[KATARIBE 24964] [HA06N] 小説『覚醒……そして』

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Date: Tue, 24 Sep 2002 13:11:50 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24964] [HA06N] 小説『覚醒……そして』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200209240411.NAA71705@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 24964

2002年09月24日:13時11分50秒
Sub:[HA06N]小説『覚醒……そして』:
From:月影れあな



 月影れあなです。

 タイトルの通り、前に出したエピソード『覚醒』の直後あたりの話ですね。
 そのままつなげても良かったのですが、雰囲気崩すかもしれなかったので、
別にしました


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小説『覚醒……そして』
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 六兎結夜(りくと・ゆうや)
    :隔世遺伝の吸血鬼。

本文
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「心因性不死症候群」
 朝霧桔梗と名乗った吸血鬼はまずそう言った。
「基本的に、感染による後天性の吸血鬼化現象は治療する事が出来ます。軽い
物なら一回薬を飲むだけで、重い物でも裏赤十字での一週間の入院と一ヶ月程
度の通院で大抵は回復します」
 朝霧はそこで話を切り、こちらを向いてくる。
「それで?」
 私が言葉を促がすと、朝霧は溜息を一つつくと話を続ける。
「貴方はこの一週間の治療で、一つとして回復の兆候を現しませんでした」
「ふ〜ん」
 私は冷めた口調で相づちを打った。
「結夜君! 実感が湧かないのはわかりますが、これはどっきりでも冗談でも
なく、紛れも無い現実なんですよ!?」
「わかってるよ」
 実感が湧かない。訳ではなかった。むしろ私は、この事を何でもない当然の
事実として受け止めている。不思議な、感覚だった。
 朝霧はまた溜息をついて離し始める。
「治療によって回復する事の出来ない後天性吸血鬼化現象も、例外的にありま
す。心因性不死症候群。隔世遺伝のような先祖返りもこれに含まれます。潜在
的な要因と精神的な要因を併せ持った個体に何らかのきっかけによって起こる、
時に若返りを伴う不死化現象です。心因性不死症候群の場合、大抵はただの不
死人にしかなりませんが、不死=何らかの代償を必要とするという観念を持っ
ていた場合、稀に吸血鬼や吸魂鬼になる場合もあります」
「潜在的な要因?」
「生まれつき持ち合わせた何らかの力です。超能力や魔法使いになる素質といっ
たものですね。先祖返りの場合もっと直接的に、吸血鬼が先祖にいたとか」
 目をつぶって考える。頭の中で一気に流れ込んできた情報を整理する。今ま
での人生で培ってきた常識なんかはとりあえず脇に置いて、空想や妄想を考え
る時に近い思考で。
「つまり、私の潜在的な何かと、大人になりたくないといった気持ちがあの吸
血事件のショックを引き金に爆発してこういう状況になったって事か」
「そういう事だね。何か心当たりは?」
 あっさり答えられて、常識なんかって言うのはいざという時はまったく役に
立たないのだなぁと思い知りる。
「う〜ん、父上が人間に化けた狸だって事は聞いた事あるけど」
 幼い頃言い聞かされた言葉を脳の奥から引っ張り出す。平成狸合戦ぽんぽこ
を見た時など、勝ち誇るように「こういう事だ」と言われたものだった。
「なるほど。狸の変化能力が潜在的にあれば、こういう事が起こりうるかもし
れませんね」
 そんな莫迦な。父親の言っていたあれは幼かった私たち兄弟をからかっただ
けの妄言違いないのだ。
 と思うが、すぐに考え直す。ある日突然吸血鬼になる世の中だ。父親が狸だっ
て別にかまわないじゃないか。むしろその方が面白い。
 この瞬間、私は完全に開き直った。
「んふふふっふっふっはっはっはっはっはっはぁっはぁっはぁっ!」
「ゆ、結夜君!?」
「朝霧さん、私の事は今度から吸血鬼とは呼ばずにバンパネラ、もしくはポー
の一族と呼んでくれたまえ」
「は? ばんぱ……なに?」
「要するに! 私は今まさにこの箱庭のように閉ざされた狭い世界から解き放
たれ、未知と言う名の、あ〜、大空へと飛び出したのである! うん、そう。
バンパネラであるということは、今までバンパネラでなかったから出来なかっ
た事が出来るようになるということだ。素晴らしい。そうとでも思わんとやっ
てけるけぇっ! ポジティブシンキングじゃい!!」
「はぁ」
「時は窓下の街景の如く刻一刻と移り変わりゆく。私だけは変わらず、え〜と、
移ろいゆく街の人々を眺めている。そう、我は今や時を超越した超越者なのだ
ぁっ!」
「ああ、鎮静剤を……」
「我は神なり! 我を崇めよ! くっくっはっはっはっはっはっはぁっ!!」
 バンッ
 不意に響いた麻酔銃の銃声が、色々と暴走してしまってる結夜の思考を闇へ
と堕とした。
 対吸血鬼用に特別に作られた麻酔銃だ。威力は必殺である。
 銃を構えたまま、桔梗の思考もしばらく停止している
「え〜と、キレちゃったかな?」
 答える者は、いない。

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