[KATARIBE 23731] [HA06N] 小説『綺と苑と……(後編其の一)』

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Date: Sat, 26 Jan 2002 20:19:56 +0900
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Subject: [KATARIBE 23731] [HA06N] 小説『綺と苑と……(後編其の一)』
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月影れあなです

後編其の一……とても無理やりでし

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小説『綺と苑と……(後編其の一)』
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登場人物
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桐生院綺(きりゅういん・いろい)
    :常葉子の「長男の猫」。

雪(ゆき)
    :生き残った綺の兄弟。水色の毛並みを持っている。

月(つき)
    :生き残った綺の兄弟。白色の毛並みを持っている。

苑(えん)
    :顔に傷を持つ謎の黒猫。綺の母、常葉子の知人らしい。

本文
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 綺と他二匹のこねこ達を別の部屋におくと、苑は副組長に連れられ、離れへ
と通された。
「おお、苑か。よう来てくれた。元気そうやな」
 一匹の老猫が苑を迎える。体中に走る無数の傷、貫禄ある体つき、猫龍会十
三代目組長高野寛司だ。
「寛司殿も息災で……と、言いたいところですが、いささか具合が悪そうです
な」
 確かに、声に覇気が無い。
「ほっほ、相変わらずさっくり物を言いよるわ」
 目を細めて嬉しそうに身体を揺らす。
「あんたぁ、ほんまに相変わらずやなぁ。六年前とちっとも変わっとらんやな
いか」
 そういう寛司の声には懐古の色が混ざっていた。
「あんころは、わしもまだまだ若造でな。あんたの足引っ張ってばっかりやっ
た……今でこそ、組長なんかやっとるけど、それも、もう長くもって二年って
とこやろ」
「寛司殿……」
 苑の前に座っているのは老いた老猫だった。若い頃あった鋭い刃物のような
気迫と危なっかしさは無くなり、代わりに貫禄と老練さを身に付けた、老いた
猫。
「まぁ、酒でも飲もうや」
「はい、頂きます」
 寛司の進めるままに酒を飲む。今宵は少しくらい酔うのも良いだろう。

「まぁ、許してやってくれ。組長も懐かしいんだよ、あんたに会えてな」
 と言って、副組長が苑の盃に酒を注ぐ。先ほど組員達を怒鳴りつけたときと
は打って変わって砕けた口調だった。
 いつの間にか辺りの日はすっかり落ち、月は中天まで昇っている。寛司は酔
ったのか、いびきを立てて眠っている。
「別に不快に思ってはいない。寛司殿も気持ちのいい男に育ったな」
 酒を受け、呑む。ずっと呑み続けているはずなのに、何故か酔ったような様
子がほとんど無い。
「して、彪黄よ。例の話は本当か?」
「ん? ああ、嘘ではない。やはり寛実の奴『綺羅の宣』を破るつもりらしい」
 彪黄と言うのは副組長の名である。苦々しげな表情で答える。
「なんでも、竜造寺系列の化け猫一派と手を組んだそうだ」
 そこで、くつくつと可笑しそうに笑う。
「あいつ、綺羅がまだ生きているとも知らんで好き勝手やろうと思ってるみた
いだぜ」
「そうか……」
 盃を傾け、無言で月を仰ぐ。
「なぁ、彪黄よ」
「あぁ?」
「常葉子が死んだ。遺体はあの場所に埋葬した」
「!?」
 彪黄の顔に電撃のごとく衝撃が走った。
「なっ!?」
「狼に食い殺されて、俺は間に合わなかった……」
 押し殺した声、ぎりぎりと歯を噛み締める。つぅと、口の端から一筋の血が
流れた。
「じゃあ、あのちび猫どもは?」
「常葉子の子達だ」
「道理で、似ているはずだ……」
「すまない、謝って許せる物でない事は分かっている。俺のせいだ、俺の……」
 謝ってすまない事を、それでも謝るのは、勝手な自己満足に過ぎないと思う
。そうと分かっていても、そうせずにはいられなかった。
 苑は当然のことと、彪黄からの罵声を予想する。しかし……
「自分を責めすぎるのは、昔からお前の悪い癖だ」
 静かに呟いて、彪黄も盃を傾ける。
 高く上った月が、辺りを青白く照らしていた。

「俺のせいだ、俺の……」
 ほとんど何も無いこざっぱりとした部屋。床の間に三味線が飾られている。
ぼーっとそれを眺めながら、綺はどうしようもない後悔と、自責の念に囚われ
ていた。
 あの時自分が水を汲みになど行かなかったら……
 冷静に考えればどうしようもなかった事は目に見えている。所詮は子猫、綺
がいた所でどうなるものでもない。上空に避難するにしても、連れている子猫
たちを抱えきれるはずが無い。だから常葉子はあっけなく死んだのだ。
 それでも綺は後悔していた。
 全て自分が悪いのだ。
 そんな強迫観念に囚われていた。
 にゃあ、にゃあ、と、何も知らずに転がりまわる白と水色の兄弟たちを見や
る。自分は母に代わってこの子らを守らなければならないのだ。だから生きて
いる。それだけが自分を生かしている。
「お前達は私を現世にとどめる束縛なのか? それとも、この場合命の恩人と
言うべきなのか……」
 答えは無い。相手はまだ子猫だ。
「それにしても、苑は何者なのだ?」
 母の知り合いであるらしく、綺の事を「長男の猫」と呼んだ事から、羽猫種
族の事についても知っているのだろう。
「それに、私を見て一目で長男の猫だと言い当てた。もしや、父の事も知って
いるのではないだろうか?」
 独白する。だとしたら、その事を聞き出さねばならない。
 父には、母上に一言謝らせたい

 そのまま、数ヶ月すぎた。
 いつの間にか、その屋敷に居付いていた。ここの組長が苑の知り合いだそう
だ。
 苑からは何も聞き出せなかった。何を聞いても、曖昧にはぐらかされるだけ
、何も教えてくれない。無為に時間だけがすぎていく。
「綺ぃ!」
「綺にぃちゃっ!」
 白と水色の子猫が、玉砂利の敷き詰められた庭をこっちに向かって駆けてく
る。
 ずるべしゃ
 と、嫌な音を立てて白い方の子猫が大きく滑って転ぶ。驚いたのか、水色の
方の子猫も立ち止まった。白い子猫は、しばし呆然と地面に突っ伏す。
「うああああああああ!!」
 いきなり大声で泣き始めた。
「うああああああああ!!」
 つられたのか、空色の方の子猫も泣き始める。
 慌てて駆け寄り、綺はあやしにかかる。
「ほら、だいじょうぶか?」
「ひざ、痛いのぉ!」
 言われて見ると、確かに膝をすりむいている。
 綺は子猫たちを井戸へ連れて行くと、傷口を水で洗い、清潔な布を巻きつけ
てやった。
「もう痛くないだろ?」
「うん!」
 顔いっぱいに微笑を浮かべ、勢いよく頷く。綺の顔も思わずほころんだ。
 白い方が月、水色の方が雪、ともに綺の兄弟達だ。
「ところで二人とも、どうしたのだ?」
「あのね、綺にいちゃ! キラキラ見つけたの」
「キラキラ、とてもきれいだよ!」
 雪と月が勢いよくまくし立てる。何を言っているのか、綺にはさっぱり分か
らない。が、とりあえずついて来て欲しいらしく仕切りに綺の手を引っ張る。
 屋敷の裏口から野原に出る。野原を横切って山に入る。少し山に入ったとこ
ろに、小さな小川があった。
「キラキラよ」
「キラキラなの」
 二人が指差したのは川の中。覗き込んでみると、色とりどりのガラス玉が川
底に揺れていた。
「びーずだな。人間の子が落としていったのかな?」
「びーず!」
「びーずぅ」
 雪と月はなにやら喜んでいる。
「それにしてもお前達、いつもこんなところまで遊びに言っているのか?」
「ううん、ちがうの」
「あのね、雪がかぜさんに聞いたんだよ」
「かぜさんがキラキラあるって」
「風?」
 綺の顔が緊張する。風と言うのは、つまり、吹く風の事だろうか。だとした
ら……
「ひょっとして、屋敷の猫たちが今何処にいて、どんな話をしているのかも分
かるのか?」
「うん、かぜさんが教えてくれるの」
 やはり……
「母上の力を受け継いでいたのか……」
「ちから?」
「風の声を聞くのは雪だけか? それとも月もなのか?」
「ちがうよ、ぼくは聞こえないよ」
「雪だけなの」
「そうか……」
 風の声を聞く。異能を持つ羽猫、風の巫女としての力だ。綺の母、常葉子は
この力で里にいる者達の噂を聞き、そして苦悩していた。
「綺にいちゃ?」
「どうした、綺ぃ?」
 はっ、と我に返る。雪と月が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「あ、いや。なんでもない」
「じゃあ、綺にぃちゃもびーずあそぼ!」
「びーず、びーず!」
 と、両手いっぱいにびーずを抱えて、こねこたちは飛ぶようにして屋敷へと
かけていく。
 綺もその後を追って、山を下っていった。

                              つづく
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と、言うところで続く。
う〜む、どうやって閉めようか

    

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