[KATARIBE 24013] [HA06N] 小説『あの夏の夜更けのこと』

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Date: Sun, 17 Mar 2002 20:30:15 +0900 (JST)
From: 月影れあな  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 24013] [HA06N] 小説『あの夏の夜更けのこと』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200203171130.UAA06534@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 24013

2002年03月17日:20時30分15秒
Sub:[HA06N]小説『あの夏の夜更けのこと』:
From:月影れあな


月影れあなです。

唐突に小説。


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小説『あの夏の夜更けの事』
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本文
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「見て、姉ちゃん。お月さまが出ているよ」
「あら、本当に」
 昼間は常にどんよりとした雲に覆われている屋敷の空も、夜だけは何故か綺
麗に晴れ上がっていた。
 付近の家の窓は硬く閉ざされたままなので、ここの一角は他の住宅地と比べ
て暗くなっている。だから夜空も、他の場所に比べると心なし綺麗に星が見え
る。
 満天の星空の中天高くまで昇った十五夜の月は薄ぼんやりとした笠をかぶっ
て幻想的に華やいでいた。
 ぽつりと、鈴鹿が呟く。
「明日、雨が降りますわね」
 宗谷は不思議そうに首をかしげた。
「どうして? 姉ちゃん。お空はこんなに綺麗なのに」
「お月さまが笠をかぶってますわ」
 宗谷はまた不思議そうに首をかしげる。
「どうしてお月さまは笠をかぶるの?」
 すると、鈴鹿はにっこり笑ってその質問に答えた。
「お空は宗谷さんのいる所より高い場所にあるでしょ? その分、一日だけ早
くお空の上には雨が降るんです。だから、お月さまが笠をかぶった次の日には
雨が降ってくるんですよ」
「ふうん、そうだったんだ」
 と、言って宗谷は無邪気に笑う。鈴鹿もそれにつられて微笑んだ。
 そのまましばらくにこにこと月を見上げる二人の姉弟。月はぼんやりと光を
放っている。
「ねぇ、姉ちゃん。お歌歌って?」
 ふと唐突に、宗谷がそんな事を言い出した。
「お歌ですか?」
「うん、歌って?」
 無邪気に微笑む。
 なぜ、宗谷が突然そんな事を言い始めたのか? 鈴鹿には分からなかった。
しかし、宗谷が喜ぶのならと、鈴鹿はためらわず宗谷の所望に応えた。

 うーさぎ、うさぎ
 なに見てはねる
 十五夜お月さま見てはーねる

「うさぎさんの歌?」
「うさぎさんの歌ですわ」
「どうしてうさぎさんはお月さまを見てはねるの?」
「さぁ、どうしてでしょうね?」
 くすくすと笑って、鈴鹿は逆に問い返した。しばらく一生懸命に考えていた
宗谷だったが、どうしても分からなかったのか、もう一度鈴鹿に問い直す。
「分からないよ。ねぇ、どうしてなの?」
 宗谷の瞳は真剣そのものだ。
 鈴鹿は宗谷の頭を優しく撫で付けると、静かに語って聞かせた。
「それはきっとね、うさぎさんは帰りたがっていますのよ」
「帰る?」
「うさぎさんはね、昔はみんなお月さまの上にいましたの。お月さまの金色の
地面の上で元気に走り回っていましたの。だから、それが懐かしくて、そこに
帰りたくて、届かないとは分かっていても、ぴょんぴょんと飛び跳ねるんです
よ」
「うさぎさんは帰れないの? なんで? 可哀相だよ」
 宗谷は瞳を潤ませて半泣きになった。鈴鹿はそれを見て、また宗谷の頭を一
撫でする。
「ところがね、うさぎさんはちっとも可哀相な事なんかないんですよ」
「どうしてなの?」
「それはね、うさぎさんは『今、ここにいる事』を知っているからなのです」
「?」
「『過去』は懐かしむためだけのものだから。そして、いくら懐かしんだとし
ても、決して帰ることはかなわないものだから。満月の夜、時折思い出し、そ
れを懐かしむだけでうさぎさんは満足なのです。だって、うさぎさんは『今』
にしあわせを見つけることができるのですから」
 鈴鹿は相変わらずにこにこと笑っている。けど、どことなく遠くを見つめて
いるようにも見えた。
「宗谷さんには少し難しすぎたかな?」
「ううん、よく、わからない、かな?」
「貴方はまだ、懐かしむべき『過去』を持っていないから。でも、今に分かる
ときが来る……」

 じりりりりりりん じりりりりりりん

 そこで、唐突に電話のベルが鳴った。
「あら、電話ね」
 今では珍しい旧式の黒電話。それを取るため、鈴鹿は小走りになった。
「はい、もしもし、月影です………はい……はい、そうですけど…………」
 唐突に、鈴鹿が受話器を取り落とす。

 がちゃん

 やけに大きな音が響いた。宗谷が驚いて反射的に音の方を見る。
 そこでは鈴鹿が、目を見開き、青ざめ、唇をわななかせていた。
「そんな……お父様と、お母様が……」
 受話器からは「もしもし!?」と、小さな声が聞こえてくる。
 月は何も言わないで、空の上からその様子をじっと見つめ続けていた。


「………う……ん………… あっ」
 ふと宗谷が目を覚ます。すでに日はどっぷりと暮れていた。遠くではフクロ
ウのなく声すら聞こえてくる。
「あ、あ……夢か………」
 ふぅ。と、ため息をつく。『今』となっては、あの時言っていた鈴鹿の言葉
の意味が、少しだけ、分かる気がした。
「……あれ?」
 空を見上げると、丸い月が昇っていた。あの時と寸分の違いもない、変わる
事のない丸い月。
「……あれ? ぼくはいつの間に泣いていたんだろう」


$$
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 と、言う事で宗谷君と鈴鹿さんの話。
 鈴鹿さんの前世の記憶、未覚醒ってしてたけど、やっぱ覚醒してても良いかなぁと思つた。
 なんていうか……このとき鈴鹿さんまだ六歳なのよさね(爆)ちなみに宗谷君は四歳で年相応。


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     「人と猫耳を科学する」
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