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Date: Tue, 9 Jul 2002 21:57:25 +0900 (JST)
From: 月影れあな <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24714] [HA06N] 小説『シルバーローズのある日』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200207091257.VAA84408@www.mahoroba.ne.jp>
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2002年07月09日:21時57分24秒
Sub:[HA06N]小説『シルバーローズのある日』:
From:月影れあな
月影れあなです
結夜の小説。SRAの活動っぽいところをちょっと。
これもなんか半端だなぁ
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小説『シルバーローズのある日』
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本文
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近鉄吹利駅前の小さなビル。地下へと続く階段のすぐ横にその看板は立てら
れていた。
「軽食店シルバーローズ」
階段の、黒い煉瓦の壁には蝋燭台がいくつか設置されている。今は点いてい
ないが後一時間もすれば全ての蝋燭に火が灯されることだろう。
なかなか凝った造りの入り口である。ただし、客を忌避させると言う点で、
だ。日の落ちた後、黒い壁に灯る蝋燭の炎は深遠へと続いているかのような
錯覚を覚えさせる。
階段を下りたところには洒落っ気の無い木製の扉があり、ここにも看板がか
かっている。
「OPEN PM8:00〜AM5:00 十字架、聖書、にんにく等の持ち込みは禁止します」
普通の軽食店と考えるとどうも首を捻ってしまうような看板なのだが、この
店の性質を考えるとそれも仕方の無い事だろう。ここ、シルバーローズは吸血
鬼のための店なのだ。
からんからん
乾いた鐘の音を鳴らして扉を開けると、そこにももう一つ扉があった。これ
は万一にも直射日光が店内に入らないように設けられた物で、いわば保険であ
る。
さらに扉を開けて入ると赤い液体の入ったグラスを傾ける一人の一見少年と
、カウンターの向こうでグラスを磨く銀の瞳の一見青年が視界に入ってくる。
一見すると、場末の酒場のように見える。しかし、れっきとした軽食店であ
る。オムライスだって、スパゲティだってある。ただ、ガーリックライスは無
いのだけど……
「よう、若いの来たか」
声をかけてきたのは少年の方だった。この人物、外見こそ十くらいの少年で
あるが、実は SRA吹利支部の中でも一番の長老で、少なくとも千歳は越えた大
物吸血鬼と言う話だ。とり合えず私はこいつの事を御老体と呼ぶ事にしている。
「こんばんわ、御老体。こんな早くからトマトジュースですか」
「何が悪い? これは、言わば我々にとっての“命の水”じゃぞ」
トマトジュースというのはここでは血液の事を指す。メニューには書いてい
ないが、ここでトマトジュースを頼むと血液が出てくる事になっている。
一般人の客も時々来るので、メニューには書けなかったのだが、素材は選び
抜かれた処女の血で、当たり外れの大きい輸血パックなどとは比べ物にならな
い味らしい。と言っても、私自身は飲まないから分からないのだが、わざわざ
遠方からこれを飲みに来る客もいるので、本当に味は良いのだろう。
「銀目、ローズティをくれ」
「バカモンが。あんまり薔薇ばかり飲んどるとそのうち塵になるぞ」
「私の場合はこれで良いんです」
「銀目」と言うのはカウンターの向こうでグラスを磨いてるマスターの SRA
内でのコードネームである。文字通り、銀色の目をしているからつけられた名
前だ。私のコードネーム「金目」とよく似た名前なので、その誼から SRA内で
結構親しい人物の一人である。
からんからん
音がして、一人客が入ってきた。さっと口をつぐみ、さりげなくそちらを見
る。見た目は私と同い年くらいの少女が入ってきた。初めて見る顔である。そ
の人物は私の右隣に四つほど空席を置いて座ると、「トマトジュース」とだけ
いって口をつぐむ。
少しだけ警戒を解き、目線をローズティの方に戻した。あれを頼むなら彼女
も吸血鬼なのだろう。大方、どこかで噂を聞いて良質の血を飲みに来たくちだ。
納得し、ローズティを一口飲み干す。と。ガチャンと言う軽い音がした。思わ
ず音のした右隣を見ると、グラスを取り落とし、胸の部分に血をぶちまけた少
女が立ち上がって銀目のほうを見つめている。なかなかスプラッタな光景だ。
「ば、ばけものっ!」
まったく訳がわからなかった。思わず銀目のほうを向くと、彼も首をすくめ
て少女のほうを見やる。二人の目が合ったとほぼ同時に、少女の体は力を失い、
ぐたっと床に座り込んだ。
相変わらず見事。銀目得意の邪眼である。私も似たような事が出来なくも無
いが、人間にかけるとすれば少なくとも十秒は見つめ続けなくてはならない。
「一体なんなんじゃ」
御老体が血を煽りながら聞いてくる。
「さぁ……銀目?」
「本人に聞いてみましょう」
銀目が言い、目を向けると少女は力なく立ち上がった。焦点の合わない目で
虚空を見つめている。
「貴方は何故あんな事を言ったのですか?」
「……あなた達が、吸血鬼だと、思ったから……」
掠れた声で返答する。相変わらず目の焦点は合わないままだ。
「貴方も吸血鬼じゃないんですか?」
「ちがう……」
「では貴方は何故血を頼んだのです?」
「……噂。学校で、吹利駅前の、シルバーローズって言う店は吸血鬼の巣窟で
、そこでトマトジュースを頼んだら血が出てくるって……」
「なるほど……」
「噂か、まったく何処からもれたんじゃ?」
「ふぅむ、問題だね。ただでさえ保健所の対策二課とかから目ぇつけられてる
のに、噂と言う形でも一般人に知れるとは……そういや銀目、とり合えずこの
人どうするん?」
「そうですね、忘れてもらいましょう……あなたは、ここで見た物の、全てを
忘れます」
再び少女がぐたっと倒れそうになる。慌てて隣に移動していた私が支えた。
「で、この後どうすんのん?」
「目を覚ましてもらって、本物のトマトジュースでもお出ししましょうか」
「血は? 服にべったり」
「おお、そんなことなら任してくれ」
声を上げたのはの御老体だった。言われたとおり、少女の身を御老体に任せ
てみる。
御老体は血のべったりと張り付いた服の胸元に口をつけ、そのまま吸い始め
る。吸い取った部分からみるみる血の跡が消えていった。さすが年の功。まぁ、
すごいが、どう見たって変態にしか見えないところが難点である。
「エロジジィ」
ぼぐわっ
殴られた。吹っ飛んで壁に叩きつけられる。やはりご老体はすんごい吸血鬼
であるなぁと改めて感心しながら、私の意識は落ちていった。
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