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Date: Fri, 19 Apr 2002 18:22:13 +0900 (JST)
From: 月影れあな <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24308] [HA06P] 『新学期前』暫定編集版
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200204190922.SAA62150@www.mahoroba.ne.jp>
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X-Mail-Count: 24308
2002年04月19日:18時22分12秒
Sub:[HA06P] 『新学期前』 暫定編集版:
From:月影れあな
月影れあなです。
ついでだから、今までのやつのまとめみたいなの流しときます。
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エピソード『新学期前』
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本文
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近鉄吹利駅。いつものように電車がホームへ滑り込み、ドアが開く。
開いたドアからホームに降り立つ一人の少年。
最近、家庭の事情から、壱村で一人暮らしを始めた西久保史雄である。
史雄 :「フウ、やっと着いた。結構時間かかるんだな」
昨年度まで、史雄は吹利市内に住んでいた。
したがって、通学はもっぱら自転車であった。
が、壱村からの通学となると、自転車というわけには行かない。
今日は、定期券の購入と、通学経路の確認のため、電車で吹利にやってきた
のだ。
史雄 :「さて、まずは学校に行って、通学証明書をもらってこな
:いとな」
駅の改札まで出たところで知った人を見つけた。
橙色の玉のついたゴムの髪留めが目立つ、あの後ろ姿は……
史雄 :「和泉先輩!」
呼び止められた人物が振り返る。
渋柿 :「ん?」
史雄 :「ちわっス!」
渋柿 :「ああ、西久保君だ」
和泉凛、通称渋柿と呼ばれる女生徒。
史雄が引っ越した先の向かいに住んでいる、一つ年上の先輩だ。
渋柿 :「えーと……」
和泉が、右手を目の高さまであげ、すすっと敬礼の姿勢をとる。
眼光鋭いその表情と仕草は妙に似合っているはいるが、勿論この場にはそぐ
わない。
史雄 :「あ、いや。敬礼されても……」
渋柿 :「ふむ。やっぱりそうかな」
史雄 :「先輩がやるとすごく似合ってますけどね」
渋柿 :「うーん」
短く唸る。
渋柿 :「後輩への挨拶をどういう風にするのがよいか分らなくて、
:思いつくのをやってみたんだけど」
史雄 :「さすがに敬礼は見たことないっス」
渋柿 :「……残念」
知りあって間もないが、時々大まじめに変な行動をするのを見る。
その外見や印象に反して、実は面白い人なのではないかと思う。
本人がどう思っているかはよく分らないが。
史雄 :「先輩も同じ電車だったんですかね」
渋柿 :「そうらしい。私は学校に用事があって出てきたのだけど
:……西久保君はなんだろう。部活動か」
史雄 :「いえ、今日は、通学経路の確認です」
渋柿 :「通学経路?ああそうか、壱村には引っ越して来たばかり
:だったか」
史雄 :「ええ、今まで自転車で通ってたもんで、電車通学は初め
:てっス。なんで、駅からの道を確認しておこうと思って」
渋柿 :「確認といっても、一本道だけど・・・まあ、ついでだか
:ら、学校まで一緒に行こうか」
史雄 :「あ、いいんスか?じゃ、よろしくお願いします」
というわけで、学校まで一緒にいくことになった二人。
史雄は黙っていられない性格らしく、頻繁に和泉に話しかけてきた。
史雄 :「先輩、桜居とは、付き合い長いんですか?」
渋柿 :「いや、初めて会ってから、まだ2…いや、3ヶ月ほどか
:な」
史雄 :「あいつ、あの性格だから、一緒に居ると気苦労とか絶え
:ないんじゃないですか」
渋柿 :「うん、よく喧嘩をしている。まあ、後から考えると、
:他愛のない理由ばかりなのだけど」
史雄 :「やっぱり」
渋柿 :「喧嘩が激しくなると、どちらかが家を飛び出すこともあ
:る」
史雄 :「え、飛び出して、どこに行くんスか」
渋柿 :「この吹利市のはずれに、私の身内が世話になっている家
:があるので、そこに駆け込んで頭を冷やしている」
史雄 :「でも、しばらくしたら帰るんでしょ?そりゃ、二人の仲
:がいい証拠っスよ」
渋柿 :「うん。それは……そうだと思う」
などという会話をしている間に、学校に到着した。
国立吹利学校中等部、二人が通う中学校である。
宗谷 :「あっ、渋柿ちゃんだ♪ やほーやほー」
渋柿 :「ん? 宗谷くん」
史雄 :「知り合いっスか?」
渋柿 :「ああ、同じ学年の月影宗谷くんだ」
史雄 :「月影先輩ですか。初めまして、西久保史雄っス」
宗谷 :「ほぇ? よろしく♪ 渋柿ちゃんの友達?」
渋柿 :「いや、つみきのだ。最近、近所に越して来た」
宗谷 :「つみきちゃん……ああ、初詣のときいた子だね。ふ〜ん
:……で、貴方たちも学校に用なの?」
渋柿 :「ああ、ちょっと所用で」
史雄 :「通学経路の確認と、通学証明書をもらうために。先輩は?」
宗谷 :「ぼくは今から帰るところだけど……あっ、二人ともお昼
:はまだだよね? 良かったらいっしょに食べに行かない?」
渋柿 :「ふむ」
渋柿 :「えっ、どうして?」
宗谷 :「今日ちょっと家を姉ちゃんが留守にしてるんだ。だから、
:お昼は外で食べといてって言われたんだけど……一人で食
:べるのも味気ないでしょ?」
史雄 :「お姉さんが留守って、お母さんはどうしたんスか?」
宗谷 :「お母さんはぼくが四歳のときに交通事故で死んじゃって
:いないんだ」
史雄 :「あっ……すいません」
宗谷 :「いいよ、別に謝んなくったって……で、だめかな?」
渋柿 :「そういう事なら……で、どこの店で食べるんだろう?」
宗谷 :「それなんだけどね、ここからだとちょっと歩くけど、知
:り合いのやってる店で「勝」って食堂にしようかと思って
:るんだけど、どうかな?」
渋柿 :「ふむ。どこかで聞いたような気が……ああ」
思い出したように手提げ鞄を探る。
取りだしたのは四つに折ったB5サイズの紙。
渋柿 :「そういえば、以前、人にもらったチラシがあった」
史雄 :「へぇ」
渋柿 :「これだろうか」
開いたチラシをのぞき込んで、宗谷がうなずく
宗谷 :「うん、ここ。そうか、渋柿ちゃんも知ってたんだ」
渋柿 :「特に行く機会が無くて、そのままにしてた」
宗谷 :「ここって、ワンダー……いや、まぁ、後のお楽しみにし
:ておこう。とにかく、このお店に決まりでいい?」
渋柿 :「うん」
史雄 :「先輩達と一緒させてもらいます!」
宗谷 :「じゃあ、二人はまだ用事があるみたいだし、ぼくだけ先
:にお店に行っておくね?」
渋柿 :「うーむ、それがいいかな」
宗谷 :「地図はそこに描いてある通りだよ。じゃ、お先に」
渋柿 :「分った」
手を振って駆け出す宗谷。
その後ろ姿を眺めた後、史雄がぽつりと呟いた。
史雄 :「月影先輩……でも、なんで『くん』なんスか」
渋柿 :「うん。男子だから」
史雄 :「えぇ!?」
驚く史雄。
史雄 :「マ・・・マジっスか!?」
渋柿 :「うん」
史雄 :「うわー、こりゃ驚いた」
呆気にとられる史雄に、和泉が声をかける。
渋柿 :「それより西久保君、通学証明書をもらうって言ってなか
:ったかい?」
史雄 :「え…あ、そ、そうだった。事務室に行ってこなきゃ。そ
:ういえば、和泉先輩も、用があるって言ってましたよね?」
渋柿 :「うん。でも、すぐに終わるから、終わったらここで待っ
:ている」
史雄 :「あ、わざわざすみません。じゃ、俺、ちょっと事務室に
:行ってきます」
と言って、事務室へと走って行く史雄。
そして、30分後…
史雄が校門に戻ってくると、そこに和泉が待っていた。
史雄 :「すみません、お待たせしました」
渋柿 :「いや、私も、今終わったところだから」
史雄 :「じゃ、早速、さっき月影先輩が教えてくれた食堂に行っ
:てみましょうか」
渋柿 :「うん。昼も少しすぎたし、急ごう」
吹利市の駅をこえ、東の吹利本町商店街に入る。
和泉が先程のチラシをとりだして見る。
渋柿 :「ええと、駅からこっちを歩くことはあんまりないので
:不慣れだ」
史雄 :「スーパーの隣でしたっけ」
渋柿 :「うん。スーパー二村という店の隣らしい」
史雄 :「二村ですね、それならこっちっス」
渋柿 :「ふむ……知ってるらしい」
史雄 :「あそこでよく買い物しました」
しばし考える和泉。
渋柿 :「ああ、そうか。このあたりに住んでいたから、場所は知っ
:ててもおかしくないか」
史雄 :「自転車でいける場所なら、だいたい分かります」
渋柿 :「なるほど」
史雄 :「あそこじゃないっスかね」
渋柿 :「ああ、ほんとだ。」
二人は店の暖簾をくぐった。
勝子 :「いらっしゃいませ〜」
宗谷 :「あっ、来たね? こっちこっち♪」
渋柿 :「そんな大きな声を出さなくても」
宗谷 :「うぃ。迷わなかった?」
渋柿 :「うん。西久保くんが場所を知っていたから」
宗谷 :「うぃうぃ。で、何を頼む?」
渋柿 :「ふ〜む、そうだな……」
メニューを食い入るように見つめる渋柿。
渋柿 :(やはり、ここはオーソドックスに定食類を頼むべきか?
:いや、しかし、時にはあえて別のものに挑戦する勇気とい
:うのも必要か。丼物? うどん、そば類? むむ、値段は
:どれも安いから、その点についてはあまり気にしなくても
:よさそうだ。むむぅ、初心に返って日替わり定食というの
:も良いかもしれない……)
宗谷 :「いや、そんな真剣に悩まなくても……」
史雄 :「(^^; ところで先輩、さっきから気になってたんスけど、
:あのワンダーベジタブルメニューって、どんな料理っスか?」
勝子 :「ご注文は…あ、宗谷君に…あの時の女の子。いらっしゃ
:い〜♪」
最近知り合いがこなかったのか嬉しそうな勝子。
宗谷 :「こんにちわ〜♪」
渋柿 :「こんにちわ、早速よらせていただきました」
勝子 :「あら、お友達も連れてきてくれたのね、ありがと〜♪」
史雄 :「こんにちわ、ところで…あの「ワンダーベジタブルメニ
:ュー」ってどんなのっすか?」
…だれだって気がつけば気になるよね…あの不可解なメニュー名は…
勝子 :「ああ、あれ?とぉってもおいしくてとぉってもワンダー
:なお野菜がふんだんに使われてる美味しい定食です〜♪
:サービスでジュースとデザートもつけちゃう♪」
思いっきりお勧めする勝子。お勧めするならわかりやすい名前でかけよ…
渋柿 :「ふむ…(ってことはほかのものはデザートも飲み物もつ
:いてないのか、これはお得かもしれない)ではそれをお願
:いします」
史雄 :「俺もそれおねがいします、宗谷先輩はなににしますか?」
宗谷 :「ぼくは……ハンバーグでいいや(にこにこ)」
勝子 :「えーっト、ワンダーベジタブルメニュー2つにハンバー
:グ定食ひとつですねー少々お待ちください〜♪」
そして……
勝子 :「お待ちどうさまー♪ハンバーグ定食とワンダーベジタブ
:ルメニュー二つです〜。きょうはハッコンとニンジャガの
:煮っ転がしに、トマレンソウのあえ物、そしてだいじんの
:味噌汁と焼き魚です〜、あとでデザートも持ってくるので
:楽しみにしてくださいね〜♪」
と、いって出てきたのは普通のハンバーグ定食と、どことなく不思議な色や
形をした野菜で構成されてるワンダーベジタブルメニューが運ばれてきた。
勝子 :「ゆっくりたべていってねー♪」
宗谷 :「いっただっきま〜す♪」
元気に食べ始める宗谷。そんな中、史雄が不安げにつぶやく。
史雄 :「なんか、聞きなれない名前の野菜ばかりっスね…実際、
:見慣れない野菜がいっぱい入ってるし」
渋柿 :「うん、まあ、とにかく、食べてみよう」
躊躇する史雄をよそに、「見慣れない野菜」を口に運ぶ和泉。
渋柿 :「うん、なかなかおいしい」
史雄 :「え…ホントっスか?」
宗谷 :「西久保くん、どうしたの?早く食べてごらんよ」
史雄 :「え、ええ…じゃ、いただきます」
おそるおそる「見慣れない野菜」を口に運ぶ史雄。すると…
史雄 :「…へぇ、結構いけますね」
宗谷 :(ふむむ、美味しいのか、あの謎野菜……)「味は特に問題
:ないんだけどねぇ……」
史雄 :「えっ、どういうことです?」
宗谷 :「ううん、何でもないよ」
一方の和泉は、「見慣れない野菜」を口に運ぶたびに、若干ではあるが手が
止まっている。
どうやら、一口ごとに、考え事をしているらしい。
渋柿 :「(これは、にんじんのような、ジャガイモのような味だ
:…どのように作っているのだろう…にんじんとジャガイモ
:をかけあわせているのか、それとも…)」
そのようなことを考えながら食べているのだから、食べるのが早いはずがな
い。
史雄 :「ところで、月影先輩」
宗谷 :「うい?」
史雄 :「月影先輩って、普段からそういう格好してるんスか?」
宗谷 :「えっ、何か変かな?」
史雄 :「いや、普通しないと思いますよ。その、そんな格好……」
宗谷 :「そうかな……自分では似合ってると思うし、良いと思う
:んだけど」
まじまじと宗谷を見てみる。丸い顔立ちと大きな瞳、たしかに、ただの女の
子の格好なら似合うのだろうが……
史雄 :(なんかサイズの大きな服着た子供みたいな感じだな……)
服装は特攻服にさらしである。なんと言うか、顔に合わない、服に着られて
いるという体がある。
宗谷 :「それにね、この服おかあさんの形見なんだ」
史雄 :「えっ!?」
思わず驚きの声を上げた。いろんな意味で。
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