[KATARIBE 24073] [OM01N] 乱世の鬼舞・オープニング小説『南風が運ぶもの』

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Date: Mon, 25 Mar 2002 20:38:39 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24073] [OM01N] 乱世の鬼舞・オープニング小説『南風が運ぶもの』 
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2002年03月25日:20時38分39秒
Sub:[OM01N] 乱世の鬼舞・オープニング小説『南風が運ぶもの』:
From:ごんべ


 ごんべです。

 OM01『乱世の鬼舞』、とりあえずオープニングのキャラクター紹介としての
イメージ小説を書きました。
 百科事典 http://kataribe.com/OM/01/OM01ENCY.HTM と合わせてご覧下さい。


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小説『南風が運ぶもの』
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祥碌五年三月
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 おぎゃあ、おぎゃあ、……

 赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
 街道筋では、珍しくはあっても不思議ではない……が。
 ならば、ともに伝わってくるこの殺気は何だ?


 時は戦国。
 祥碌五年(後に嘉久元年)の春、三尾の国は白江(しらうみ)のほとり、湖西道
が小さな丘にさしかかる松林にて。


 渡りの野武士として漂泊の途にあった兵左が駆けつけたとき、その場で生き
残っていたのは泣き声の主である赤ん坊のみであった。
 しかし、動くものは、他にもいた。兵左は静かに野太刀を抜き払った。新た
に割り込んだ彼の殺気に、その「もの」の注意が矛先を変える。

「真っ昼間からお天道さんの下に顔を出すとは、良い度胸じゃないか」

 腰を落として脇に構える兵左の声にも、動じた様子はない。と言うよりも、
通じているのかどうか。

 威嚇の唸り声とともに、なまじな匕首ほどはあろうかという牙と、血の色に
彩られた金色の瞳がむき出しになる。振り上げられた腕が傍らにあった一抱え
近い立木を兵左の顔の高さで打ち砕き、踏み出した足がずしんと大地を鳴動さ
せる。

 憤怒の形相を帯びた、妖(あやかし)のもの。
 鬼だ。
 身の丈二丈(約6メートル)近くはあろうか。

 ウオオオオオオオオォォォォォォッ

 吼え猛る大音声があたりを圧し、ビリビリ、と松の葉擦れの音が続く。
 魂魄を震わすその吼え声にも、しかし兵左は身じろぎ一つしない。

「憎いか」

 妖は、人の心を糧とする。時には、人の心から生まれ出るものすらある。
 特に鬼は。鬼にとって、人は「糧」でしかない。
 隙を見せたら……いや、内心かすかにでも動揺したら、それは鬼の利となる。
 鬼を斬る者にとっては、絶対に見せてはならない油断である。

「お前がどこから湧いたかは知らん。何が憎いのかも知らん。だが、俺と会っ
たのも何かの縁だ」

 刃のような殺気が充満する中、鬼は驕りも気負いも見せず、ただ獣のように
身構えている。あたかも、怒り以外の感情は存在しないが如く。
 しかしそれは兵左も同じ。

「お前を、斬る」

 一瞬の間の後、疾風の如く両者が動いた。
 地面をえぐりながら襲いかかった鬼の手が音よりも早く振り下ろされて兵左
がいた辺りの地面を砕き、巻き起こった空気の壁がどおんっ、と前方の木々を
傾がせる。兵左の振るった太刀は、鬼の左腕によってはじかれていた。
 しかしそれも、兵左の思惑の内。
 一太刀を見送って身をかわすことに全力を注いだ兵左は、鬼の背後を取った。

 シイイィィッ!

 兵左の口から漏れた音か、あるいは太刀が空気を切り裂いた音か。
 自身も大地をえぐるほどに足を踏みしめ、わずかな間もおかずに兵左は鬼の
懐に飛び込んだ。
 刹那ひらめく光の曲線。

 ……ゴアオオオォッ

 一度は兵左の太刀をはじいた鬼の腕も、今度は耐えられなかった。返す刀で
横に薙いだ太刀が、続いて鬼の足を捉える。一瞬のうちに左の下腕と大腿を切
断された鬼が、わずかに遅れて叫びを挙げる。さらに兵左は、太刀の柄頭で鬼
の背中をしたたかに打ち据え、姿勢を崩した鬼の巨体を足下に踏みつける。

 断末魔の声を挙げる間もなく、鬼の頭が宙を舞った。

 なおも兵左は気を緩めなかった。
 松林の間に転がった鬼の首をすぐに追いかけ、懐から取り出した札を鬼の眉
間に当ててまじないを唱える。
 ゴッ、と札から炎が上がり、瞬く間に鬼の首までを包み込む。黒こげになっ
た鬼の首は見る見るうちにその場で石と化し、大地に倒れた鬼の体は白いもや
となって雲散霧消した。

 そのまま、しばし兵左はその場から動かなかった。

「……ま、成仏しろや」

 ぽんぽん、と鬼の首であった石を叩き、やおら立ち上がる。
 途切れていた赤ん坊の泣き声が再び聞こえてくる。
 振り向いた兵左の顔には、もはや微塵の殺気も感じられなかった。

「おう、よしよし……災難じゃったのう」

 鬼の犠牲となった骸の間から、兵左は赤ん坊をすくい上げた。そして赤ん坊
の産着、さらに両親や随身と思しき男女の着物や荷物を改めたが、身元の手が
かりとなるものは何一つ無かった。

「ふむ……仕様があるまい、この先の村の者でも呼んでくるか。……おお、よ
しよし泣くな泣くな」

 人々の骸に軽く手を合わせ、もう一度辺りを見渡すと、兵左は赤ん坊を抱え
たまま街道の先を急ぎ、その場を後にした。


嘉久十一年三月
--------------

 それから十年。
 三尾の国の西部の村、水生郷(みずはごう)にて。

「もう、飯くらいは炊いておいてくれるって言ってたじゃないの!」
「済まんのお、調べものをしておったらつい……」
「いつもそうなんだから! 一泰さん、片付けが終わるまで、晩御飯抜き!」
「勘弁しておくれよ」

 威勢のいい少女の高い声と、情けなさげな初老の男の声が、古寺の庫裏の中
から聞こえてくるのに、兵左は苦笑いを堪えられなかった。

「はやね、あまり一泰さんをいじめるもんじゃないぞ」
「だって、あたしが山に入ってる間いっつもずっと書ばっかり読んで何もしな
いんだもの!」
「はっはっはっ、そりゃ一泰殿も仕方ないのう」
「兵左殿は、儂の味方なのかね、敵なのかね」
「それより、魚は?」
「ほれ」
「こんなに釣れたの! さっすが兵左!」
「片付けは俺が手伝っておくから、飯の準備を頼むわ」
「はーい」

 くるくると表情の変わる少女がにぎやかに奥へ下がっていくのを見送り、兵
左と、一泰と呼ばれた男は、互いに顔を見合わせて笑った。

「……おや」
「……どうされた?」
「風が」

 ひゅう、と二人の座る濡れ縁を強い風が吹き過ぎていく。
 二人はむしろ心地よさげに風を感じていた。

「だいぶ風が温んできたのう」
「……お前さんたちがこの郷に来てから、もう十年になるのじゃな」
「……そうか……この季節じゃったな」

 上方より西では、南風のことを「はえ」とも称する。
 南風が吹くと同時に泣きやんだ赤ん坊は、「南風音」(はやね)と名付けられ
て、この郷で育てられた。

「いい子に育った」
「なんの、あれほどお転婆では儂が苦労するばかりじゃて」
「一泰殿にはこれくらいがちょうどええじゃろう。良いではないか、実の娘と
思えば可愛かろう」

 そして兵左もともどもに、郷の賢者である一泰の庵に転がり込んでいた。
 そして十年。

「兵左殿、ちょいと手伝ってほしいんじゃがの」

 田の畔の向こうから、村人が呼ばわる。

「おう、何じゃ、今行く」
「兵左殿、儂の手伝いをしてくれるのではなかったのかね」
「おっと、そうじゃった」
「おいおい」


 時は戦国。

 乱世を支配するのは、人の心か、はたまた鬼か。
 その答は、いまだ出そうにはない。


解説
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 三尾の国の湖西道と水生郷、および水生郷の主要3キャラの紹介。
 はやねの過去、及び彼女と兵左を水生郷がいかに迎えたか、について。


登場人物
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兵左(ひょうざ)
    :諸国を旅していた剣客だったが、はやねの件を境に三尾の国は水生
    :郷の「一炊庵」に居候している。村人から用心棒として慕われる。
はやね
    :親を亡くし、赤ん坊の頃に兵左に拾われて水生郷で育てられた孤児。
一泰(いったい)
    :水生郷に「一炊庵」を構え泰然とした生活を送る隠者。
    :はやねの親代わりだが、日頃の生活では立場が逆転している。


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 修正をかけるかも知れませんが、とりあえず流しておきます。

 以下、続刊。(ぉ

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ごんべ
gombe@gombe.org



    

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