[KATARIBE 24840] [HA06P]エピソード『昔話』

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Date: Mon, 19 Aug 2002 20:02:21 +0900
From: たつき <toru_izumida@iwi.co.jp>
Subject: [KATARIBE 24840] [HA06P]エピソード『昔話』
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ども。龍樹です。
仕事の合間になんとなく書き始めたら出来上がってしまったので流してみます。
(なんだそりゃ)
むかしむかしのお話。

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エピソード『昔話』
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彼女は目の前に悠然と立つ青年の姿を見つめていた。
青年は彼女の大切な友人の一人だった。
銀色の髪。
色素の抜けた肌。
夜の闇で赤く光る瞳。
口の端から見え隠れする牙。
世界的に有名な夜の住人、ヴァンパイア。
それが彼女の友人だった。
せっぱつまったような表情で見つめる青年を見て、彼女は弱々しく笑った。
「ふふふ…」
「何がおかしい?」
「…あなたのそんな表情、初めて見るわね…」
「悪かったな…」
そう言った青年の表情がいつもの憮然としたものに変わる。
「これでも心配しているんだ」
「ありがとう…。でも、もう遅いのよ」
彼女は青年から視線を外し、自分の周囲を見回した。
そこは元民家であったはずの場所。
しかし今は全てが無残に破壊され、瓦礫の山と化していた。
そう。つい先ほどまで、この場で激しい戦闘が行われていたのである。
味方は少数。敵は無数。
「怪我は治せるのだけど……さすがに病気はねぇ」
壊れた天井から射す月光の下で、彼女は奇跡的に原型を止めているベッドの上
に寝かされている。
その手足はなぜか緑色に変色していた。
「正確には、病気ではなくウィルスだ。先進国がいにしえの遺跡から発掘し、
兵器とした物で…」
「そのウィルスに感染した者は、全身の体組織が水のように溶けてしまう」
言いよどむ青年の言葉の先を続けた彼女は、自らの手を顔の前まで持ち上げて
見せる。
その手は半分くらいまでが緑色に変色し、自重を支えられずにぐったりと曲が
ってた。
「一度感染してしまえば完治は不可能…」
「不可能ではない」
今度は逆に青年が彼女の言葉の先を続ける。
「そのウィルスもヴァンパイアには効果がない。わたしが君の血を吸って眷属
にすれば、ウィルスは死滅し、体も元に戻る」
「それは…駄目よ」
青年の真摯な説得を、彼女は静かに拒否した。
既に首を動かす力もないのか、彼女は目線だけをそっと青年に向ける。
「ヴァンパイアが吸血で伝染するのも、ウィルスのせいだと言われているのを
知っている?わたしはそのヴァンパイアウィルスに抗体があるの」
「そんな馬鹿な…。そんな抗体の話など聞いたこともない」
「ある…組織が実験的に開発した…物よ…。もっとも…失敗作だけどね…」
彼女のセリフが途切れ途切れになる。
息も荒くなり、目を開けているのもやっとという状況だ。
「わたしの…体に…ヴァンパイアウィルスが入ると…、抗体がウィルスを破壊
するのだけれど…同時にわたしの体組織も…破壊される」
「それを…信じろと?」
「信じる信じないは…あなたの勝手よ……。でも、どちらにしても…わたしが
死ぬことに…変わりはないわ」
彼女は大きく息を吐き、目を閉じる。
その表情は死を覚悟したにも関わらず、安らかな笑顔をしていた。
「ねぇ……」
「なんだ?」
「娘を……よろしく…ね」
「……」
会った事も見たこともない娘にヴァンパイアである自分が何を出来ると言うの
か。
「……出来る限りのことはしよう」
青年の困りきった口調に彼女は薄く笑った。
「…あり…が…と」
「!」
彼女の首が力なく倒れる。
脳の一部が水と化した為に意識がなくなったのであろう。
「……」
このままでは絶対に助からない。
しかし、彼女の言ったことが本当であれば、ヴァンパイア化したとしても助か
らない。
「やらないで後悔するくらいならやった方がまし…か」
昔彼女がよく言っていた言葉である。
その言葉で青年は人間と一緒に行動するようになったのだ。
「昔は……人とヴァンパイアの共存など夢物語だと思っていたのだがな…」
青年は彼女の傍らに跪き、そっと顔を近づけた。
「こういう時、人は神に祈るのだろうな」
苦笑交じりに言い捨て、青年は彼女の首に牙を突き立てた。
と、その時。
元は民家の入り口であった場所の向こうから足音が響いた。
数は一つ。
その音は徐々に近づき、青年が後ろを振り返った時には、足音の主はその場所
に辿り付いていた。
胸に手をあて、荒い息を整えるように深呼吸する少女。
年は5歳か6歳程度であろうか。
「…お母さん!!」
少女が叫ぶ。
視線の先には青年の傍らに横たわる彼女がいる。
(この少女が…彼女の娘…か)
「君は…」
青年が話し掛けようとした途端、少女の顔を恐怖に凍りついた。
「なんで……お母さん…あなたが殺した…の…」
「!?」
青年が慌てて振り返ると、緑色に変色していた彼女の手足は既に元の状態に戻
っていたが、首筋の傷跡の部分が黒く変色し、風化した石のようにぼろぼろと
崩れ落ちていた。
「そんな…!」
黒の侵食は緑のそれと比較にならないほど早く、見る間に彼女の体は黒く変色
し、端から崩れ落ち、風に舞ってさらさらと流れていく。
彼女の言葉に偽りはなかった。
青年は手のひらに残った黒い欠片を握り締め、ゆっくりと立ち上がる。
…と、その時、背後に凄まじい殺気と魔力の流れを感じ、青年は慌てて振り返
った。
「お母さんのかたき……」
そこには、鬼のような形相で青年を睨みつける少女の姿があった。
握り締めた拳からは血が流れ、足元に落ちた場所から奇妙な紋様を描き始める。
「な…こ、これは…」
紋章式召喚術。
以前彼女から聞いた言葉が脳裏に浮かぶ。
それは彼女の先祖が得意としていた陰陽術の中でも、人外のものをこの世に呼
び出す術の呼び名。
彼女は使う事が出来ないと言っていたが、それをこの少女が行っているのか。
「待て!話を聞くんだ!」
青年の静止は暴走した少女の耳には届かなかったようだ。
少女が扱うにはあまりに強大すぎる力が部屋の中で渦を巻く。
荒れ狂う力の奔流は少女自身の身体をも傷つけ、そこから流れ出る血はさらに
床の紋章を複雑な物へと変えていく。
「問答…無用!!」
少女の掛け声とともに、床の紋章から『何か』が這い出てきた。
名状しがたいその物体の一部がやおら膨れ上がり、青年に向かって不可視の力
をぶつけてくる。
「な、なんだこれは!?」
見えない力、『魔風』に晒され、青年の身体が崩れ落ちる。
(このままでは終わらせん!)
青年は全ての力を振り絞って名状しがたき物体にエネルギー波を撃ち込む。
まさに紋章から這い出ようとしていた名状しがたき物体は、もろにエネルギー
波を身体に受け、紋章の中へと後退していく。
と同時に、青年の身体も灰と化して空中に霧散する。
召喚中の物を強制的に戻された反動か、少女は意識を失い、その場に崩れ落ち
た。
(約束は……必ず…守る…)
そして、静寂だけがその場に残った………………


 結夜     :「…で?」

夏真っ只中だというのに、その少年は黒マントに黒サングラスという怪しげな
格好だった。
何が気に食わないのか、サングラスの上からでもわかるくらいに不機嫌な表情
をしている。

 舞亜     :「『…で?』って?」
 結夜     :「私にそんな話をしてどうしろと?『あぁ、かわいそうだ
        :ね大変だったね』とか同情でもしてもらいたいのか?」

喫茶店の店先で涼んでいた結夜を『たまたま』見つけた舞亜が無理やり捕まえ
て話始めたのだった。
休んでいたところを無理やり捕まえられ、いきなりわけのわからない昔話を聞
かされれば不機嫌にもなるというものである。

 舞亜     :「別に深い意味はないわ」
 結夜     :「は?」
 舞亜     :「ただね、君には…聞いておいて欲しかったのよ」
 結夜     :「………ふん、勝手にしろ……」


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というわけで、話のオチに結夜くんをお借りしました。(^^
れあなさん、セリフチェックお願いします〜。

水凪のお母さんが亡くなった時のお話でした。

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Name たつき
Hundle Tatsuki
E-mail : alephred@c3-net.ne.jp(自宅)
URL: http://www.tim.hi-ho.ne.jp/aleph/index.html
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