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Date: Sat, 4 May 2002 01:19:57 +0900 (JST)
From: 月影れあな <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24417] [IC04P] エピソード『ある日』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200205031619.BAA03674@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 24417
2002年05月04日:01時19分57秒
Sub:[IC04P]エピソード『ある日』:
From:月影れあな
月影れあなです。
好っちのエピソード、ちょっと書いてみたり。
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エピソード『ある日』
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登場人物
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玖々津好(くぐつ・よしみ)
:超針師。コルチキンタワーに来てまだ日が浅い。
六石神楽(むついし・かぐら)
:好の級友。実はニンジャ。
起床
====
朝と言うか、すでに昼前。目覚めて寝床の扉を開くと、そこにだらんと何か
紐のようなものがたれていた。
好 :「……何してるの?」
紐をたどって上を見上げる。そこには、珍妙な格好をした女が一人天井に張
り付いていた。
その人 :「エリマキトカゲごっこ」
首に巻いた制服のスカートには針金が通してあり、尻の部分からは尻尾のよ
うな変な紐がたれている。しかし、言われてみてもエリマキトカゲには見えに
くい。
その人 :「あなた新入生よね? あたしといっしょにエリマキトカ
:ゲ部に入らない?」
と抑揚の無い声で言って、でろ〜んとこちらに顔を向ける。
好 :「……エリマキトカゲは天井に張り付かないわよ。そうい
:うことするのはヤモリでしょ?」
とかつっこんでみる。
その人 :「………」
好 :「もしもし?」
その人 :「ああ」
また抑揚の無い声で言った。
その人 :「ショックを受けた。がーん」
SE :べちゃ
やけに生々しい音を立てて、その人は地面に落ちた。
その人 :「ああ、泥沼……」
そのままずぶずぶと床に沈んでいく。
好 :「………」
しばらくその様子をボケっと眺めていた好だったのだが、やがてその人が完
全に沈んでしまうと、自分のすべき事を思い出したのか、また何事も無かった
かのように歩き出す。
のっけからへんてこなコルチキンタワーの朝だった。
教室
====
がらがらと音を立てて教室の戸を開く。
教師 :「好さん、今何時だと思ってるんですか!?」
その問いに、未だ寝ぼけたままの好は、のってりとした動作で腕時計に目を
向ける。
好 :「……十一時」
教師 :「………」
あとから考えると、あの返答は少々まずかったかもしれない。
SE :ぶぉ〜〜
ちょうどその時、終業のチャイムが鳴った。チャイムと言うより、ほら貝の
ような音なのだが、ここはあえてチャイムと言おう。
教師 :「今日はここまで。好さん、あなたは遅刻の罰として教授
:業で進んだ教科書のページをノートにまとめて次の授業ま
:でに提出なさい!」
そんな事言われても、好は教科書どころかノートすら持っていない。そもそ
も、この教師が誰なのかすら初対面で知らないし。
そんな好の内心を気にせずに、教師はすたすたと教室を出て行った。
六石 :「好さん、相変わらず重役出勤ですねぇ」
ドサクサのうちにクラスメートになっていた六石が呆れたように声をかけて
くる。
六石 :「それに、制服も着てないじゃないですか。だめですよ、
:一応制服はきちんと着ないと、風紀委員に風紀ビームで正
:されちゃいます」
好 :「ここの風紀委員はビームまで出るの?」
六石 :「さぁ、私は見たことありませんけど、出してもおかしく
:ありません」
好はなんとか六石の顔に冗談の色を見出そうとするが、彼女の顔は全くもっ
て真顔そのものだった。
そんなものかもしれない。深く考えない事にして、かばんを持ち上げる。
六石 :「あれ? どこに行くんですか?」
好 :「決まってるじゃない。帰るのよ」
六石 :「でも、まだ来たばっかりじゃ」
好 :「授業は終わったんでしょ? じゃあ、あたしにここにい
:る意味は無いわ」
さっさと教室を出る。
六石は後を追っては来なかった。
放課後
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廊下を大またで颯爽と歩きながら好は考える。
今朝、部屋の前にいたあれはなんだったのだろうか? 起きて来るところを
見られたからには、また寝床を換えるべきかもしれない。
謎 :「もし」
唐突に呼び止められた。
振り返ると、小柄で黒いスーツを着た優男がこちらを向いている。何か用だ
ろうか?
謎 :「わたくし、絶望屋の黒須と申します。絶望はいかがです
:か?」
好 :「間に合ってます」
きっぱりと断って先を急ぐ。まぁ、急ぐと言っても目的地があるわけではな
いのだが、かといって変人の相手をするほど暇ではない。
絶望屋 :「甘美な絶望はいかがですか? これ一つで無限都市でも
:平気で生きることが出来ます」
好 :「いらないって言ってるでしょ!? 絶望なんてここに来
:たときから有り余るほどに足りてるのよ!」
絶望屋 :「そうでしょうか?」
思わずぴたりと足を止めていた。
好 :「あ、当たり前でしょ」
絶望屋 :「わたくしにはそうは思えません。あなたは真に絶望しきっ
:ていない」
絶望屋は歌うように語る。
絶望屋 :「ある時不意に、元の世界に戻れると、今でもどこかでそ
:う思う。あなたは未だにこの塔から飛び降りていない。死
:んでしまってはもう戻れないと思って、どこかで、この世
:界ではありふれた死を、死を拒絶してしまっている。だか
:ら毎日、枕もとに日記をおいて、昨日自分が死ななかった
:かを、恐る恐る確かめているのさ」
好 :「だまりなさい!」
しゅっと針を突き刺す。絶望屋は以外にあっさりと弾けとんだ。
好 :「はぁ、はぁ、はぁ……」
動揺に乱れた呼吸を整える。だんだん落ち着いてきた。
好 :「はぁ……ふぅ」
絶望屋の言った事を脳裏で反芻する。たしかに、自分はどこかで、これがた
だの悪夢である事を期待している。否定しがたい事実だ。絶望しきってはいな
い。それを支えに生きていると言っていい。
……はたして、自分は絶望したときに何が起こるのだろうか?
窓の外を眺めて独り語つ。
好 :「あたしにもここから飛び降りたくなる時が来るんだろう
:か?」
答えるものは何処にもいない……
今は。
解説
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無限都市に来てまだまだ日が浅い好。
日が浅いだけあってまだ順応しきっておらず、色々考えるようです。
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