[KATARIBE 25000] [HA06P] エピソード『誰そ彼』

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Date: Fri, 4 Oct 2002 15:22:53 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 25000] [HA06P] エピソード『誰そ彼』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200210040622.PAA90612@www.mahoroba.ne.jp>
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2002年10月04日:15時22分53秒
Sub:[HA06P]エピソード『誰そ彼』:
From:月影れあな


れあなです。

まぁ、ふと思いつきで書いてみたわけ。

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エピソード『誰そ彼』
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本文
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 夕暮れの商店街を、半ばまどろむようにぼんやりと眺めていた。
 日はほとんど沈みきっている。西の空はまだ少し明るいが、東の空には一番
星が煌々と光を放っていた。街を行く人の顔には深い影がさし、表情どころか
誰彼とも判別がつかない。
 黄昏時。誰そ彼時。雀色の闇の下ですれ違う影は、鬼か人かも知れない。
 誰もが足早に通り過ぎていく。
 ふと、その中に、見知ったシルエットを見つける。

 宗谷     :「あれ、渋柿ちゃん?」

 その人は立ち止まって、振り返る。ああ、やはり渋柿ちゃんだ。

 渋柿     :「……なんだ?」
 宗谷     :「どうしたの、そんなに急いで」
 渋柿     :「叔母上が病気でな」
 宗谷     :「えっ、大丈夫なの!?」
 渋柿     :「大丈夫、若い娘の生き胆でも喰ろうて、精をつけてもら
        :えば」

 そう言って笑んだ口の奥には、鮫のような鋭い歯がぞろりと並んでいた。
 急に、ぼんやりしていた意識がはっきりと澄んできた。ぼくは何でこんなと
ころに突っ立っている? 文化祭の準備で共に遅くなった渋柿ちゃんと一緒に
帰る途中に、今月の新刊を買うために本屋に寄ったからだ。そして渋柿ちゃん
は、まだ本屋の中で買うものを探している。では、今目の前にいるこれは何だ!?

 宗谷     :(逃げなくちゃ!)

 身体が思うように動かない。恐怖に身を竦ませる。

 宗谷     :「えっ……?」

 不意に、そのものから伸ばされた手がはじかれるように止まった。

 声      :『口惜しい、せっかくのご馳走を……』

 呟くような怨嗟の声が、かすかに聞こえ、顔を上げるともうそこに佇んでい
たものは消えていた。

 渋柿     :「宗谷くん」

 後ろから突然掛けられた声で我に返り、振り返ると渋柿ちゃんがいた。手に
は恐らく今買ったばかりの本を抱えている。

 宗谷     :「あっ……」
 渋柿     :「待たせてしまったみたいだな」

 と、そこで言葉を切って、渋柿は気付いた。様子がおかしい。宗谷君の顔は、
紙のように真っ白になっていた。

 渋柿     :「……どうした?」
 宗谷     :「大丈夫、ちょっとふらっとしただけだから」

 そう言って微笑むが、声にはいつもの元気が無い。かえって心配になる。

 渋柿     :「病院にいこうか?」
 宗谷     :「ほんとに大丈夫だって。ほら渋柿ちゃん、そろそろ行か
        :ないと次の電車逃したら結構待たされるよ」
 渋柿     :「ああ、そうだな」

 とりあえず、それ以上の追求をやめる。たとえ強がりでも、強がりたいのな
らそうさせてあげた方がいい。

 渋柿     :「ところで宗谷君はこれからどうするんだ?」
 宗谷     :「今日は自転車ないし、JRの方に戻ってそこから電車に乗
        :る」
 渋柿     :「それじゃ、全く逆方向じゃないか」
 宗谷     :「うぃ、でも駅までエスコートするよ。この時間帯、女の
        :子と一人歩きは危険だからね」
 渋柿     :(宗谷君の一人歩きの方がよっぽど危険な気がする……)

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