[KATARIBE 22923] [BMN] 暴風の飛行艇

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Date: Fri, 09 Nov 2001 11:38:43 +0900
From: Toshiaki Tomita <saramari@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 22923] [BMN] 暴風の飛行艇
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <3BEB41B38C.934ASARAMARI@sv.trpg.net>
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 更毬@電車の中です。IRCのログで予告されていたBMの短編です。

[BMN]暴風の飛行艇
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 「出航帆(ブルーピーター)ヨーソーロ!!」

 船長ギグの掛け声を合図に、飛行船はゆっくりと出航した。出航帆がきらめき、船は
ゆっくりと高度を上げていった。船上には祭壇があり、橙が青空に映えるキリオの実が
奉げられていた。
 ナリルは自分の腕の長さほどもある扇を広げ、恭しく壇に向かってお辞儀をした。扇
の中心には蒼い丸、そしてそれを中心に灰色の渦が描かれていた。その模様こそ、ナリ
ルが奉る”荒ぶる暴風の神威”の神紋であった。
 ナリルは踊りだした。彼女の鉄扇の柄より伸びる3色の帯が、栗色の髪と共に、彼女
の廻りを軽やかに舞った。ナリルの踊りが徐々に早くなり、鉄扇が風を切る音が大きく
なっていった。
 最後にひときわ大きく床を踏みしめ、ナリルは叫んだ。
 「荒ぶる暴風の神威に願い奉る。我らが旅に祝福を与えんことを!!」
 ナリルは扇に酒を振り掛け、帆を扇いだ。扇より飛び散った酒のしずくが陽光を受け、
帆に斑点を作っていった。

 「来るぞ、野郎ども!!」

 船長ギグが大きな声で叫ぶ。甲板員たちがメインマストのロープを握り締め備える。
 ナリルが仰いだ風が風を呼び、帆をはためかせ、帆を膨らませ、そして、ナリルが船
尾に向かってしたお辞儀を合図に……暴風が来た。

 さっきまで穏やかだった船上が、一気に戦場と化す。貪欲に帆についた酒を飲みとる
様に帆に絡みつく暴風によって、メインマストはぎしぎしと音を立て、弓なりになる。
 甲板員たちは、必死にロープを張り、張力を保つ。船はぐんぐんスピードを上げていっ
た。

 「船長、いつも荒れてすまないねぇ」
 「なぁに、いいってことすよ。この暴風のおかげで、早く着けるんでさぁ。それに
船も女もじゃじゃ馬の方が乗りがいがあるってもんですよ。お客は酔っちまうでしょ
うがね」
 「仕方がないさ。急ぎっていうことで雇われたわけなんだから」

 船が左右にゆれるので、船倉でがんがんと物が当たる音がする。いや、荷物はぎっ
しりとつめるので、乗客が壁に当たる音であるかもしれない。

 「良い暴風(かぜ)。いい旅になりそうね」

 荒れ狂う風に髪を巻き上げられながら、ナリルはそう微笑むのであった。


用語・設定欄
ブルーピーター、ヨーソーロ:インターネットを検索したらなかったので、出航帆=
      ブルーピーターというのは小山田いくの造語かもしれません。
      よって、ブルーピータ−という言葉は、変えた方がいいかも。
キリオの実:オレンジ等の柑橘類をイメージしています。ビワでもいいと思います。
ナリル  :”荒ぶる暴風の神威”を奉る女性。鉄扇を振り回せるだけの筋力抜群女。
荒ぶる暴風の神威:そのまま。ナリルの持っている鉄扇が神威具。
神   紋:いわゆる聖印。神威は紋様で象徴されるとした方がいいかなぁと思って
      作った造語。神威紋とも呼ばれる。

                                                                 以上
    

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