[KATARIBE 24374] [IC04P] 小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その三』

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Date: Sat, 27 Apr 2002 17:57:00 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24374] [IC04P] 小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その三』 
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2002年04月27日:17時56分59秒
Sub:[IC04P]小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その三』 :
From:月影れあな


月影れあなです。

またまた続き


***********************************

 扉をくぐると、確かにそこは廊下のようだった。ただし、迷路のように入り
組んだ物である。
「ここの事はみんな『廊下ビル』って呼んでるんですよ」
 と、四石は説明してくれた。
 立体迷路のコンピューターゲームのように単調な廊下の左右には、数メート
ルづつ等間隔で扉が置いてある。
「ねぇ、一つ気になったんだけど」
「はい?」
「どうして壁の裏側と表側の両方に扉が引っ付いてるの?」
 そう、それなのである。
 部屋を置くスペースなどまったくない。傍目から見ると、ただ壁に扉が引っ
付いているだけなのだ。しかも、裏表同じ場所についていたりもするから、余
計混乱を招く。
「う〜ん、説明すると簡単見たいで難しいんですけど。つまり、この廊下ビル
には部屋は無いんです」
「は? さっきあったじゃない」
「ですから、さっきの部屋はこの廊下ビルにあるんですけど、無いんですよぅ」
「どういうこと?」
 言っている事がさっぱり分からない。
「簡単に言うと、ここにある扉は全部行き先のわからないどこでもドアみたい
な物なんです。だから、扉のすぐ向こうに壁があろうが何もなかろうが全く意
味をなさないんですぅ」
「あのねぇ、そんな漫画みたいな話が信じられると思う!?」
 まるで莫迦な話だ。どこでもドア? そんな事を「はいそうですか」と納得
できる人間など、百人に聞いて一人もいやしないだろう。
「でも、漫画みたいと言いますと、さっき好さんが殺人鬼を『弾け飛ばした』
事だって、十二分に漫画みたいですよ」
「………」
 そこを突かれると、好に反論の余地は無い。
「さぁ、こっちですよぉ」
 気の抜けるような声で四石が先導する。
 好には、とぼとぼとその後をついて行くしかない。
 ただ何となくついていくだけというのも暇なので、辺りを見回してみたりも
する。
 扉のいくつかには張り紙が貼ってあった。
 「理科準備室」「二年三組」「キヨスク」「体育館」「水族館」「本屋」
「氷河期」ETC.ETC.
 普通の学校にもあるものから全く関係ないものまで無秩序にならんでいる。
というか、本当にそんな場所につながっているのか。つい数時間前までの自分
なら「ただの悪戯」と断言する事が出来たろうが、今は微妙だ。
「気になりますか?」
 好の心の内を読んだかのように、四石が問い掛けてくる。
「一つ開いて見ます?」
「いいの?」
「はい♪ どれにします?」
 言われると迷ってしまい、グルグルと辺りを見回す、
 ……ふと目に留まった物があった。
 「宇宙(危険につき絶対開けるな!)」
「……これって、冗談だよね?」
「と、とんでもない! 開けちゃいけませんよ!! 絶対に」
 なんだか、本当に本当くさい。
「え〜と、じゃあ、こっちを」
 「氷河期」と書かれた方を指差す。
「はい、じゃあ開けますよ」
 びゅおぉぉぉぉぉぉ
 扉が開かれたとたん、ものすごい風が顔を叩きつけてきた。
 もちろんの事ながらと言って良いのか、そこは氷河期だった。吹き荒れる吹
雪がすぐ横に見える洞窟の入り口近く、複数の机と椅子、さらに正面には巨大
な石版と石筆が置かれている。
 風が強いからか、時折雪が中にまで吹き込んでくる。
「一応、教室なのね……ん?」
 ふと、好はある事に気づく。
「あのさぁ、ここまできたらもう何も驚かないつもりだったけどね……」
「はい?」
「この雪、発泡スチロールじゃない!」
「はぁ、まあ、そういう事ももあります」
「そんなわけあるかああああああああ!!!!」
 その辺の雪(発泡スチロール)の塊をつかみ、バシンと床に叩き付けると、
それを踏みつけて暴れまわる。
「なに、これ! 全部セット!? 最新鋭のなんとかテクノロジーとか駆使し
てあたしをからかってんの!? なんとか言いなさいよぉ!!」
 まぁまぁと、四石がなだめる。
「最初はみんなそう言うんです。すぐに慣れますって。はいはい、接続が変化
しないうちにさっさと行きますよ」
 と言って、扉まで引きずっていく。意外に力持ちだ。
「あーう〜っ」
 しばらくじたばたもがいていた好だったが、ふいに莫迦らしくなったのか、
力を抜いて引きずられるままに引きずられていく。
 ずるずるずる
 ずるずるずるずる
 ずるずるずるずるずる
「あぁー〜! もう、いい加減離さんか!!」
「はい?」


 左に曲がり、直進し、坂を下り、階段を上がり、下がり、また直進する。
 四石の先導で、好はずんずんと進む。進む。進む。
 廊下ビルを出て、無限に広い運動場の脇を通り、無数ある校門の一つをくぐ
りぬけ、中庭を通り、屋上を通り……
 いい加減、音を上げそうになったところで、どでんとそびえ立つ煉瓦造りの
洋館にたどり着いた。
「ここが我々の生徒会館です。どうぞ、お入りください」
 もちろん、言われなくても遠慮なく入る。
「会長、広報委員長の四石です。ただいま、新入生を連れて戻りました」
 入ったところがすぐサロンになっていた。何故かそこに机と椅子を置いて作
業をしていた『会長』とやらがチラリとこちらに目を向け、立ち上がって会釈
する。
「どうも初めまして、生徒会長の栖神英知です。宜しく、レディ」
 顔は比較的美形と言っていいものだった。丁寧な物腰の端々から、自己に対
する過信が見て取れる。服装は、カッターシャツにチェックの○○、コートと
帽子を脱いだシャーロックホームズと言った感じだ。それらが自然とおさまっ
ており、違和感は無い。
「玖々津好よ、早速だけど、説明してもらえるんでしょうね?」
「無論です、ミス玖々津。我々の知る範囲では、どのような質問にでもお答え
しよう」
 栖神がさっと手を上げると、どこからか藍色の和服に白いエプロンをつけた
女給が数名出てきて、机と椅子を用意する。
 何となく、そういう趣味なんだなぁとげんなりする。
「二人とも、掛けたまえ。コーヒーで良いかな?」
「はいぃ」
「ごめんなさい、コーヒーはだめなの」
 好はきっぱりと断言した。
「ふむ、では別の物を用意させよう。何が良いかな?」
「ばななじゅーす」
「ばなっ……え〜、と言うと、バナナと牛乳をミキサーにかけた例のやつかな?」
「そうよ」
 呆れてるのかなんなのか、栖神は大口を開けて絶句している。だが、流石に
向こうも紳士だけはあり、逸早くショックから立ち直ると咳払い一つして言い
つくろった。
「……失礼、すぐに用意させよう」
 一分と経たずして、女給が二杯のコーヒーとバナナジュースを運んできた。
 栖神はコーヒーのカップに軽く口をつけると、腕を組み、ふむと鼻を鳴らす。
「どこから説明したものかな……」
「どこからも何も、まず大前提としてここは何なの?」
「ここは夢のような世界だよ」
 その言葉に好は大きく眉をしかめた。その心情を悟ったのか、栖神は慌てて
言い直す。
「と言っても、言うところの『理想郷』と言う意味ではない。まぁ、ここを理
想郷と見る人間も少数とは言えいなくはないんだが……ここで言った夢と言う
のはどちらかと言うと寝る時に見る方の夢だ」
「しかも、どちらかと言うと性質の悪い悪夢みたいね」
 フンと鼻を鳴らし、好は不機嫌そうに唸る……のだが、
「あ、好さん。バナナジュースがお髭みたいになってます」
 横から好の口をハンカチで拭う四石。
 ………
 しばしの沈黙。
 コホンと、好が照れ隠しに咳払いをする。
「女給の教育がなってないわね。こういう時は、しっかりとストローも用意さ
せなさい」
 責任転嫁かい。
「次に注文さたときからは気をつけよう」
 パチン
 栖神が指を鳴らすと、女給がストローをもって現れる。
 それにしても、いちいち動作が堂に入っており、逆に癪に障る男だ。
「さて、話を戻すが。具体的にどういう事かというとだ。まず、この無限都市
では地図は意味をなさない」
「もったいぶらないではっきりと言いなさい。それだけじゃ訳がわからないわ」
「ふむ、たとえばだな……」
 栖神はさっと席を立ち、近くにある扉に手をかける。
「この扉の向こうに何があるか分かるかい?」
「分からないに決まっているでしょう」
「もっともな意見だ。この向こうには今朝までエジプトのピラミッドが見えて
いた。開けるよ」
 ガチャリ
 扉が開かれる。
 そこに広がっていたのは、極普通の何の変哲も無い木造建築の教室だった。
「どういうこと?」
「今朝までは確かにこの向こうはエジプトだった。しかし今はこの通り、ただ
の教室だ。何故こんな現象が起きるのかは分かっていないが、我々はこの減少
の事を『接続が変化する』と言っている」
「信じられないわね、その向こうが今朝まで確かにエジプトだったと言う証拠
はあるの?」
「無論、そんなものは無い。だが、私がそんなそんなつまらない嘘をつくこと
に、何らかのメリットがあるかね?」
 確かに、そんなもの思いつかない。
「その接続ってのはいったいどのくらいの時間で変化するの?」
「それも分からない。全くのランダムだ。一日か、一週間か……ひょっとする
と閉めて、また開けると、すでにこの向こうは体育館になっているかもしれな
い。そういうものだ。まぁ、最高でも一ヶ月程度しか接続は持続しない」
 そこで肩をすくめ、首を振る。
「無限都市研究会の部長が、昔この接続に法則性を求めて頭を悩ませた事があっ
たが、結局そいつは自分の無能さに絶望し、喉を掻っ切って死んだそうだ。ま
ぁ、そんな事をしても無駄なんだがね」
「無駄?」
「そう、無駄だ。なぜなら、この無限都市で人が死ぬ事は無いからだ」
「でも、そいつって死んだんでしょ? それに、あたしだってさっき一人ぶっ
飛ばしたし……」
「そう、そうなんです! 会長、聞いてください!! 好さんったらすごいん
ですよ!!」
 そこで突如四石が目を光らせ、会話に乱入してきた。
「あの放課後の殺人鬼ジェイソン湯ヶ島を一撃で跡形も無く吹き飛ばしたんで
す。あたし、感動してションベンちびりそうになりました!」
「あ〜、四石君? 女の子がそんな下品なこと言うものじゃないよ」
「はっ! す、すいません。私、興奮しちゃって……」
「まぁ、別に謝る事も無いが……ふむ、それにしても、あのジェイソン湯ヶ島
を一撃ね。『ザ・リッパー』に次ぐ例の殺人鬼を。ふむ……これは……」
「あの、結局死なないってどういうことなんですか?」
 好の一言が、なんだか独り言モードに入りそになっている栖神を現実に引き
戻す。
「ああ、すまない。確かに、物理的な死はありうる。しかし、それ自体はほと
んど無意味だ」
「と、言うと?」
「生き返るんだよ、ここの人間は。毎日二十四時時点でセーブされるんだ。仮
に今日死んだ場合、明日の二十四時になると、今日の二十四時にいた場所で自
動的に蘇る。この死んでいる状態を《仮の死》と呼んでいる」
「じゃあ、さっきのジェイソン湯ヶ島っていう奴も、後何時間かで生き返るん
ですか?」
「その通り。二十四時時点にいた場所で復活する」
 時計を見る。短針は午前の十一時ごろをさしていた。言う事を信じるのなら
後十三時間で蘇るという事になる。
「この事について、ひとつだけ重大な注意がある」
「?」
「二十四時時点にいる場所。つまり、寝床は、よほど親しい人物でもない限り
決して誰にも知られてはいけない。そこで復活すると知られたと言う事は、復
活するたびに殺され続ける可能性があると言う事だ。特に君のような……」
 と、栖神の視線が好の躰を睨めまわす。
「……君のような魅力的な女性の場合、殺され続けるだけで済む方が珍しいだ
ろうね」
 その言葉の奥に潜む意味を汲み取ったとたん、好の顔がカーっと紅潮する。
「よ、余計なお世話よ!」
「あら、好さんって見かけによらずけっこうウブなんですね」
「四石も、からかわないでよ!」
 そこで、四石がくすくす笑って「かわいい」なんて呟くものだから、好はま
すます顔を紅潮させる。
「さて、それはそうとしてミス玖々津」
「あによ!?」
 好は恥ずかしさを誤魔化すために少しぶっきらぼうな語調で返事を返す。
「先程、ジェイソン湯ヶ島を『ブッ飛ばした』と言ったね。それはどのように
して?」
「あたしにもよくわかんないんだけど、相手の体に《点》が見えてね、そこを
針で突いたらいきなり……」
「ふむ、その点とは今も見えているのかね?」
「そうねぇ」
 目を凝らすと、栖神の体中に無数の点が浮かび上がってくる。
 「内臓破裂の点」「人格崩壊の点」「爆散の点」「精神操作の点」「高揚の
点」「仮死の点」
 何故だか分からないが、好にはそれがどういう点で、そこを突けば何が起こ
るのか当たり前のように知覚できるのだった。
「たとえば、あなたの右耳に見える点があるんだけど、そこを突くとあなたの
呼吸は止まるわ」
「なるほど……」
 栖神は頷くと、手元にあった銀色のベルをチリーンと鳴らす。
 すると、一人の女給が何か箱を持って現れた。
「ここ、無限都市に来た人間は、大なり小なり、少なくともひとつの莫迦げた
能力に目覚める。たとえば僕の場合は、いいとこの生まれだったからか、無数
の女給を使役する術を手に入れた。そこに入る四石は、放送部の部長だったか
らか、放送する事によっていろいろな事を成す事が出来る。ミス玖々津。君は
……針か何かでもやってたのかね?」
「ええ、針師だった父から、一応針灸術の基礎的な事は教わっているわ」
「ふむ、君にこれを差し上げよう」
 と、先程女給に運ばせた箱を開く、
 そこには、大小さまざまな数十本の針が整然と並べてあった。
「これは?」
「見ての通り針だ。ところでミス玖々津、我々の生徒会に入るつもりはないか?」
 急に話を切り出してくる。
 ふむ、と好は、目の前に針が出された事に納得がいった。
「要するにこの針は賄賂って事かしら?」
「とんでもない。返答がいかなる物にしろ、その針は差し上げるよ。君のよう
な優秀な人材は貴重だ。出来れば我々の元でその力を生かしてほしい」
 と、持ち上げてくる。が、そう簡単におだてに乗るような好ではない。
「ふん、とりあえずこの針は貰っておくわ。力を貸すかどうかは話の内容によ
って決める」
「慎重な判断だ。それを話すにはまず、我々『自由学生同盟』生徒会のことに
ついて話さねばならないな」

***********************************

 なんか、説明臭くなってしまった(^^;
 う〜む、どんどん話が続いて終わらないぃ、いいかげん収束に向かわせなければ





    

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