[KATARIBE 24316] [IC04N] 小説『久々津好、無限都市へ迷い込む事 その一』

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Date: Sun, 21 Apr 2002 03:12:10 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24316] [IC04N] 小説『久々津好、無限都市へ迷い込む事 その一』 
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2002年04月21日:03時12分10秒
Sub:[IC04N]小説『久々津好、無限都市へ迷い込む事 その一』:
From:月影れあな


小説『久々津好、無限都市へ迷い込む事 その一』

本文
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 きーんこーんかーんこーん
「はっ?」
 玖々津好は思わず間抜けな声を出してしまった。
 辺りを見回す。要所要所に金糸の織り込まれた天鵞絨の絨毯。綺羅綺羅と光
り輝く蝋燭のついたシャンデリア、アラビアンナイトとかに出てきそうな天蓋
吐きの寝台、金箔を貼られた高級桐ダンス等々、統一性も無く豪奢な物が所狭
しと置いてある。
 その中でも最たるものは……
「え、と……サーベルタイガーって確か絶滅してたわよね?」
 自分に確認するように、声に出して呟く。否定の返事は返ってこない。残念
な事に、その認識は間違っていなかったようだ。
 部屋の真ん中に、どでんと巨大な牙を持った虎が横たわっている。
 ただのぬいぐるみかも知れない。一縷の希望をもって、恐る恐るそれに触れ
てみる。暖かい感触。ぐるると唸ってうるさそうにこちらを見てくる。
「ひっ!」
 驚きに吸い上げた空気が、喉の所で変な音を立てた。
 サーベルタイガーはゆっくりとした動作で立ち上がり、部屋のちょうど好が
立っている反対方向にある扉まで行くと、前足で蹴り開け、不機嫌そうにこち
らを一瞥するとそのまま出て行った。
「な、なんなの……」
 へなりと腰を抜かし、その場にしりもちを着く。
「ここはいったい何処なのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 さて、それは大体1時間ほど前にさかのぼる。
 好は、朝に弱かった。今日も今日とて、うるさく鳴る目覚し時計にベットの
中から手を伸ばし、強制的手段によって沈黙させたらしめたところだった。
「ってか姉ちゃん。さっさと起きろよ」
 声のほうへのそっと目を向けると、弟の信樹が呆れたようにこっちを向いて
いた。
「あによぉ。朝くらいあたしの好きなように眠らして」
「昨日遅くまでゲームしてた姉ちゃんの自業自得だ。ほれ、さっさと着替えて
顔洗え」
 ばばっと、タンスに手を突っ込むと、適当な服をこちらに投げてきた。
「あんたねぇ、デリカシーってもんが無いの? 仮にもお年頃の姉に向かって
……」
「精神年齢五歳児並みの癖に何言うか。そういうことは彼氏の一人でも作って
から言え」
「うるさし!」
 さっとその辺に転がっていたぬいぐるみを掴み上げると、信樹の方へ思いっ
きり投げつける。
 がたんっ、ばさ
 だが、そのぬいぐるみは信樹の目前で閉められた扉によって、目的を果たす
ことなく力を失い、地に落ちた。
 信樹のくすくすという笑い声が扉越しにも好の耳につく。
「朝ごはんは用意してあるから、さっさと身支度整えな」
 信樹はそれだけ言い残して個室のある二階からリビングのある一階へと降り
ていった。
「ったくもう。父さんが死んでから日に日にしっかり者になっていくんだから
……」
 ぶつぶつと口の中で理不尽な文句を呟きながら、好は信樹の用意した服に着
替える。
 玖々津家は父子家庭だった。一年程前までは。
 母親は、死んだわけではない。
 今も元気にやっている事だろう母が家を出たのは、好が五歳、信樹が二歳の
時だった。
 ある冬の日、突然いなくなった母。警察にも届を出したのだが見つからず、
どこかで死んでしまっているのではと心配された母から手紙が届いたのは次の
年の春頃。
 手紙にはこう書いてあった。
『好きな人が出来ました。今アメリカで幸せになっています』
 スチュワーデスの仕事をしていた母は、仕事場で知り合った富豪のアメリカ
人男性と逃げたらしい。ご親切にも、写真まで同封してあった。
 普通なら怒り狂うはずの父は、その手紙を見て「しかたないね」とだけ呟く
と、もうその事については何も話さなくなった。
 それを横で見ていた好は、幼心にも何となく分かった。
「ああ、この人は本当に母の事が好きなんだな」
 その父が過労で倒れたのが一年前である。
 律儀な父は最後に「あの人を攻めないで下さい」と言い残して死んだ。あの
人とは母の事である。好は悔しかった。だから、父が死んで好が最初にした事
は、母に向かって皮肉いっぱいこめた手紙を書くことだった。
 母からの返事はなかった。当然の事ながら、葬式にも来なかった。変わりに
、毎月生活できるだけのお金が銀行に振り込まれだした。その事は、もちろん
の事ながら好を腹立たせる事しかしなった。
 絶対にそのお金には絶対に手をつけない! そういきり立つ好に、信樹が一
言。
「でも、そのお金が無かったら、僕たちは生きていけないよ」
 悔しかった。悔しかったが、それは真実だった。
 今も二人が不自由なく暮らしていけるのはそのお金のおかげなのだ。
 とか懐古に浸ってる間に着替えは終わったのだが……
「……なんじゃこりゃ」
 着替えてから気づくというのもかなりおかしい気がするが、自分の服装を見
て思わず唸ってしまう。
 いや、似合っていない訳ではない。むしろぴったりといっていい。高校生に
なったばかりとは思えないほど艶っぽく整った顔立ち、背中にまで届く烏の濡
羽の様な艶やかな黒髪、メリハリの利いた体つき。
 それらに吸い付くようにぴったりと着こなされたボディコンの服、その上に
羽織った医者のような白衣……
「え〜と……」
 どだだだだだだだだだ
 ばんっ!
「信樹!!」
「何だよそうぞうし……げっ、何その服」
「あんたが放ってよこしたんでしょ!!」
 いきり立つ好に、信樹は少し考えるポーズをとった。
「さぁ、適当に投げたから……って言うかなんでそんな服がある?」
「白衣は父さんのでしょ、この服は……あの女の残したのが紛れ込んでたんじ
ゃないの!」
 言うまでも無いが、あの女とは二人の母の事である。
「ったくもぅ、朝っぱらから心臓が止まるかと思ったわ……で、今日の朝ごは
ん何?」
「着替えてこないの!?」
「めんどいじゃない。で、何よ?」
「なんといい加減な……今日は姉ちゃんの好きなオムライスだよ」
 と言って、信樹はオムライスを皿に盛り、デミグラスソースをかけようとし
ている。
 好は慌てて声を上げた。
「信樹! ちょっと待ちなさい」
「何、姉ちゃん?」
「あたしのにはデミグラスソースかけないで」
「へっ?」
 信樹の疑問には答えず、好は冷蔵庫の方に向かう。
「姉ちゃん?」
「ふんふふ〜ん♪ じゃーん!」
 と、好が取り出してきたのは、いわゆるトマトケチャップだった。
「……ケチャップかけるの?」
「もっちろんよ〜♪ やっぱオムライスはケチャップじゃなきゃ」
 言うが早いか、信樹の手からオムライスを奪い取ると、ねりねりとケチャッ
プを練り出す。
「見て見て、信樹。ほら、名前書けた」
「姉ちゃん……」
 たしかに、オムレツの上に「よしみ」と汚い字で書かれているのが見える。
 やっぱ五歳児並みだ……信樹は心中で密かに溜息を吐くのだった。
「ほら、姉ちゃん。口の周りにケチャップついてるよ」
 ティッシュをとり、好の口周りをふき取ってやる。
「あ、ありがとね」
「………」
 と、その日の朝まではそれなりに平和だったのだが……

                              (続く)


どうも、月影れあなです。
そろそろ玖々津さんの話を書こうと思って。
まぁ、それだけの事。
冒頭の部分は無限都市の描写になってますが、あんな感じのんで良いんですかね?
無限都市って





    

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