[KATARIBE 23717] [HA06N] 『猫が行く』暫定版

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Date: Thu, 24 Jan 2002 10:34:35 +0900 (JST)
From: ごんべ  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 23717] [HA06N] 『猫が行く』暫定版 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200201240134.KAA77289@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 23717

2002年01月24日:10時34分35秒
Sub:[HA06N]『猫が行く』暫定版:
From:ごんべ


 ごんべです。さらに一本。

 E.Rさんによる、小説。
 瑞鶴の猫の、最後の登場となるであろうお話です。
 フォーマットに沿って体裁を整えました。

 E.Rさん、チェックをお願いいたします。


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小説『猫が行く』
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猫が行く
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  もしあんたが列車に間に合わなかったら
  こちらは行ってしまったものと思ってくれ
  聞こえるのは100マイル先からの汽笛ばかり


 静かに雨の降る日。
 書店、瑞鶴前。

 猫は一つ欠伸をした。

 (……ふむ)

 朝のうちは霧のようだった雨も、今はかなり本式に降っている。
 さふさふと、風に沿うて、波のように雨が流れる。
 それでもやはり、霧のように細かい雨が。
 降り続ける。

 猫はも一つ欠伸をする。

 (そろそろ、かねえ)

 渡り鳥が飛ぶ時を知るように。
 否、もっと恣意的に。
 
 頃合だろう、と、思ったのには理由は無い。
 それもまた、気まぐれである。

 猫は座りなおして、耳の後ろを掻いた。

 (ふむ)

 内心、可笑しい。

 (未練があるか)

 この場所に。ここに居た者達に。ここに来る者たちに。
 ……その未練を楽しむ自分がいるのもまた確かだが。

 細かい雨がひげをくすぐり、猫は一つくしゃみをした。

 (行くかね)

 通りの向こうから、かけられる声。

 (ああ)

 白い、大きな犬。
 互いに、名前を知らぬ。
 
 (息災で)
 (ありがとよ)

 犬の目が、少し細められた。
 笑ったようだった。


  100マイル、100マイル、100マイル、100マイル
  聞こえるのは100マイル先からの汽笛だけ


 何処かの店の扉が開いたはずみに、遠くかすれるような音が流れる。
 通りの向こうの犬と、瑞鶴の軒下の猫と。
 二匹が揃ってこくりと小首を傾ける。

 (聞いたことのある曲だね)
 (ほう)
 (先代も、この前消えたほうも聞いていたよ)

 白犬が、苦笑らしき喉声をもらす。


 『リメイク版の、こっちのほうがあたしは好きなんだけどね』
 『結構、元歌に無い歌詞が入っているからね』
 『自由に、自由に……ってね』


 肢を持ち上げ、一度ずつ払う。
 自由に、自由に。
 ……だからこそ自分は、この店に居ついたのだ。

 (じゃあね)
 (気をつけて)

 霧のような雨が途絶えることなく流れている。
 ひょい、と、何でもなげに猫が歩き出す。


  もしあんたが列車に間に合わなかったら
  こちらは行ってしまったものと思ってくれ
  聞こえるのは100マイル先からの汽笛ばかり


 (なんかそんな説明してたっけねえ、先代は)

 ふい、と、そんなことを思い出した。
 そして、ふい、と、記憶は流れていった。

 猫が行く。
 途絶えることの無い、霧のような雨の中を。


登場人物
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瑞鶴の猫 (ずいかくのねこ)
    :
白雲 (はくうん)
    :大きな体躯の白犬。長命の仙犬。瑞鶴の猫とは、知己。

解説
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 晩秋の長雨の中、自ら幕を引き去っていく……あるいはいつもの暮らしに
戻っていく、瑞鶴の猫のラストシーン。

BGM : "500Miles" (Hooters)


時系列
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 2000年11月下旬。


$$

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 以上です。では。

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ごんべ
gombe@gombe.org



    

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