[KATARIBE 24214] [HA06P] エピソード『大きなくりの木の下で』

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Date: Sun, 7 Apr 2002 01:26:05 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24214] [HA06P] エピソード『大きなくりの木の下で』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200204061626.BAA48326@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 24214

2002年04月07日:01時25分50秒
Sub:[HA06P]エピソード『大きなくりの木の下で』:
From:月影れあな


 月影れあなです

 何か最近やたらEP流しています。
 暇なのでしょうか?

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エピソード『大きなくりの木の下で』
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登場人物
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 月影宗谷(つきかげ・そうや)
    :緑の指を持つ女装少年
http://kataribe.com/HA/06/C/2/HAC06292.TXT


本文
====

 おおきなくりのきのしたで

 あなたとわたし

 なかよくあそびましょ

 おおきなくりのきのしたで


 住宅街の真ん中にある小さな公園。
 昼間と言うだけあって、例え小さくても近所の人たちで活気があった。小さ
な赤ん坊、それを連れた親、小学生くらいの子供達、黒い犬を連れた青年もい
る。その誰もが顔に笑みを浮かべ、楽しそうにしていた。
 公園の真ん中に大きなくりの木が植えてある。
 活気あって明るい公園も、何故かその栗の下だけは別世界のように、静寂が
満ちている。
 そこに佇む少女が一人、公園の活気を羨ましそうに眺めていた。



 宗谷     :「人を待っているの?」



 突然、声が掛けられた。少女は驚いて振り返る。薄蒼い銀髪を持った十五歳
くらいの女性が優しそうに微笑んで立っている。何の変哲もないその人は、ど
こか……
 どこか懐かしい感じがした。

 宗谷     :「ずっと待ってるの?」
 少女     :「………」
 宗谷     :「そう、誰を待っているの」
 少女     :「………」
 宗谷     :「ふ〜ん、大切は人なんだね(微笑)」

 少女は何も言わなかった。それなのに宗谷は何か聞いたように頷く。不思議
な光景だった。

 宗谷     :「それであなた待っているだけなの?」
 少女     :「………」
 宗谷     :「いつまで待つの?」
 少女     :「………」
 宗谷     :「じゃあさ、ずっと……ずっと来なかったら?」
 少女     :「そんな事ない!」

 少女が初めて声を出した。今にも泣き出しそうな瞳で、じっと宗谷を見返す。
 宗谷は、また優しく。自愛に満ちた母親のように微笑んだ、諭すように語り
聞かせた。

 宗谷     :「あなたの待っている人はもうここに来ないよ」
 少女     :「そんな事ない、約束したもん!」
 宗谷     :「それで、あなたは何年待ち続けているの?」
 少女     :「……年って?」
 宗谷     :「いくつの冬を越えたの?」
 少女     :「二百と八つ」

 宗谷     :「貴方には短い時間でも、人間には長すぎる時間だ。その
        :人はもう死んでしまっている」
 少女     :「……死?」
 宗谷     :「そう、死だ」
 少女     :「……うそ」

 宗谷     :「嘘じゃあない。これは本当の事だ」
 少女     :「そんな、じゃあ、私は……」
 宗谷     :「彼に会いたい?」
 少女     :「……会いたい」
 宗谷     :「どうしても会いたい?」
 少女     :「会いたい! 私は彼に会うためだけに生きていたのに、
        :彼に会えるなら死んでも良かったのに!!」
 宗谷     :「……そう」

 小さな声でそれだけ言うと、宗谷はぎゅっと少女を抱きしめ、その耳元でポ
ツリと呟いた。

 宗谷     :「ごめん」

 葉はかさかさの茶に染まり、くりの木が見る間に枯れていく。

 少女     :「ああ、これで……あの人と…………」

 そして、少女は霞んで消えた。
 公園が騒然とする、無理もない、その場に数百年も根ざしていたくりの木が
一瞬にして枯れたのだ。

 宗谷     :「ごめんね、本当のことを教えちゃって」

 最後にそれだけ呟くと、宗谷はその場を後にした。


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