[KATARIBE 24827] [IC04N] 小説『落下してみて』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Thu, 15 Aug 2002 02:14:13 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24827] [IC04N] 小説『落下してみて』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200208141714.CAA69159@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 24827

2002年08月15日:02時14分13秒
Sub:[IC04N]小説『落下してみて』:
From:月影れあな


 月影れあなです。
 コルチキンタワーダイビングです。初ダイブ。おめでたい。
 なんですかね、この人。深く考えすぎてる気がしますな。
 それにしても、窓の外の様子ってこんなんでも良いんかいな。

**********************************************************************
小説『落下してみて』
===================

 玖々津好(くぐつ・よしみ)
        :超針師。今回初めて飛び降りる。

本文
----
 絶望はあった。
 窓の下は透き通った黒い海だった。それが絶望だ。
 死ぬのは怖くない。生きるのが怖い。
 そんな陳腐なセリフも浮かんでこないほど、切迫しているわけではない。い
ろいろ考えたりする。これは違う。
 生きるのは怖くない。死ぬのは怖い。ただ、生き続けることはもっと怖い。
 死ぬことは逃げる事だから、生きろ。そういう風な事を言った人が、向こう
では居たような気がする。
 ここでは死んでも逃げる事は出来ない。それはずいぶん昔に悟っていた。そ
れでも、逃げられなくても、駆け出したくなるときはあるのだ。
 いや、窓の外は絶望ではない。希望だ。
 何度死んだって、死の記憶を持っていく事は出来ない。私は今日ここで初め
て死ぬのだ。これからもきっと、私は初めて死ぬのだ。
 そして、いつも思うだろう。希望はそこにしかないと。
 落下しているのではない、実験しているのだ。
 床が無くなる。
 希望か、絶望か、箱を開けるまでは分からない。
 痛いほどに風が叩きつけられる。黒い海が急速に迫ってくる。
 断崖に打ち付ける波の音が聞えた。


 朝の日記帳を見た。書いた覚えの無い一行が昨日の場所に描いてあった。
 それで悟る。昨日私は死んだのだ。それは、初めての死だった。
「ああ」
 無感動に、とりあえずため息をついてみる。死という物は、もっと怖いもの
だと思っていた。実感が湧かない。死んだ覚えが無いからだ。
 ああ、今まで何を恐れていたんだろう。死んだからといってそれがなんなの
だろう。
 そういう事をいつも悩んでいたのが、馬鹿馬鹿しくなってきた。私は死んだ
のだ。それが絶望なのかどうかは分からないが、目先の悩みが消えたことは望
ましいことだ。そう思ってしまう。そうとしか思えなかった。
「最近そんな感じだったからな」
 悲嘆に暮れるわけでもしに、軽く呟いてみる。
 耳の奥で、波の音が聞えた。


$$
**********************************************************************


    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage