日が怖いよー。悪霊どころやないね」
 葵      :「ははは。……千緒?」
 千緒     :「ん?」
 葵      :「ごめん。あたしが屋上行くとか言わんかったらよかって
        :ん」
 千緒     :「……あは。ほんまや。あんたが悪の根源や」
 葵      :「ああそうさ。悪だともさ」
 千緒     :「開き直るなー。まあ、貸しときましょ」
 葵      :「うわ、こっわー。この女どんな要求するかわからへん」
 千緒     :「ふふふー。利子と熨斗つけて返してもらいますえ」
 葵      :「へーん。なんぼ厳しく取り立てても鼻血しかでぇへんで」
 千緒     :「そんなん出されたら迷惑や。よそで出しぃ」

  二人は顔を見合わせて笑い、菜々子が目を覚ますまでくだらない掛け合い
 を続けた。非日常を追い出す儀式のように。明るく、騒がしく、真剣に。
  

               ――了――



 解説:
  長々とお送りいたしました。いかがだったでしょうか。異能を絡ませない
 と真面目な話を書けないのか、という内なる声が聴こえます。えへへ。
  異能者の苦悩というテーマは好きなんで(千緒は大して苦労してないが)、
 また挑戦してみたいと思います。
  それにしてもト書きが酷いなぁ。

  以下、部分部分の解説。
  「レズごっこ」こういうのは書いてて楽しいので自制心が必要かもです。
 あのへんのセリフ選びにはまったく苦労しませんでしたよ……。ちなみに変
 態ではありません(PLもPCも)。
  「銀の真円」超能力ではなく魔術なので、それっぽくしたいなーと。「千
 緒は結界を張った。以上」では寂しいので(私が)。要は図形を思い出すと、
 呪文その他の術式が連鎖的に思い出されるという感じ。プログラムのショー
 トカット?うまく伝わってくれてればいいんですが。
  「鼻血しかでぇへん」関西の商人の掛け合い風に。ほんとにこんなこと言
 ってるのか疑問。ネイティブ京都人の友人によると、中小企業のおっさんは
 まじで使うそうですが。

  うお。解説までなげぇ。ではまたお会いしましょう。

 




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