[KATARIBE 24341] [IC04P] 小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その二』

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Date: Tue, 23 Apr 2002 15:14:15 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24341] [IC04P] 小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その二』 
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2002年04月23日:15時14分14秒
Sub:[IC04P]小説『玖々津好、無限都市へ迷い込む事 その二』 :
From:月影れあな


月影れあなです。

前のの続き、まだまだ続きます。


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 とりあえず、学校に着いた。
 青々とした木々に囲まれた白い校舎。まるで新品のようなそれは、去年の冬
頃に増築された校舎だと聞く。たしかに、好が見学に来たときはもっとぼろっ
ちい灰色の校舎しか見当たらなかった。
 県下でもある程度偏差値の高い国立大学の付属高等部で、私服校である。今
日はその最初の登校日。ぐるりとあたりを見まわすと、初々しい新入生であふ
れかえっている。
 しばらくそこで周囲を眺めていた好だったが、知り合いも見当たらなかった
ので、そのまま靴箱のあるほうへと向かう。
 これまた真新しい靴箱がずらりと並んだ生徒玄関。
 そこでは、クラス編成の張り紙が張り出されており、生徒達が群がっていた
。
 好は自分も見ようと、思い切って人だかりに飛び込む。
「え〜と……あった。十組か」
 何故か生徒達がすんなりと道を明けてくれたので、比較的早く見つかった。
「一年生は二階ね。まぁ、適当に探せば見つかるでしょう」
 その考えが甘かった事を思い知るのにはそれほどの時間を要さない。
「あれ? ここ何処かな」
 「理科室」と書かれた教室を前にして、好は首をかしげていた。
「ふむ……」
 窓の外を見てみる。
 自分がさっきまでいた生徒玄関が、向かい側にある新校舎の端の方に見えた。
「あれ? ってことはここは旧校舎か」
 あわてて、辺りに分かりやすい道しるべのような物が無いか探し回る。新入
生の多い春だからか、それらしい張り紙がすぐに見つかった。
 「北校舎三階東」
 ……もう一度よくよく見直す。
 「北校舎三階東」
「……うぐ、いつの間に三階なんか昇ってたんだろう」
 首をかしげていると、突然背後から声を掛けられた。
「すいませ〜ん」
 振り向く。そこにはショートカットでメガネをかけた童顔の小柄な少女がこ
ちらを見上げていた。
 なんだか、様々な点で好とは対照的な容姿だ。着る物が無かったのか、律儀
にも指定の制服を着込んでいる。
「あの、新一年生十組の三石神楽ですけど……あの、十組の教室って何処にあ
るんですか?」
「えっ?」
 そんなこと自分に聞かれても……好は困惑した。
「あの、私道に迷ってしまって、その、え〜と」
「そ、そんなこと私に言われても……」
「でもっ、あの、先生なら教室の場所くらい存じてるんじゃないかと」
 ……ここに到って、ようやく何を誤解されていたかに気付いた。
 自分の格好を見下ろす。
 「白衣」
 目の前にある教室を見直す。
 「理科室」
 たしかに、これなら生徒だと思うより教師だと思った方が普通だ。
 もしかしたら、先程難なく張り紙が見れたのも、教師と勘違いされていたか
らかもしれない。
「あの、あたし教師じゃないんだけど」
「えっ!? じゃぁ、三年生のセンパイですか? それにしては大人っぽい人
ですぅ」
 ……まぁ、小学生の頃から大学生に間違えられていた自分だ。そう思われる
のも無理は無いかもしれない。
 溜息一つ。
「え〜と、一応あなたと同じ新入生よ。一年十組の」
「えええええええええええ!?」
 そんなに驚かなくても。
「えっ、ええっ? あれ? エイプリルフールでしたっけ?」
「ちがうちがう」
 けっこう面白いかもしれない。好はそう思った。
「でも、じゃあ同じクラスの人だってことは、やっぱり教室ってこっちであっ
てたんですか?」
「そんなわけ無いでしょ。あたしも迷子なの」
「まぁ、そうだったんですか。でも良かったぁ」
「何が?」
「だって、道に迷ったなんてボケが私だけだったら恥ずかしいじゃないですか
」
 このこ、可愛い顔してけっこういい性格かもしれない。
 とにかく、そんなこんなで好と神楽が教室にたどり着いたのは、始業五分前
くらいの事だった。
「やっと着いたわね」
「ですねぇ」
「……なんだか、精神的にどっと疲れたわ」
「最初の登校日からこんなので、後三年大丈夫なんでしょうか」
「言わないで……じゃ、入るわよ」
 がらら
 なんとなく、感慨を込めてドアを開き、最初の一歩を踏み出そうと……
 チン
 ……したところで、白衣のポケットから何か光る物が滑り落ちた。
「えっ?」
 屈みこんで拾い上げる。銀色に光る、ちょうど二十センチくらいの細い棒。
「針……?」
 針だった。白衣から落ちてきたと言う事は、針灸師、というか針師をしてい
た父の持ち物だろう。
「父さんったら、危ないわねぇ、ポケットに針なんか入れて」
 何となくおかしくなって、屈みこんだままクスリと笑ってしまう。
「どうかしたんですか?」
 前方から三石神楽の不信そうな声が聞こえた。
「え? ああ、なんでもない」
 好は曖昧に笑うと立ち上がり、気を改めて教室への一歩を踏み出し……
 ……景色が一変した。
 悪趣味な部屋だった。要所要所に金糸の織り込まれた天鵞絨の絨毯。綺羅綺
羅と光り輝く蝋燭のついたシャンデリア、アラビアンナイトとかに出てきそう
な天蓋吐きの寝台、金箔を貼られた高級桐ダンス等々、統一性も無く豪奢な物
が所狭しと置いてある。
 そして、中央に座する一匹のサーベルタイガー。
「え〜と……」
 き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
 背後から始業五分前の予鈴が聞こえる。
 なんだかよく分からなかったが……
 とりあえず、自分が踏み出したはずの一歩が、大きく踏み外された事を薄々
悟らずにはおれなかった。


「たぁぁぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 サーベルタイガーを追っ払った直後くらい。
 天鵞絨の絨毯に座り込む好の耳に、突然そんな声が飛び込んできた。
「だれかぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
 だんだん声が近づいてくる。
 だん! ばん!!
 好が入ってきた扉がものすごい勢いで開かれ、直後それに勝る勢いで閉めら
れた。
 がちゃり
 そして、鍵まで閉められる。さらにその人は、ソファーや箪笥を動かしバリ
ケードを作ろうとし始めた。
 入ってきたのはショートカットでメガネをかけた童顔の小柄な少女で……
「って、あんた三石さん!?」
「ほぇ? ……私は三石なんて人じゃないですけど。おしいですぅ」
「おしい?」
「私、四石神楽って言います……って、ああっ! のんきに自己紹介してる場
合じゃなかった!! そこの先生、助けてください!!」
 ものすごい形相で詰め寄って来る。
「はい? と、とにかく落ち着いて」
 あまりの凄まじさに、うっかり「先生」というところを訂正する事も忘れて
いた。
「これが落ち着いていられますか! 放課後の殺人鬼が! 来て、えと、零時
に見られて……つかまったらお仕舞いです!!」
「殺人鬼? そんなの……」
 どん! どん!!
 いるわけ無いじゃないのという、後半の言葉は扉に何者かがタックルする轟
音によって遮られた。
「はわわわ、来ました!」
「……まじ?」
 まじだった。
「ど、どどどうしましょう!?」
「いや、そんなことあたしに言われても……」
 恐怖と言うより、ばかばかしさがこみ上げてくる。
 そんな莫迦な。
 その一言に尽きるのだ。
 扉を破ろうとする音はいまだ続いている。
 何となく冷めた目で、他人事のように、とりあえず身を護るために何か道具
が無いかと体をまさぐる。
「っつ!」
 ちくっとした感触が指先に刺さった。
「どうかしました?」
「いや、なんでも」
 その痛みに心当たりはあった。
 恐る恐るそれを抓み、胸ポケットから引きずり出す。
(針……)
 均整の取れた一本の長い針、父親の形見であろう物。なんとなく、それがと
てつもなく頼りがいのある武器のように思えてきた……
(なんてね、針一本でどうやって殺人鬼と渡り合うって言うのよ)
 ふいに、
 扉を叩く音がおさまった。
 五秒、十秒……無音で時間が過ぎる。
「諦めたんでしょうか?」
 三石、もとい四石神楽が希望的観測を述べたその直後だった。
 キュィィィィイイイイン!!
 ホラー映画なんかで聞いた覚えのある嫌な音が扉の向こうで鳴り始めた。
「こ、これって……」
「ちぇーんそー……」
 がっがっがっが!!!
 鈍い音を立てて扉が切裂かれる!
「もうだめですぅぅぅぅ!!」
「まだよ! 諦めちゃだめ!!」
 無駄に騒ぎまくる四石を一括する。その間にも、扉はバリバリに崩壊させら
れていく
 ばん!
 ついに、殺人鬼がその姿をあらわした。
 右手に持ったチェーンソー、顔面を被ったホッケーマスク。
 ジェイソンだ。
「なんか、ある程度予想がついていたとは言え、ほんとにジェイソンとわ……」
「そうです、彼こそは淫楽殺人友の会が副会長、ジェイソン湯ヶ島です!」
「どんなだ、それは」
 親切にも解説してくれる四石。何処と無く嬉しそうに聞こえるのは気のせい
だろうか?
「ぐおおおおおおおお!!!」
 大きく吼えるジェイソン湯ヶ島。ほんと、何が嬉しいんだか……
「って、あまりと言えばあまりな展開にすっかり忘れてたけど、あたし達って
絶体絶命のピンチなんだったっけ」
「はいぃ」
 バリケード代わりのソファーと箪笥を蹴散らし、チェーンソーをキュインキ
ュイン言わせて迫り来るジェイソン湯ヶ島。
(あれ?)
 好は、ふとあることに気付いた。
(湯ヶ島の肩の辺りに《点》が見える……)
 さほど大きくも無い黒い点だが、何故か好の目にははっきりと捉えられた。
「ねぇ、あの点……」
「はい? 点が何です?」
 どうやら、四石は気付いていないらしい。
 好は、ふいに何となくあそこを針で突き刺せば勝てるような気がしてきた。
(でも、どうやって……)
 突き刺す方法がない。近づくところでチェーンソーに叩き伏せられるであろ
うことは必至だ。好は中学まで女子薙刀部に入っており、そういうことが決し
て下手ではないが……相手は殺人鬼だ。そういうレベルの問題ではない。
「!? あぶない!!」
 四石の悲鳴で我に返った。
 はっと、見ると、湯ヶ島はチェーンソーを振りかぶって高く跳躍していた。
天井を蹴り、一気に迫り来る。
 チェーンソーはまっすぐ好の脳天を狙っている。
 考えるより先に体が動いていた。
 高速で落下してくる湯ヶ島を、自分でも信じられないような身のこなしで右
に避け、すれ違いざまに懐から取り出した針を右肩の《点》に打ち込んだ。
 ぱんっ
 ジェイソン湯ヶ島は風船のように弾けて飛んだ。
 それはもうあっけなく。
 茫然自失。
 まさか、弾け飛ぶとは思っていなかった次第。
「それが核アイテムですね!? すごいですねぇ、さすが先生です!」
 四石の興奮が隠しきれていない声に、好は我に返った。
「ちょ、ちょっと今の何!?」
「はい?」
「核アイテムって何よ! あ、あたし。殺しちゃったの……今の人!!」
「それがどうしたんですか。先生だって何回か死んだ事くらいあるでしょ」
「あるわけないじゃない!」
「無いんですか!? まだ一回も? すごい。先生にもなるとそういう人もい
るんですか!」
「あたし先生じゃないよ! ここどこよぉ!! 信樹ぅ、助けてよぉ……」
 と、ついには泣き出してしまった。
「あ、え、えっ!? あの、もしかして、無限都市は初めてですか?」
「無限都市?」
 ひっ、ひっく。嗚咽を上げながら聞き返す。
「そうだったんですか。すいません、早とちりして色々言ってしまって。あな
た名前はなんていうんですか?」
「玖々津、好……」
「好さんですか。ようこそ、無限都市へ、歓迎します」
 四石はにっこりと笑ってハンカチを差し出した。


「で、無限都市って何よ!?」
 ずびびびび
 渡されたハンカチで鼻をかみ、少し落ち着いた好は強い語調で詰問した。
「あの、鼻かむのは……」
「あによ!? なんか文句あんの!!」
 目が据わっている。
「何でもありません……」
「じゃあ、さっさと説明なさい!」
「はいぃ、わかりましたぁ」
 と、返事をして、四石は口を開きかけ……やっぱり口をつぐんだ。
「どうしたの?」
「あのぅ」
 上目遣いでこちらをまっすぐ見つめる。
「説明したいんですが、話が長くなりますし……とりあえず、生徒会室の方まで来ていただけますか?」
「なに、あんた生徒会役員? って言うかここ学校なの!?」
「はい、一応……みんなからは《学園》なんて呼ばれています」
 好は部屋の内装をもう一度じっくりと見回す。
「変な部屋のある学校もあったもんだわね」
「え? ここなんかまだまだましな方ですよ」
「何ですって?」
「いや、まぁ、ついてきていただければ分かります」
 曖昧に笑うと、好を先導するように入ってきた扉を開けて外へ出て行く。
 ……って、え!?
「ちょっと待った!」
「どうかしましたか?」
 ドアノブをもって扉を半開きにしたままの姿勢で、四石が振り返る。
 そう、先程ジェイソン湯ヶ島に完膚なきまでに破壊されたはずの、扉のドアノブを握り締めたまま。
「その扉、さっきジェイソンに破壊されてたはずよね?」
「はいぃ」
「……なんで直ってるの?」
「無限都市ですから♪」
 平気でさらりと言ってのけた。
 好は半眼になって、胡散臭そうに首をかしげる。
「……それもあとでちゃんと説明してくれるんでしょうね?」
「もちろんです♪」
 自信満々に断言した後、ぼそりとこう付け加える
「……ただし、私たちの分かってる範囲で」
 とりあえず好は、なんか行く末が限りなく不安だと思った。
 そんな好の様子に気付かないのか、気付かないふりをしているのか。
「じゃあ、行きますよぉ」
 なんて言ってさっさと歩き出した。
 釈然としない思いでその後に続く好だった。

***********************************

と、いうわけで、勝手に生徒会とか出しちゃったけど、いいですかね?
いくつも生徒会が乱立してたりしたら面白いなぁとか思ってたり





    

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