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Date: Mon, 18 Feb 2002 09:51:48 +0900
From: "Kato" <az7k-ktu@asahi-net.or.jp>
Subject: [KATARIBE 23874] [HA06P] エピソード『春を待つ』
To: <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <002301c1b816$76f14840$1f2c84d3@az7kktu>
X-Mail-Count: 23874
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エピソード『春を待つ』
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本文
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風はゆっくりと、静かに流れ行く。葉の無い木々は物を言わない。
身を切る寒さが時間をも凍らせてしまったかとも思うほどに、静かな空間。
静寂の中で月影宗谷は、灰色の老木に身を委ねて、ぼうっと空を眺めていた。
宗谷 :「……静かだ……」
木 :(どうかしたの?)
独り言を聞きつけた老木が声をかけてくる。
宗谷の耳に響く声は若い。
植物にとって若さとは必ずしも重要なものではない。
数千年を生きた大木が若者のように瑞々しい声で話すこともあれば、五十に
も満たない若木が老人のように老いた声で話すこともある。そういうものだ。
宗谷 :「別に、何も無いけど」
木 :(落ち込んでるように見えるよ)
宗谷 :「そう……」
落ち込む。自分は落ち込んでいるのだろうか?
問いかける。答えは無い。ただ、重い疲労感だけが心に感じられた。
宗谷 :「そう、かもしれないね」
木 :(落ち込んでも良いけどね
:落ち込んでるだけじゃ何にもならないから)
宗谷 :「わかってるよ……(にこ)」
話が途切れる。
街の方を見渡す。空が、少しにごって見えた。光化学スモッグだ。
何となく悲しい気持ちがこみ上げてきた。“緑の指”を持つ手を通して、そ
れが相手にも伝わる。宗谷には彼女が泣き笑いに近い表情を作ったように思え
た。
老木は、このにごった空を眺めながら何を思うのだろうか。
宗谷 :「………」
木 :(………)
宗谷 :「……風、冷たいね」
木 :(そうだね)
宗谷 :「寒くない?」
木 :(ちょっと、寒いかな
:でも、冬はそういう季節だから)
宗谷 :「そう……」
木 :(冬があるから、春もあるんだよ
:気長に待ってれば、いつか春が来てくれる)
宗谷 :「そう、だね」
冬があるから春もある。いつか春が来る。当たり前の言葉が何故か心の奥の
ほうにまで染み透っていく。
少しだけ元気が出た。
宗谷 :「じゃあ、ぼくそろそろ行くね」
木 :(うん)
宗谷 :「また、来るね」
木 :(うん、またね)
いつかの再開を約束して、ぼくはその場所を立った。
[TK-R] #と、一人で始めて一人で終わる
[tatsu114] #エピソードとか言って手を加えて流したり
[TK-R] #それもありかな
と、言う事で加筆修正をして、エピソードにしてしまいました
[tatsu114] #気がいうと説得力あるな
[tatsu114] #木
[tatsu114] #<いつかは春が来る
[TK-R] まぁ、木だしね
場所・時系列
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吹利市内のどこか。たぶん、街を一望できる山か、郊外だと思う。
解説
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なにかに落ち込んで、木と語らう宗谷君の話です。
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