[KATARIBE 24682] [HA06N] 『初めての少年野球』

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Date: Wed, 26 Jun 2002 14:56:32 +0900
From: "Motofumi Okoshi" <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24682] [HA06N] 『初めての少年野球』
To: "Kataribe ML" <kataribe-ml@trpg.net>
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MOTOIです。史雄たちの過去の話を小説化しました。
感想などいただけましたら幸いです。

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小説『初めての少年野球』
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登場人物
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 西久保史雄(にしくぼ・ふみお)
  当時、小学5年生。野球好きの少年。初めて練習に参加する。
 十条健二郎(じゅうじょう・けんじろう)
  当時、小学5年生。キャッチャー。体格がいい。
 桐村駿(きりむら・しゅん)
  当時、小学4年生。ピッチャー。小さい体に似合わず速球派。
 榎愛菜美(えのき・まなみ)
  当時、小学4年生。マネージャーとしてチームに在籍、雑用をしている。
 西久保豊(にしくぼ・ゆたか)
  史雄の父。当時は吹利に在住していた。野球経験もある。
 十条幸一(じゅうじょう・こういち)
  健二郎の父。豊の後輩で、今でも親交が深い。「吹利ドジャース」監督。
 そのほか、チームメイト大勢

練習場へ
---------
 天気のいい、春の日曜日。史雄の心は不安でいっぱいだった。親とのキャッ
チボールは日常的に行なっていても、本格的な野球の練習というのはまったく
経験がない。そのうえ、自分は吹利に引っ越してきたばっかりで、友達もまだ
ほとんどいない。いくら楽天的な性格とはいっても、これで不安になるなとい
う方が無茶である。
「史雄、そう硬くなるな。大丈夫、監督もコーチも、みんな親切だから」
「うん……」
 そんな史雄の様子を察してか、史雄の手を握る父が緊張をほぐそうと、声を
かける。だが、それでも史雄の緊張はおさまらない。やがて、練習の行われる
吹利学校小等部グラウンドに到着した。

「あ、西久保さん、おはようございます」
「おはよう。連れてきたよ」
「お、おはようございます」
「ああ、おはよう。……へえ、元気そうな息子さんですね」
「まあ、元気がとりえみたいなやつだからな。ほら史雄、監督さんに自己紹介」
「うん……西久保史雄です。新本町小学校の5年生です。野球は初めてなので
よろしくお願いします」
「礼儀正しいね。僕は十条幸一、このチームの監督だよ。後でコーチのみんな
も紹介するから、しばらく待っててね」
 この十条監督は、豊の中学、高校、大学時代の後輩で、野球部の後輩でもあ
る。そんなコネもあって、史雄はこの野球チーム「吹利ドジャース」に入るこ
とになったのである。このチームは野球部のない吹利学校小等部の生徒を中心
に、周りの小学校の生徒も集まって結成されているチームで、強さとしては中
の上といったところである。

「そうだなぁ……まだ時間あるから、しばらくそこのベンチに座っててよ」
「はい」
「じゃあ父さんは帰るから、監督やコーチの言うことをよく聞けよ。十条、後
はよろしく頼むな」
「承知しました、お気をつけて」
 言われたとおり、おとなしくベンチに座って待つ史雄だが、まだ不安は解け
ていなかった。

顔合わせ
--------
 やがて、コーチたちもグラウンドに到着し、十条監督が史雄に一人ずつ紹介
していく。史雄もコーチたちに挨拶を返す。すると、一人の体格のいい少年が
史雄と十条監督に近づいてきた。
「……へえ、こいつが親父の言ってた新入部員かいな?」
「あ、西久保史雄です。よろしく」
「……フツーの呼び方でかまへんよ。俺もあんたと同じ、小5やねん」
「え?」
 その体格から年上と判断した史雄だったが、同い年ということに驚いた様子
である。

「ああ、こいつは俺の息子で、キミのチームメイトになるやつだ。ほら、挨拶」
「……俺は十条健二郎、キャッチャーをやっとる。国立吹利学校の5年や。西
久保いうたな、これからよろしゅうな」
「うん、よろしくね」
 人当たりのよさそうなチームメイトに最初に会って、史雄も少々安心したよ
うである。
「……お、来よった。おーい、駿」
「おはよー、健ちゃーん」

 駿と呼ばれた少年が三人に近づく。見た目は小1ぐらいだろうか、非常に明
るそうで活発そうな少年だ。その少年が史雄に話しかけてくる。
「えっと、キミ誰?」
「あ、僕は西久保史雄っていうんだ」
「あ〜、なるほど。健ちゃん、この人だね、今日から新しく入ってくる人って」
「……せや。新本町小やから、俺らと学校で会うことはあらへんけど」
「僕は桐村駿、吹利学校の小等部4年生だよ。よろしくね」
「え!?」
 どう見ても4年生には見えないほど小さい駿。史雄、本日二度目の驚きであ
る。

午前中の練習
-------------
 やがて、部員の少年たちが集まり、練習が始まった。まずは準備運動として
全体でランニング、そして柔軟体操。その後、キャッチボールとなった。初め
ての練習で右も左もわからない状態の史雄に、十条監督が自らキャッチボール
役をかって出た。キャッチボールは千葉にいた頃も父とやっていたので、初参
加の史雄にもこなすことができた。
「史雄くん、結構いいボール投げるね」
「あ、ありがとうございます」

 続いて、トスバッティング。史雄は、金属バットを握るのは初めてである。
まず、バットの握り方から始まり、構え方、振り方を説明する十条監督の話を
真剣に聞く史雄。最初は空振りばかりだったが、だんだんとバットに当たるよ
うになってきた。が、打球方向はてんで定まらなかった。
 続いて、全体練習に入る。先輩達がノックを受けている間も、史雄は十条監
督に個人指導を受けていた。主に守備の指導で、捕球の仕方や送球の仕方など
基本的なことを教えていく。もともとプロ野球の観戦は頻繁にしていたため、
ルールはわかっていた史雄だが、見るのとやるのでは当然ながら全く違う。そ
れでも、飲み込みはかなり早く、午前の練習が終わる頃には、動きもかなりさ
まになっていた。そして。
「よーし、午前中はここまで。食事にするぞ」
「やったー!」
「あー、お腹減った」
「ふう、飯、飯」
 部員達の歓喜の声。待ちに待った昼食タイムである。

昼食タイム
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 この「吹利ドジャース」は、昼食は弁当持参となっている。史雄も、早速母
が作った弁当を広げ、食事を始めた。すると、新入部員が珍しいのだろう、他
の部員達からの質問攻めが始まった。
「ねえ、新本町小に通ってるんだってね」
「うん、そうだよ」
「転校してきたばかりなんだって?」
「うん、前までは千葉にいたんだ」
「千葉ってどこ?」
「う〜んと……東京の近く」
「東京!?すごいね」
「いや、でも、街の感じは吹利とそんなに変わらないと思うよ」

 質問は続く。
「ところでさ、西久保君って、好きなチームとかあるの?」
「僕は、ロッテが好き」
「ロッテ?だっせ〜」
「そんな弱いところ応援してるの?」
「え……」
 吹利は、その土地柄、阪神や巨人のファンが多数派で、ロッテファンはかな
りの少数派である。特に、前年(1998年)には、日本記録の18連敗とい
う不名誉な記録を打ち立てたこともあって、「弱小チーム」というイメージが
かなり強かったのである。
「やっぱり巨人だよー。松井とか高橋とかさぁ」
「そうだよ、ロッテなんて弱えーし、だっせーよ」
「うう……」

 黙りこんでしまう史雄。そこへ。
「キミ達、そんなことで差別したら、かわいそうでしょ!」
 と、見知らぬ少女が史雄をかばうように話に入ってきた。
「どうして、そういうこと言うの!?」
「う、愛菜美……」
 愛菜美と呼ばれた少女に続いて、駿と健二郎も話に入ってくる。
「黙って聞いてりゃ、好き勝手なこと言うね。どこ応援しようと勝手じゃない」
「……お前ら、チームの和を乱してどうするんや」
「わ、わかったよ……悪かった、悪かった」
「……謝る相手は俺やないやろ、西久保やろ」
「あ、ああ……ごめん、西久保君」
「い、いや、もういいよ」

 ばつが悪そうに去っていくチームメイト。代わりに、史雄をかばってくれた
三人が、史雄に話しかけてきた。
「嫌な思いさせちゃったね」
「ありがとう、桐村くん、十条くん。それに……えっと……」
「あ、私は榎愛菜美っていうの。このチームのマネージャーだよ。普段は、吹
利学校の小等部に通ってるの。今は4年だよ」
「……今日は遅いやないか」
「ちょっと、家の用があってね。監督さんから聞いたよ、今日から入ったんだ
って?」
「うん、僕は西久保史雄っていうんだ。今年新本町小に転校してきたんだ」
「ロッテのファンなら、私たちとライバルだね」
「え?」
「私はダイエーファンなんだ」
「僕は近鉄」
「……俺は西武や」
「へえ、そうなんだ」
 その後、パ・リーグ談義に盛り上がる四人であった。

午後の練習
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 やがて、昼食の時間も終わり、午後の練習が始まった。まず、腹ごなしの軽
い運動から始まり、再びキャッチボール。今度は、史雄は駿と組んだ。駿の投
げるボールはその体型からは想像もつかないほど速く、史雄はやっとの思いで
捕球した。
「桐村くん、すごく速い球投げるね」
「西久保くんこそ、初めてなのに、よく捕れるよ」

 続いて、内野手と外野手に分かれ、守備練習に入った。十条監督に希望ポジ
ションを聞かれた史雄だが、迷って結論は出ない。取り合えずという形で、外
野の練習に参加した。
 そして、他の部員や監督、コーチたちを驚かせることになる。捕球こそうま
くできなかったものの、非常に足が速いのだ。また、フライに対する打球反応
も良く、捕れはしなくてもほとんどの打球に追いついていた。このとき、十条
監督は、史雄を外野手として育てることに決めた。
 
 次に、チームを二つに分けて、交代で実戦形式の打撃練習に入った。この打
撃練習で、健二郎がいい当たりを連発。少年野球用のグラウンドなら、間違い
なくフェンス越えという当たりを放ち、史雄を驚かせた。史雄はというと、バ
ットに当てるのが精一杯といった感じだった。

 そして、仕上げの全体ノック。ここで史雄はセンターに入ってノックを受け
た。トンネルや落球もあったが、やはり打球には追いついていた。また、肩も
よく、速い送球でキャッチャーの健二郎も驚いていた。

 最後に、ベースランニング。ここでも史雄は足の速さを見せたが、ベースで
大きく膨らんでしまい、一周のタイムは決して早くなかった。ここで再び十条
監督の個人指導。ベースの踏み方を教えるが、初めての練習で疲ている史雄の
耳には半分ほどしか届いていなかった。

 その後、もう一度全体でランニングをして、この日の練習は終了した。

練習終了後
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「お疲れ様、史雄くん。どうだった?」
 十条監督が声をかける。
「疲れました。でも、すごく楽しかったです」
「……そらよかったで」
 そこに、史雄の父、豊が現れた。
「史雄、迎えに来たぞ」
「父さん!あのね、すごく面白かったよ」
「そうか、それはよかったな。どうだ十条、こいつの出来は?」
「いや、かなりセンスありますよ。今年中にはレギュラーになれます」
「おいおい、そりゃ買いかぶりすぎじゃないのか?」
「いや、本当ですよ、冗談やお世辞なんかじゃありません」
「そうか」

 そのうち、駿と愛菜美が史雄に近づいてくる。
「西久保くん、お疲れ様」
「どう、僕たちと一緒に帰らない?」
「悪いけど、お父さんが迎えに来てるんだ。車で」
「そうなの?残念だなぁ」
 その会話に、豊が割って入る。
「いいじゃないか、一緒に車に乗っていけば」
「え、いいんですか?」
「早速友達が出来たか。結構結構。二人とも、家はどこだ?」
「私は、幡多町です」
「僕は、近鉄吹利の駅前のマンションだよ」
「よしわかった、二人とも、乗った乗った」
「ありがとうございます!」
「やったぁ、歩く手間がはぶけた!」
「じゃあ、僕もこれで失礼します」
「おう、十条、来週もよろしくな」
「……西久保、また来週な」
「うん、またね」

 そして、帰りの車の中でも、話題の尽きない三人であった。

解説
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 初めて野球の練習に参加したときの史雄。駿、愛菜美、健二郎との出会いの
エピソードでもあります。

時系列
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 1999年4月某日(日曜日)。

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なお、文中の「新本町小学校」は、勝手に作りました。
不都合等あれば指摘をお願いします。
なければ、後日百科事典に登録してしまおうと思っています。

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Motofumi Okoshi

    

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