[KATARIBE 23421] [IC04N] 『りとる・どらまー・ぼーい〜クリスマスの響き』(後)

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Date: Sun, 30 Dec 2001 22:58:22 +0900 (JST)
From: E.R  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 23421] [IC04N] 『りとる・どらまー・ぼーい〜クリスマスの響き』(後) 
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2001年12月30日:22時58分21秒
Sub: [IC04N] 『りとる・どらまー・ぼーい〜クリスマスの響き』(後) :
From:E.R


ども、E.Rです。
というわけで続きです。

多少、コルチキンタワーの螺旋を利用して。
ほんとうのクリスマスを、己的に(笑)

***********************

 だいたいがとこ。
 終業式というものが、このコルチキンタワーで、どれほどの意味を持つのか、
考えてみれば非常に頼りないのだけれども。
「でも、通知表受け取るんだよねえ皆」
「あれは、先生がずるい」
 憮然として沙奈子が言う。
「来なかったら友達に渡すから、なんて言われたら来るじゃない、やっぱし」
「だって、その友達ごと休めばいー筈なのに」
「……あたしとあんたは、それでいーわよ」
 ちろりん、と、視線が飛んでくる。
「……ま、それはそっか」
 ちろりん、と、もう一本、視線が飛んでくる。
 交点上に居るのは、約一名。
「…………ええと?」
「ええとじゃないわよっ、あんたよあんた!」
「えーと……あたしが、何?」
「……初音嫌い」
「はあ……」
「あんた絶対、終業式とかさぼらないでしょうがっ」
「……うん、それはそう」
 だっからあんた嫌い、と、沙奈子がぼやいた。

 実際のところ、結構そのような行事の出席率は高い。無限螺旋を描くコルチ
キンタワーの中は、自分達がその気にならなければ、どの日も同じものになる。
 何時の間にか過ぎる一週間。何時の間にか変わるカレンダー。
 その流れに、流される者はとうに流されるだけの時間は、既に過ぎている。
 流されたくないものが、足を留める術を学ぶだけの時間も。


「えっと、で、どこだっけ」
 一応クリスマスとかで、夕食には『クリスマス定食』なるものがある。それ
を食べながら、百合野が尋ねた。
「二年十六組」
「場所、わかる?」
「昨日は、見たよ」
「……今日は?」
「まだ確認してないけど……そんなに動いてないんじゃないかな」
「だと、いーけど」
 ランダムに変わる教室とその位置。一ヶ月も変化が無いと、皆気味悪がって
その教室には近寄らなくなる。
 そんな異常な世界。
「んじゃ、ちょっと早いけど、食べたら探そう」
「……はああい」
 最後に残ったケーキと紅茶を食べながら、如何にも面白くなさげに沙奈子が
言う。
 ぶし、と、フォークを突き刺す手つきを斜め向かいから眺めていた初音が、
恐る恐る口を開いた。
「……沙奈子」
「ん?」
「そんなに、見たくない?」
「……んー」
「あたしは、見たいけど……沙奈子、でも、付き合わなくても」
「…………」
「ほら、百合野と一緒に。どっかで多分何かやってるし」
「……ゆーりや」
「はいな?」
「あたしの代わりに、初音締めてよ」
「え、でも」
「今更言うなっ」
「そーそー」
 ぱふ、と、平手で初音の頭をはたいて、百合野が笑う。
「ほんとに嫌なら、あたしら絶対行かないわよ。安心しなさいな」
「……うん」
 でも、実際ちょっとびっくりしたよね、と、百合野が言い、沙奈子が頷く。
「初音があんなに一生懸命行きたがるんだもん」
「そんなに、変かな」
「変……ってのとも違うだろうけどね」
 なおも初音は首を傾げる。それを見ていた沙奈子が、ふっと真面目な顔になっ
た。
「行くのはあたしも、もう構わないし。でも聞きたいんだ」
「何?」
「何でそんなに、行きたいの?」

 とん、と。
 放り出されるように真っ直ぐに問われて、初音も黙る。

「……何でだろう」

 さらん、と、流れた長い髪。
 どこと言って目を引くところの無い顔立ち。
 全く初めて出会った筈なのに。

 (じゃ、ほんとのクリスマス、見てみたくない?)

 その声が、不思議な程に。

「ほんとうに、聞こえたから」 
「へ?」
 百合野がきょとんとする。
「水無瀬先輩が、ほんとのクリスマスって言ったのが」

 (じゃ、ほんとのクリスマス、見てみたくない?)

 たったそれだけの言葉なのに。

「ほんと、かあ……」
 ケーキの最後の一口を食べて、沙奈子が分別くさそうな顔になる。
「うん」
「……なあるほど」
 それだけ言って、沙奈子が黙る。
 暫し。
 沈黙に負けたのは、初音のほうだった。
「……で?」
「でって、何?」
「えとだから」
「だから、成程って」

 それきり、沙奈子は妙に納得した顔のまま沈黙した。


 二年十六組。
 その教室は、動いていなかった。
「あー、こんばんは」
 からからと引き戸を開けると、明るい声が三人を迎えた。
「こんばんは」
「良く来たね」
「……って、先輩……」
「ん?」
 教室の丁度真中あたりに、ドラムのセットが置いてある。音楽準備室で埃を
被ったまま置いてあったのを、初音は覚えているのだが。
「ドラム、叩けるんですか?」
「んーん」
 小さく笑って、彼女は小首を傾げるような仕草をした。
「せいぜいこやって、ぱたぱた叩けるくらい」
「え、でも」
「でも、今日の小道具だから」

 白く張った表面を、小さく指ではじく。
 ぱたん、と、音は良く響いた。

「小道具……ああ」
「Little Drummer Boy、だもんね」

 笑って言うと、そこで彼女はああそうだ、と、手を打った。
「ねえ、アコーディオンの彼女」
「はい?」
「何か、クリスマスソング一つ、お願い」
「あ、はい」

 ソフトカバーを外し、暫く考える。
「何でも良いよ」
「えっと……じゃあ……あんまり普通じゃないですけど」

 O Come All Ye Faithful,
  Joyful and triumphant,
 O come ye, O come ye to Bethlehem!

 (え、この曲、クリスマスの曲なんですか?)
 (あら初音ちゃん、この曲知ってる?)
 (音楽だけは)

 そう、クリスマスの歌よ、と、先生は笑って教えてくれた。

 O come, let us adore Him,
          ……さあ行って、拝そうじゃないか
 Christ the Lord.

「……結構、通な曲選ぶね」
 ころん、と、ドラムの前の彼女が笑った。
「って?」
「うん、もろびとこぞりて、とか、ジングルベルとか来るかと思ってたから」
「……あ、そっか」
 一番弾きやすいというのが理由だったりしたのだが。
「でも、上手。流石にクリスマスを聞きたい人だけあるわ」
 その一言が、さらん、と流れた、途端。

「……え?!」
 コルチキンタワー。無限の螺旋を描く建物。
 その、螺旋の中央を向く側の窓の硝子が、さらりと溶けて消えた。
 まるで、霧が晴れたように。

 そこに広がる………闇。

「螺旋は、永遠に通じる」
 飄々とした声が、響く。
「コルチキンタワーから、世界へ。沢山の時、沢山の時代へ」
 それは確かに彼女の声だった。
「んじゃ、行きますか」
 唖然として、その闇を見つめる三人の後ろから、そんな声に続いて。
 たん、と、小さな音がした。


 それは、単調なまでのリズムの繰り返し。
 小さく、抑えられた音の。
 まるで、浜辺の波の、引いてはまたうちよせるような。

「宗教ってさ」
 静かな声が聞こえる。
「阿片みたいって言う人いるじゃない。弱い人が頼るものだとか、騙されてい
るんだとか」
 音は静かに、虚空へと響いてゆく。
「救いなんて本当は無いんだ、そうやって弱い者が自己欺瞞で救われたって思
うだけだ、みたいにも言われるし」
 でも、と、彼女は小さく呟く。
「それだけなら、きっと、2000年も続きやしない」

 たん と跳ねて。
 たたた と刻み。
 たんたん と留めて。

 まるで夢のように。

「2000年の間、騙されっぱなしってことは、無い」

 それは静かに、けれども確かに、深い闇の中に満ちてゆく。

「2000年間、何かはあったから、続いたんだよ」

 
 と。
 百合野がぴくりと肩を動かした。
 初音が目を凝らした。

 (音)

 後ろから流れ出す静かなリズムとは異なる音が、深閑とした闇の中から聞こ
えたような……気が、した。

 (音……)

 やはりそれも、彼女の叩くドラムと同じリズムで。
 けれども。
 
 (もっと柔らかい……音?)

「確かインドの、話」
 ふい、と、彼女が呟く。

 あっちはヒンズー教が主で。
 けれども、中には、あの国に生まれながら伝道をしようとした人もいて。
 とうとう捕まって、ヤギの生皮の袋に入れられて、日向に放り出された。
 ヤギの皮、最初は濡らしておくんだって。それが日にあたると、どんどん乾
いて縮む。その中の人は絞め殺される。
 
 その亡くなる少し前に、中の男が合図したんだって。紙をくれって。
 渡したら、綴ったんだって。
 私は何よりも幸福であった、と。

 
 たん たたた たん たたた たんたん
 たん たたた たん たたた たんたん


 (じゃあこの音は)
 (虚空から響き返すこの音は)

「あのひとも、最後まで、クリスマスを祝ったんだと思う」
 ぽつり、と、彼女はそう言った。


 動くのは指一本。
 だから、その指一本で寿ごう。
 

 たん たたた たん たたた たんたん
 たん たたた たん たたた たんたん


 
 それは、丁度一番星を見つけるのに似ていた。
 最初の一つの星を、見つけるまでは時間がかかる。けれども一度星が見つか
れば、あっという間に全天は星で満ちる。

 まるで、潮騒のように。
 深い深い闇の中から。
 全く同じリズムで。


 たん たたた たん たたた たんたん
 たん たたた たん たたた たんたん


 ヤギの皮袋に入れられて。
 じわじわと絞め殺されてゆく恐怖の中で。
 なお、我は幸福也と言い切ることが可能であるならば。

 それを幻想と、言えるものだろうか?


 たん 

 ふと、リズムが変わった。

 押し寄せる潮のようなリズムも、変わった。

 たん たん たん
 たん たん たん

 単純な三拍子。
 そしてギターの音。

 (きよしこの夜)

 深い深い夜の底から。
 その小さな音は、しかし確実に打ち寄せてくる。


「作詞者は私生児で、名付け親は死刑執行人。それは辛い目にあったって」
 また、ふわん、と、声が流れる。
 それは既に彼女一人の声というよりも、透明な事実を告げる為の沢山の声で
あるように聞こえた。
「運命を呪うような人が、けれども救い、救い、と、もとの歌詞では何度も繰
り返している」


 Jesus the Saviour is here.
 Jesus the Saviour is here. 


 どこまで努力しても、生まれだけは変えられない。
 その、どうにもならない矛盾やいたみを越えて。

 Jesus the Saviour is here.
 Jesus the Saviour is here. 
 
 その言葉の中にある、ほんとう。

「救うって、人の手が出来ることだったろうか」

 多くの夜を越え、多くの時を越え。
 押し寄せる声。

 その声が闇の中に溶けるように消えるにつれ、背後のドラムの音もまた、静
かに消えてゆく。

 そして。
 ドラムがまた、少し早めのリズムを刻みだす。

 呼応するように響く声。

 (あれ?)

 沙奈子が小首を傾げて、初音のほうを見る。
 初音は、唇を動かすだけで答える。

 (ヘンデルのメサイア)
 
  And the glory of the Load shall be reverled
   And all fresh shall see it together
   For the mouth of the Load hath spoken it

 深く湧き上がる泉のような声が、初音たちの周囲を満たした。

「ヘンデルが失意のどん底に居た時に、メサイアの台本を見たっていうの。
 肉体的にも、精神的にも、経済的にも、彼はぼろぼろだったって」

 静かな声が、その声の間を縫うように聞こえてくる。

「メサイアの台本の最初にあったのが、『慰めあれ』って言葉。
 そして彼は、たった24日間で、この曲を書き上げてしまった」

  慰めあれ

   どこを見ても、誰が手を伸ばしても、助けられないその男に

  慰めあれ

「あまりにも、有名な話」
 ぽつん、と、それだけ言って、声は途切れた。

 しんとした一瞬の沈黙の中から。
 湧き上がる、声。

 (ハレルヤコーラス)
 既にあまりにも有名なその曲。

   King of King
        ……王の王
     Load of Load
        ……主の主

 (彼は涙を流しながら書き綴ったという)
 (何処にも救い無く、真っ暗な中から)


 声は幾重にも揺れ、幾重にも重なる。
 声は無限の虚空の彼方から、様々な場所から流れてくる。


  Halleluja!


 渦巻くような歓喜の声は、わあんと虚空を満たし、そしてまた静かに消えて
いった。
 まるで指の間から落ちる砂のように。

 ドラムがまた、静かに音を刻みだした。
 それに応ずるように。
 
 (音が)

 
 音。
 様々な時代、様々な場所、様々な状況下。
 そこから生まれる、様々な旋律、そして歌詞。


  我等は寿ぐ。
  我等は慶ぶ。

  傷つき、矛盾に泣き。
  何が救いだ、何が我等を救えるのだと。
  どこにも向けることの出来ないかなしみとくやしさと。
  なおしかし、何とかして救われたいと。
  救われたいのだと。
  どうしようもないまま叫んだときに。

  たった一人、応じられたその声の故に。
  たった一人、何があっても救い続けると。
  

 音。
 そしてリズム。
 黒人霊歌。
 生まれ落ちてより、死ぬ時まで重なる矛盾に矛盾。
 そのかなしみさえ切り裂くような、声、手拍子。

  
  たった一人、我等の為に立ち続けて下さった人。
  そのひとの生まれた日を。

  何故に慶ばずにおられようか
  何故に寿がずにはおられようか

 
 音。
 くぐもったような、生乾きの皮を叩く音。
 指一本の、微かな。


  矛盾に泣き、苦しみ。
  あなたがいるなら何故こんなことが、と泣き叫んだ。
  否定のどん底をとおって、けれども。
  けれども、なお。


 音。
 弦楽器の、少し湿ったような音。
 (主よみもとに、だ)
 ……タイタニック沈没の際に、奏でられていたという曲。


  否定し、否定し、否定し尽くしてなお、
  否定されぬたったひとりのひと。
  拒まれても拒まれてもなお、手を伸ばしたひと。
  崩折れて、声一つ出ぬ我等を、抱きかかえるようにして泣かれたひと。

 
 音。
 多くの時代、多くの日々、多くの矛盾、多くの悲しみ。
 その全てを圧倒して、尚。


 虚空に響き渡る音。


  我等寿がん
  我等慶ばん

  クリスマスのその日を
  我等を救い続ける、そのひとの生まれて来られたことを

  
   
   あなたがうまれてきてくださったことが
   どれほどにわたしたちのよろこびとなりましたでしょう

   だからせめて
   われらにできるすべてをもって


 轟々と、響き渡る幾多の旋律が螺旋を揺るがし続ける。
 それはばらばらでありながら、不思議な調和を保ち続けた。
 四方八方から打ち寄せる波が、しかし不可思議なうつくしい文様を描くように。


  故に我等はクリスマスを寿ぐ
  故に我等はクリスマスを慶ぶ
  故に我等はクリスマスを歌う

  全ての場所、全ての時、己が全ての一瞬一瞬から

 螺旋の無限を揺るがすように。
 轟々と。

 (それが、クリスマス)
 (だからこそ、クリスマス)

 響き渡る、音。

 一面に響き渡る音が、もう一度柔らかく縒り合わされ紡がれた。
 様々な時代から、様々な人が奏でる音が。
 静かにそのぶれを減らし、ひとつの音へと収束し。
 
 そして。
 りいん、と。
 ひどく懐かしい旋律を奏でた。

 その曲が何だったのか。
 初音はどうしても思い出すことが出来なかった。

 

 
 その音が、すう、と、溶けるように消えてゆく、その余韻に重なるように。

  たん たたた たん たたた たんたん

 不意に、背後から。

  たん たたた たん たたた たんたん

 やはり静かに、同じリズムで打ち鳴らされる、音。

  Mary nodded pa rum pum pum pum      
  The ox and ass kept time pa rum pum pum pum

 細い、ごく飾らない声が、言葉を紡ぐ。

  I played my drum for him pa rum pum pum pum
  I played my best for him pa rum pum pum pum

 気が付くと、彼女は既に、立ち上がっていた。
 丁度鼓笛隊のドラム奏者のように、小さな太鼓を一つ、肩から前へとかけて
いた。
 
  Rum pum pum pum rum pum pum pum

 動こうとも、止めようとも、不思議と思わなかった。まるでそれが当たり前
のことのように、三人は彼女が歩き出し、横を通り過ぎ、深い虚空へと歩むの
を見ていた。

  Then he smiled at me pa rum pum pum pum 
  Me and my drum 

 最後に、彼女は少しだけ振り返った。
 背中の中ほどまで伸びた髪が、ふわりと後を追うように揺れた。

 にこり、と、最後に彼女は笑った。
 そして、虚空へと静かに歩いていった。


  I played my drum for him pa rum pum pum pum
  I played my best for him pa rum pum pum pum

 
 音。
 その姿が闇に溶け、消えた後までも。
 虚空から微かに響く、音。

 リズム。


 たあん、と、澄んだドラムの音が、虚空の深みから響いた。
 気が付くと、その暗い闇の一面に、鏤めるように。


  星……






 広瀬先輩に、聞いたんだよ、と、百合野は言った。
「そしたら?」
「確かに、水無瀬って人、知ってるとは言ってた」
 へえ、と、呟きながら、沙奈子はサンドイッチを齧る。
「ってことは、コルチキンタワーに」
「居ない人」
「へ?」
 っていうか、と、言いかけて、百合野は自分のサンドイッチに手を延ばす。
「ゆーりやっ」
「もったいぶらないで、教えてよっ」
「あーはいはい」
 取り上げられたサンドイッチを恨めしげに眺めながらも、まんざらでもない
顔で彼女は続けた。
「広瀬先輩が、こっちに来る前に同じクラスにいて、その冬に亡くなった人な
んだって」
「……亡くなった?」
「うん。クリスマスの翌日くらいに」
 けろん、として百合野は言うが、後の二人は思わず顔を見合わせた。
「……じゃ、幽霊……?」
「まあ、そうなるんだろうけどさ」
 今度こそ、サンドイッチを奪取して食べながら、妙に明るい声で百合野は言
う。
「先輩に話したら、言ってたよ。水無瀬さんならクリスマスの幽霊にでもなり
そうだなって」
「クリスマスの幽霊?」
「ほら、いたじゃない。クリスマスキャロルに出てくる三人の幽霊」
 沙奈子と初音は、また顔を見合わせる。
「……そういう人だったんだ?」
「そうみたい」

 (ほんとのクリスマス、見てみたくない?)

 あかるい、声。
 思い出して、初音の口元がほころぶ。
 見上げるとやはり、沙奈子の目元に笑いが浮かび上がっていた。

「……でもさ」
 最後のパンの端を飲み込んで、初音は口を開いた。
「いい、クリスマスだったよね」
「うん」


 窓の外は、一晩あけてすっかり真っ白になっている。
 誰かが窓を開けているらしく、歌声らしきものが響いてくるのがわかる。 
 

「さーて年越しだね次は」
「部屋片付けた?」
「……きーくーなっ」

 コルチキンタワーにやってきた、クリスマスの幽霊。
 それもとてもありそうな話。

 最後に残った紙くずをまとめて、沙奈子がゴミ箱にぽうんと放り込んだ。


************************

 てなわけで。
 
 クライマックスのイメージは、地下鉄に揺られながら作りました。
 だからいかにも(苦笑)

 では皆様、良いお年を……
 ………(あ、話が出来た(滅))

 ではでは。



    

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