[KATARIBE 23542] [HA06P] 小説「常闇の中で」

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Date: Sat, 5 Jan 2002 00:29:07 +0900
From: "Kato" <az7k-ktu@asahi-net.or.jp>
Subject: [KATARIBE 23542] [HA06P] 小説「常闇の中で」
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毎度、月影れあなです
今回は鈴鹿さんの小説。宗谷君ばっかりじゃ代わり映えがいのでたまには重く悩ませ
て見る。


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常闇の中で
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 静かな夜の空気が鈴鹿の身を包み込む。ひゅーと、風が通り過ぎる。痛みに
似た冷たい風すらも何故か心地良く感じられる。
 夜の吹利の街、中天に上った月を見上げる。懐かしい気持ち、帰りたいそう
いう気持ち。
 帰る? 何処へ帰るのだろう。自分の帰るべき場所はここにある。宗谷がい
る。何を莫迦な事を考えているんだろうか。笑おうとして、上手く笑えない。
不安に囚われた。自分の居場所が世界の何処にも無いような気がして。
 何時からだろうか、この不安を感じ始めたのは。十年も前、目の前で母様が
殺されたあの時。自分の所為で両親を殺された事と知った時から。
 あの時、自分が鬼と呼ばれる化生の者だと知った時、絶望と畏れで張り裂け
そうな胸の内を癒してくれたのは宗谷だった。
「大丈夫だよ」
 宗谷は自分を責めもせずそう言ってくれた。姉としての自分を忘れ、ただ泣
いてしまった事を。今でも決して忘れてはいない。
 それでも鈴鹿は不安だった。鬼である自分はいつか宗谷に害を加えるかもし
れない。そうなったら宗谷は私のことをどう思うのだろうか……
「化け物め!」
 背後から声が聞こえた。一瞬自分の物かとも思う。実際、そういう事を考え
ていた。しかし違った。聞こえたのは背後からだ。振り返ると、一人の男が立
っていた。
「化け物め!」
「何のことでしょうか?」
「とぼけるな! 人間のフリをして一体何のつもりだ!?」
 憎々しげに顔をゆがめた男が、憎々しげに声を吐き出す。自分は何か悪い事
をしただろうか? いや、違う。この男が自分を憎むのは……
「確かに私は化け物ですわ。それの一体何処が悪うございましょう?」
 男にではなく、自分に言い聞かせる。今まで何度も自分に言い聞かせてきた
言葉だ。
「黙れ! 化け物は居てはならないんだ! 全て俺が殺し尽くしてやる!!」
 ずきり、言葉が胸の奥に突き刺さる。自分は居てはならない存在。男に憎ま
れるべき化け物。ばけもの……
「その化け物が、貴方を殺したからですか? 貴方ももはや化け物でしょうに」
 男はビクッと大きく身を震わせる。そう、彼は死んでいた。化け物に殺され
た男、その幽霊。逆恨み? そうかもしれない、矛盾した恨み。たとえば彼を
殺したのが人間だったら、彼は全ての人間を恨んだのだろうか? 化け物とな
ったその身で、全ての人間に復讐をしたのだろうか?
「ちがう! ちがう! 俺は死んでなんか居ない、俺は化け物なんかじゃない!!」
 声に呼応して、衝撃が鈴鹿を襲う。だが、鈴鹿は平然として、全く意に介さ
ない。
「可哀相な人。そうして憎み、恨み、恐れ続けるのですね」
 鈴鹿は右手をすぅっと前にかざし、小さく呟いた。
「大通連よ」
 呼びかけに応じて闇の中から手元に一振りの巨大な太刀が姿を現す。まるで
重さが無いように軽く振り上げる、袈裟懸けに切りつけた。
「せめて闇の深淵では貴方に永久の安息のあらん事を」
 断末魔を上げる間もなく男の姿は闇に溶ける。最期に呟いた一言は自己満足
の偽善だった。化け物の癖に、情けをかけたふりなどして……
 自分は忌むべき化け物だ。両親を死に導き、そのくせ自分はのうのうと生き
続ける。自分の存在が無ければ、少なくともあの二人は死なずにすんだはずだ。
「私はいらない存在……」
 そうかもしれない。母様と父様を殺したあの男は言った。自分は鈴鹿御前の
転生だと。力だけが中途半端に目覚めてしまったと。私自身の記憶には無い、
もう一人の私。月を見て帰りたがるのは彼女だろうか?
 急に怖くなった。もし、彼女の記憶がよみがえり、私が消えてしまったらど
うなるのだろうか? 昨日までの日常が他人の物のように希薄となり、宗谷に
すら愛おしさを感じなくなるかもしれない。そして、私のではない、彼女の帰
るべき場所に帰るのだ。
 もし、そうなってしまったら……
 ふと、宗谷の微笑が瞼の裏に浮かんだ。あの子は自分が消えてしまったら悲
しんでくれるだろうか? 悲しんでくれるのだとしたら……
 大通連を闇の中に仕舞う。
「帰ろう」
 帰るべき場所へ。宗谷の待つ家へ。


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 鈴鹿さんの独白形式です。
 自分が鬼である事について色々と悩みます。自分を貶めてる傾向があるかもしれな
い。
 要はコンプレックスですかね


    

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