[KATARIBE 24390] [IC04P] 小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その五』

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Date: Mon, 29 Apr 2002 23:45:29 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24390] [IC04P] 小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その五』 
To: kataribe-ml@trpg.net
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2002年04月29日:23時45分28秒
Sub:[IC04P]小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その五』:
From:月影れあな


 月影れあな

 一応完結で〜す。やっと終わりました。
 う〜ん、完成したら完成したでなんかもっとよく出来たような気がする。
 う〜む、やっぱものかきは難しい。

***********************************

「さぁっ! 勝ちに行くわよ!!」
 なんだかやたら張り切った感じで好は声を張り上げた。
「でも、好さん。この人数で教団に攻め込むなんて無茶がありますよ」
 さっきまで倒れていた四石が今は元気になって意見を上げている。
 結論から言うと、四石の傷は決して軽くはなかった。正直、放っておいたら
死は免れなかっただろう。まぁ、ここ無限都市では死んでも別に問題ないのだ
が。
「頭蓋骨陥没してるわねぇ、血も止まらないし」
 すっと、額に刺さった仮死の針を抜く。
 どくん どくん
 心臓が再び動き始めた。作業は迅速に開始しなければ。
 四石の体の上を、ものすごいスピードで好の手が動く。
「止血針、超再生促進針、形状矯正針、催眠針……まぁ、こんだけ刺しとけば
一時間で直るでしょ」
 気が付けば、四石の体は数百の針で被い尽くされていた。
「ひゃあ、まるでハリネズミね」
 とりあえず、予告通り一時間で四石は完全に回復した訳である。
「すぅごいてなみだねぇ〜〜」
 たこの様なままの栖神が感嘆の声を上げる。いい加減鬱陶しくなったので、
針を抜いてやる。
「あ〜、ん。さて、ミス玖々津。いったいどうするつもりだね? たった三人
で行っても返り討ちに会うだけだ」
「さっきの委員長たちは呼び出せないの?」
「無理だ。向こうが拒んでいる限り、強制的に呼び出すことは出来ない。それ
に、彼らは戦力にならんだろう」
 と、栖神は首を振る。
「もしかして、それをあてにしていたのか?」
「まさか、聞いてみただけよ」
「ではどうやって?」
「こうするのよ」
 先程死に絶えた狂信者達の屍体の内、一体の焼死体の前に歩み寄り、頭頂部
に針を突き刺した。
 ぎりぎりぎり
 不自然な音を立てて、その屍体が起き上がる。
「傀儡の針、死人だって動かすわ」
 言うと、どんどん他の屍体にも針を突き刺していく。
「す、すごい」
 四石がポツリともらす。
 そこに、数十人からなる死者の軍勢が出来ていた。
「さぁ、行くわよ!」
「ちょぉ、ちょぉっとまつあるぅ〜」
 気の抜けた声に呼び止められた。
「なに、あんたまだいたの?」
 ぐるぐるにふん縛られた王太郎がたこのままで転がっていた。
「あたしもぉ、つれていってほし〜あるねぇ〜……」
「ああ、鬱陶しいなぁ!」
 ばしっと、頬の針を抜き取る。
「言いたい事あるならはっきり言いなさい!」
「そんな事言われても、あの針刺したのはあなたアルヨ」
「なに? なんかもんくあんの!?」
 ギロリと凄みを利かせて睨みつける。
「い、いえ、とんでもないアルヨ」
 コホンと咳を一つして、言い直す。
「あたしも一緒に連れて行ってほしいアル」
「ダメ、却下、ボツ、一生そこで転がってなさい」
「取り付く島もないあるか!?」
 王太郎は悲壮に顔を歪めた。気の毒に思ったのか、四石が横からとりなして
くる。
「話くらい聞いてあげたらどうでしょう?」
 ぱぁっと、一瞬王太郎の顔が明るくなる。
「ダメダメ、一介話し聞く態度取っちゃうと絶対付け上がるから」
 がくっ
「かわいそうですよ、あんまりにも」
「四石は優しいのね、でも……」
 にやりとすごい笑みを形作る。
「……優しいだけじゃ、世の中は渡っていけないのよ」
「はぁ、それなら仕方ありませんか……」
「でもまぁ、聞くだけな良いかもね」
「ほんとアルカ!?」
「ほんとほんと、さっさと言え」
「実は、あたし好きで死ン理教団の手先なんかやってるわけでないアル。実は
、あたしの妹が教団の人質に取られているアル。それで、仕方なくあなた方を
襲たアルネ。でも、あなた達強かたアル。だから、仲間にしてもらって妹取り
戻したいアル」
「まぁ、なんで可哀相ですぅ」
 しくしくと、四石が泣き始めてしまった。
 好は溜息をつくと、栖神に耳打ちする。
『ねぇ、あのこあれでほんとにニンジャなの?』
『うん、それなんだけど、実際のところ演技でやっているのか本気でやってい
るのか僕にもよく分からないんだ』
『それにしても、あんなあからさまな話に騙されるなんて、ちょっとダメなん
じゃない?』
『ふ〜む、正直、僕もどうかと思っている。でも、うちの委員長たちの中で唯
一の戦闘要員だからね』
『体育委員とかいないの?』
『いる事にはいるんだが……体育委員の趣味が実は手芸でね、運動の方はから
きし』
『はぁ、世の中ままならないわねぇ』
「二人とも、何をこそこそ話してるんですか?」
 気付くと、四石が不思議そうにこちらを見ていた。
「いや、なんでもないわ。あはは」
 手を振って誤魔化す。四石はまだ不思議そうな顔をしていたが、深く追求し
ようとはしなかった。
(それにしても、どうした物かなぁ……)
 胸中でぼやく。ここで打ち捨てて置く事は簡単だが、それだけでは芸が無さ
過ぎるし、四石も嫌な顔をするだろう。
(さて……)
 ふと、名案が浮かんだ。
 飛び切りの悪戯を思いついたときのように、にんまりとほくそ笑むと何食わ
ぬ顔でしらっと言葉を放つ。
「じゃあ、一緒にきてもらいましょうか、ただし……」
 ひゅっと、好の針が空を切る。
 そこで、王太郎の意識は途切れたので、後に続く言葉を聞く事はなかった。
「……下準備は済ませた後にね」


 四石の案内で連れて来られたそこには、石造りの高い塔が立ってた。
「《走って》行ったらすぐなんですけど、皆さん場所知らないでしょう?」
 栖神の話によると、無限都市には《疾走》と呼ばれる特殊な走法があって、
それを使えば一度行った事のある場所になら行く事が出来るそうだ。逆に言う
と、それを使わない限り同じ場所には二度と戻れないという。
 さて、何故四石がそれをできたかと言うとだが。
「ニンジャですから♪」
 ニンジャ恐るべし。
「はっ! ここ何処アルカ」
 と、気絶して栖神の女給に運ばれていた王太郎が目を覚ました。
「一体何があたアルカ? ここ、教団本拠ネ」
「ごめんなさいね、身体検査のためちょっと眠っててもらったのよ」
「身体検査アルカ?」
「そう、物騒な物持ってて裏切られたらかなわないから。ごめんね」
「はぁ、別に良いアルガ」
 王太郎は口をつぐんだ。
「さて、それじゃあ、張り切って行くわよ!」
 と、巨大な門に針を突き刺す。
 がちゃんと鍵の外れる音がして、門は自動的に開き始めた。
「便利な能力ですねぇ」
 塔の中には一人の人しかいなかった。
 部屋の広さは小さな講堂くらいで、その人は部屋の中心部に座していた。上
半身のほとんどを覆う髪でどんな顔かは判らないが、漆黒のセーラー服を着て
いるので一応女らしいということだけは判った。周りには八本の蝋燭、梵字で
かかれた呪文、何故かバケツ、等々おどろおどろしいアイテムであふれかえっ
ている。
「ああ! あの人は!」
 突然に四石が叫んだ。
「知ってるの?」
「オカルト研のエリザベード寺神です。核アイテムの藁人形を使って、人を呪
う事に掛けては右に出る物がいない呪いのエキスパートだとか! 去年まで権
勢を誇っていた第三東校舎第七生徒会の高倉会長をその地位から引き落とした
のもあの呪いによってだそうです!」
 活き活きと解説してくれる。
「第三東校舎第七生徒会って……生徒会ってここだけじゃないの?」
「乱立する部及び同好会の中でも五本の指に入るくらい生徒会組織は多いんだ。
うちで確認しているだけでも百五十以上の生徒会が存存在する」
 横から栖神が口を挟んできた。
「はは、そうなの」
 改めて、無限都市というものの異常さを認識した。
「ひィーっひひひひひひひ」
 突然、甲高い不気味な笑い声があたりに轟いた。
「殺人やきゅゥー部の王さんン? う、裏切りまシたねェ。それなりの覚悟は
出来てますね?」
 カンっ
 高い音がこだました。寺神が藁人形を売った音だ。
「う、ぐぅ」
 王太郎がその場に手をつく。がくがくと全身を痙攣させており、いかにもや
ばい状況だと一目でわかった。
「あんた、何したの!?」
「の、呪ってルんですぅうひひひ」
 口調からも溢れ出さんばかりの不気味さが感られる。というか溢れ出してい
る。
「ちょっと、しっかりなさい!」
 王太郎の頬を叩く、それでも効果はなかった。焦点の合わない目で虚空を見
つめ、全身を痙攣させる。
 仕方ないので好は、王太郎の額に針を突き刺した。
 あっさり、痙攣が止まる。
「なぁにをしたァ?」
 ぞろりとした口調で寺神が訊ねてくる。四石は恐怖からか「ヒィ」と小さく
悲鳴を上げるとその場にうずくまってしまった。栖神は相変わらず女給に守ら
れて突っ立っている。好はと言うと全く臆していない。
「仮死の針をついたのよ。今、彼は死んでいるわ」
「な、なぁるほど。ひひ、死んでたらそれ以上死なナいって事ぉ」
「そういう事」
「なぁら、貴様から呪い殺してくれるァ!」
 と、寺神は懐から別の藁人形を取り出し……
「? どしたの?」
 そのままの姿勢で止まった。
「ひ、ひィーひっひひ」
 ひきつけの様に一息笑うと、かさかさかさと妙な動きでこちらに高速接近す
る。
 そして、好の目の前でピタリと立ち止まった。
「呪い殺してくれるから、髪一本おくれ」
 と、右手を前に差し出した。
「……頭痛がしてきた」
 頭を抱えて唸る。寺神は手を出したまま「早くおくれ」なんて催促している。
「………」
 ばしっ
「あうっ」
 寺神は、好の放ったデコピンにあっさりと倒れた。
「てめぇ、やる気あんのか!?」
 そのままがくがくとゆする。
「や、やぁめて、前髪が……」
「前髪がどうしたって言うのよ!?」
 ばっと寺神の前髪をどかす。
「きゃうん、恥ずかしい」
 そこにあったのは、眼鏡をかけた童顔の信じられないほどの絶世の美少女だ
った。
「……は?」
「思い出しました!」
 突然四石が声を上げた。
「彼女はずいぶん前どっかで行われたミス無限都市コンテストで大将に輝いた
寺神なるみです! 極度の赤面症で、授賞式が行われる前に逃亡したと聞きま
したが、まさかあのエリザベード寺神と同一人物だった……」
「言わないでくださいぃ、恥ずかしいですぅ!」
「口調まで変わってるし」
 脱力して手を離す。
 あんな格好で、変な藁人形打ってる方が何倍も恥ずかしいと思ったのだが。
「ところで四石君」
 ふと思いついたように、栖神が声を上げた。
「はい?」
「口調とか、微妙にキャラかぶってないか? 君と彼女」
「………」
「………」
「………」
 四石は肩をすくめ、ふぅっと吐息を漏らした
「仕方ありません。抹殺しましょうか」
 さわやかに微笑む。
「ええええええええええっ!?」
 ばたっ
 寺神は悲鳴をあげたあと、ショックで気絶してしまった。
「……四石、あんた時々怖い事平気で言うよね」
「はい? そうですかねぇ」
「しかも、自覚が無いときてる……」
 こいつだけとは喧嘩しない。
 心に固く誓う好だった。
「ふむ、階段があるだけみたいだな。登って来いという事か」
 あたりを女給に調べさせていた栖神が言った。
「なーんか、展開が読めてきたんだけど……」
 そう言ってげんなりと肩を落とすと、ぴっと王太郎の額の針を抜く。
「ねぇ、王君。もしかして大司教のいる部屋って最上階だったりする?」
「そうアルネ。この塔、百八の階層があって、そのそれぞれに教団の精鋭が一
人ずついるアルヨ。ちなみに、あたしは第七十二階層を守ってたね」
「なるほどね。ありがと」
 それだけ聞くと、好はにっこりと微笑んだ。


 ごごごごごごごご
 音を立てて塔が崩れ落ちていく。
「まさに壮観だな」
 栖神が呟いた。四石と王太郎は言葉も無く呆気に取られている。
 塔を崩すなんて事、意外に簡単だった。
 針一本、好が刺しただけである。
 そういえば、気絶した寺神をそのままにしていたかもしれない。まぁ、大丈
夫。生き返るから。
 やがて、塔が完全に瓦礫と化した後、四石がポツリともらした。
「す、すごいですねぇ」
「ふふ、自慢だけど針一本で塔を崩せる人間なんてあたしくらいのもんよ」
「いや、そうではなくて」
 胸をはる好に向かって首を振る。
「自分の弟がてっぺんにいる塔をこうも情け容赦なく完膚無きまでに破壊でき
るってところです」
「弟? ……あっ! あ、あははは」
「って、忘れていたんですか!?」
「大丈夫大丈夫……多分 ほら、どうせ生き返るんでしょ?」
「まぁ、それはそうですが」
 がらがら
 瓦礫の崩れる音がした。
「えっ?」
 ザシュッ ザシュッ
 肉の切れる音がして、栖神を守っていた女給たちが倒れる。
「あ……」
 栖神自身は、女給の返り血にまみれた自分の体を見つめて呆然としている。
そして、正気に返るほどの間を置かず。
 栖神の首が落ちた。
「何っ!?」
 瓦礫の方に一人の人間が立っていた。子供くらいの背の高さで、左手に仰々
しい格好をした人を抱え、右手にかみそりを手にしているている。抱えられて
いる人はうつ伏せで顔は見えないが、おそらく大司教、すなわち信樹であろう
事は服装から予測がついた。
「君達かい? 無茶をするね」
 甲高いボーイソプラノで悪戯した子供を諭すように言ってくる。
「あんた何者!?」
「ぼくは最上階の守護者だった淫楽殺人友の会の会長、《ザ・リッパー》。親
しい人たちからはジャックって呼ばれているよ。君達みたいに強い人にはそっ
ち呼んでほしいな」
「で、《ザ・リッパー》さんは何をお望みかしら?」
「やれやれ、つれないなぁ」
 ジャックは大仰な仕草で肩をすくめる。
「教団本部をつぶしたあたし達に対しての報復行動かしら?」
「いや、正直、そんなことどうでもいいんだ。君達が塔を破壊した事も、湯ヶ
島の奴を殺した事も……」
「じゃあ何?」
「僕の望みは……」
 ギンッ
 刃と刃のぶつかり合う嫌な音がした。
 あわててそちらに目を向けると、四石が何も無い方向に向かって小太刀を構
えている。いや、何も無かったわけではない、四石の足元に転がる数枚のかみ
そりの刃がそれを物語っていた。
「へぇ、君もなかなかやるんだね」
「ふざけないで! あんたの何のつもりなの!?」
 するとジャックは、口の端を上げて邪悪な笑みを浮かべる。
「教えてあげるよ。ぼくの望みは戦い。言っただろ? 淫楽殺人友の会の会長
だって。ぼくは強い人間を嬲り殺す事に至上の悦びを覚えるんだ」
 どさ
 左手に抱えた人間をその場に落とすと、ジャックは跳躍した。
(速い)
 一瞬にして懐に飛び込んできた。
 ニィと、こちらを向いて笑う。
(こいつ!?)
 攻撃をそらそうとするが、すでに間に合おうはずも無い。
 ギギンっ
 と、突然横から飛んできた二つの小刀をジャックがかみそりの刃で叩き落と
す。
 その隙に好は、慌ててとびずさった。
「やっぱりだ」
 ジャックは無邪気に微笑んだ
「君は攻撃に特化している分、防御が全くなっていない」
「忍法、火遁の術!」
 ジャックの足元で、炎が巻き上がった。だが……
「無駄だよ」
 意にも介せず、あっさりと炎を切って散らす。
「どうしたの? まさかそれだけって事は無いよね?」
 ふふんと鼻で笑う。
「死ねっ!!」
 四本の針をジャックの足元に投げつける。
 ゴゴゴゴゴ
 突然地鳴りが始まった。
 ジャックが驚く暇も無く、四方の地面が隆起し、ジャックを取り囲む。
「なっ!?」
「クラッシュッ!」
 どごんっ!
 好の叫び声を合図に、土の壁がジャックを押しつぶし、一本の石柱と化した。
「わぁ、すごいです」
 四石が感心を隠そうともせずに駆け寄ってくる。
「ふふ、ざっとこんなもんよ」
 親指を立てて見せる。
「本当に好さんすごいですねぇ。私、ファンになっちゃいそうですよ。そうだ、
今度……」
 ブンッ
 何かを放り投げるような音がして、四石の右腕が千切れとんだ。
「キャアっ!」
「よ、四石!?」
 はっとなって石柱の方を向く。
「そんな!?」
 石柱には無数の罅が入っていた。四石の右腕を吹き飛ばしたのも、その日々
の中から飛び出してきたかみそりの刃だ。
「この程度で勝ったつもりかい? 全く、とんだ甘ちゃんだね」
 子憎たらしい声が聞こえて、石柱が吹き飛んだ。
 そこには、ジャックが傷一つ無い状態で立っている。
「どうした、それだけ?」
 挑発するように肩をすくめる。
(莫迦にしてっ!!)
 カァっと頭に血が上る。
「覇ァッ!!」
 思い切り力を込めて、父の形見である核アイテムの針を突き刺した。四石の
後頭部に。
「へぁっ?」
 間抜けな声を上げて、四石の動きが止まった。
 その隙に、一本、二本、三本、四本、どんどん突き刺していく。
「何をした?」
「秘技、修羅降臨針とでも名付けましょうか?」
 不敵に笑うとジャックを指差し、一言命令を下した。
「行ってあれを壊しなさい」
「ぐあぁあぁあぁあぁああっ!!」
 明らかに正気を失った様子で雄たけびを上げ、ジャックに突進する。
 それまでとは比較にならない速度だ。
「くぅっ」
 慌ててジャックも応戦する。無数のかみそりの刃が四石を切裂かんと飛び出
した。だが……
 ギギギギギギギギギンッ
 その全てが小太刀によって叩き落とされる。そのまま接近戦にもつれ込んだ。
 四石の繰り出す小太刀の一撃がジャックのかみそりによって防がれ、ジャッ
クの投げるかみそりの刃が四石の小太刀によって受け流される。
 ひゅっと四石が含み針を吹けば、ジャックは眼前でそれを見切り、かみそり
で跳ね返して、その隙をつこうとまた四石が攻撃する。
 そのままずっと接戦は続く。
(くく、この勝負貰った)
 絶体絶命に思われた状態なのだが、ジャックは心中でほくそえむ。
(このニンジャ、一見有利に見えて実は右腕が無い。針で止血されているとは
言え、いつか確実に隙ができる)
 ものすごい速度の攻防の中でも、ジャックならそれを見出す事はできる。
(見えた!)
 四石が小太刀でかみそりの刃を叩き落した時、大きな隙が見えた。ジャック
は勝利を確信する。簡単な事だ、あとはそこをつけばよいだけで……
 がくん
 急に、ジャックの全身から力が抜けた。
(なんだ!?)
 体の調子がおかしい、思うとおりに動かない。
「どうやら、効いてきたようね」
「な、何を……」
「高山病よ」
 好が指差した先を見ると、そこには一本の針が浮いていた。
 否。
 一本の針が宙に刺さっていた。
「空気の流れを操る点を突いてね、この辺の空気を薄くしたのよ」
「ば、莫迦な。何故……」
「なんで四石は平気なのかって? こいつはニンジャだからね、多分そういう
訓練が出来てるんでしょ」
 そして、冷酷に言い放った。
「とどめを刺しなさい」
「究極忍法! 奥義鉄火爆殺陣!!」
 ドババババババババッッ!!!
 無数の爆炎が弾け、ジャックの体を包み込む。
「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
 いつしか悲鳴すらも途切れ……
 後に残ったのは、黒くこげた一つの屍体だけだった。
「おつかれさん」
 好が四石の肩を叩くと、四石は力なく崩れ落ちた。
 やれやれと、好もその隣に腰掛ける。


「くっくっく、ハーっはっはっは!!」
 好がせっかく良い雰囲気に浸っているところを、一つの高笑いが打ち消した。
「今度は何?」
 だるそうに視線をやると、そこでは、戦闘中何をしていたのかわからない王
太郎が大司教の肩を支えてずでんと立っている。
「ついにあたしの時代が来たアルネ! あなた今疲れ果ててるアル、あたし今
なら楽に倒せるアル!!」
 と、威張ってる。
「首」
 他人事のように好が呟いた。
「首?」
「あんたの首にあるでしょ」
 何のことかよくわからなかったが、とりあえず王太郎は自分の首をまさぐっ
た。
 とたん、サァーと顔を青くする。
「な、何アルかこの針は!?」
「さっき身体検査した時に刺しといたんだ、それ抜くと……」
 ちゅどむ!
 爆音がした。
 紅蓮の炎を巻き上げて、王太郎の体の破片と、ついでに大司教の体が宙を舞
った。
「……それ抜くと爆発するから気をつけてね♪ と……さて」
 と、好は腰をあげる。ゆっくりと、うつ伏せに倒れる大司教の下へと歩み寄
る。
「信樹! さっさと起きれ!!」
 ところどころこげたその体を足でひっくり返す。
「ん?」
 違和感に気が付いた。
 ガバっと襟元を掴み、まじまじと顔を観察する。
「………」
 別人だった。
「こら、あんた」
「はにゃ?」
「はにゃじゃない! あんた大司教じゃないの!?」
「う、ぐ……違いう。私は大司教様の代理だ」
「信樹は何処よ!!」
「信樹?」
「あんたらの言う大司教パールさまの事よ! 知ってるんでしょ!? おらお
ら、はけぇ!!」
 ゆさゆさとおもいっきり揺さぶる。
「だ、誰が貴様ら異教徒に!」
「そう……」
 好はすっと目を細めると、一本の針をその男の喉の奥にまで突っ込んだ。
「うぐぁ、なにを……」
「自白の針よ、さぁ、言いなさい。信樹は何処!?」
「だ、だれが……く、こ、コルチキンタワー……」
「コルチキンタワー!? どこよそこ? 何しに行ったの!?」
「こ、コルチキンタワーは《学園》の校舎の一つ……大司教様はそこへ布教の
旅に……」
「……そう、ありがと」
 もう一本針を突き刺して黙らせると、好は早速四石を起こしにかかった。
「四石、起きなさい四石」
「はにゃ?」
 四石は、ぼーっと目を開けた。
 そのまましばらくぼーっとしていた四石だったが、ふと気付いたように聞い
てきた。
「あれ? 私の右腕……」
「ああ、それなら針でくっつけといたわ。放っておけば一週間くらいで元に戻
るけど。どうしても苦しいなら十二時までにさっさと死んだ方が楽かもね。と
ころで四石、あんたコルチキンタワーって知ってる?」
「あ、はい。知ってます。何なら案内も出来ますけど、どうかしたんですか?」
「ちょっとね……」
 と、言葉を止める。自分は何のためにそこへ行こうとしているんだろうか?
 懐古? 心配? 甘え? いや、そうではない。そんな物のためにではない。
そんな答え認めたくない。
 好は自分の中に言葉を捜す。何故? 何のために? 答えは意外に早く見つ
かった。
「ちょっと、殴らなきゃならない奴がそこにいるのよ」
 心底楽しそうに微笑んだ。



 好は今コルチキンタワーの前に立っていた。
 目の前に立って改めてそこを見上げる。カタツムリのように捩れ上がった外
観は、何処から見ても奇妙だ。今まで、と言っても丸一日ほどの経験しかない
のだが、無限都市内で見てきたどの建物よりも奇妙だった。
「ここにいるのか……」
 少し躊躇する。このへんてこりんな建物に入ってしまって、はたして自分は
生きて戻れるのだろうか? そして、それほどの事をしてまで求める価値のあ
る相手だろうか?
「あぁぁぁぁぁぁれええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 好が迷っていると、校舎の方から悲鳴が聞こえた。聞き覚えのある声、嫌な
予感がした。
「先生ぇぇぇぇぇ! 助けてくださぁぁぁぁぁぁい!!」
 正面玄関から出てきたのは、ここ一日で見慣れた顔ショートカットでメガネ
をかけた童顔の小柄な少女だった。
「はいはい」
 何となく悟ったような気持ちでその少女を薄ろに庇うと、追ってきていた生
徒Aを軽く針で一突き、ボンと爆発させる。
「す、すごいですぅ! 先生ぇ!!」
「はいはい、あたしは先生じゃないのよ。一つ聞くけど、あんた何石?」
「はい? ええと、名前は六石神楽です」
「五つ目はどうしたの!?」
「言ってる事がよくわかりませんが……」
 全くもって不可解である。
 なんだか、もうどうだって良い気持ちで、ぽんぽんと頭を撫でてやる。
「なんでもないのよ」
 結局何処に行っても同じなら。
 好は思った。
 些細な事でも何か指針を目指して生きた方が良い。とりあえず、今は弟を殴
るためだけに生きよう。
 こうして、玖々津好のコルチキンタワーでの生活は幕を上げたのだった。

***********************************

 ってことで、好ちゃんのコルチキンタワーへ行くまでです。
 どうだったでしょうか? とりあえず、これで完結。

 気力があればいつか弟の話とかも書いてみたいですねぇ




    

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