[KATARIBE 22801] [BM03N]EP: 「王都にて」

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Date: Thu, 25 Oct 2001 01:09:25 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 22801] [BM03N]EP: 「王都にて」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200110241609.BAA51260@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 22801

2001年10月25日:01時09分24秒
Sub:[BM03N]EP:「王都にて」:
From:久志


久志です。

よーやっとお話書いたので流してみます。
色々つっついてみてください。

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王都にて
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登場人物
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 レンファ・スニフ:弟子をとる為に王都へきた類感魔術士
 ユノー・カッシュ:アルファローズ宮廷魔術師。レンファとは姉妹弟子

再開
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 アルファローズ王都、ローゼリア。
 船員に誘導されるまま階段を渡り、船着場に降りた。
 降りてからも船に乗っている間の浮遊感が足に残っている。

 四年ぶりに訪れた王都は変わらぬ活気と人で溢れていた。
 あちこちに露店が軒を連ね、交易船と思われる飛行船から多くの積荷が下ろ
され、運び出されていく。人の流れにのって馬車乗り場へと歩き出す。

「レン姉さん!」

 懐かしい声に振り向くと、見慣れた濃いグレーのローブ姿の妹弟子の姿が見
えた。

「ユノー!」
「姉さん、お久しぶり!」

 口を開くより早く、転がるように飛びついてくる。自慢のブラウンの髪から
微かに異国の花の香りがした。

「変わってないのね、ユノー。子供みたいよ」
「姉さんこそ、四年前とちっとも変わらないわ」

 私達の師匠であり親の代わりでもあったエルミン師の葬儀から四年、子供の
ように師の墓標にすがって泣きじゃくっていたユノーが瞼に浮かぶ。あの頃は
まだ正式な宮廷魔術士ではなく、宮廷魔術士長であったエルミン師の秘書とし
て側についていた。

「元気だった?ユノーのことだから、すぐ本に没頭して食事もとらずに倒れて
いやしないかと心配していたのよ」
「ひどいわ姉さん、そんなこともうしてないわ」
「ふふ、王宮勤めはどう?もう、すっかり馴染んでいるようだけど」
「そうそう!すっかり報告を忘れていたけど。私、補佐官になったのよ」
「補佐官に?」
「最年少の補佐官ですって。初めの頃は先任に妬まれもしたけれど、今では一
目置かれてるのよ」

 得意げに微笑む顔は、ちっとも変わっていないように見えて確かに年月の分
だけの経験を積んだ自信が見えた。少し、ほっとしたような寂しいような不思
議なものを感じる。
 私も同じように経験を重ねられているだろうか。

「いけない馬車を待たせていたの、姉さんこっちよ」

 慌てて私の手を引いて歩き出す姿は、変わらないユノーのままだった。


挨拶
-----

 師、エルミンの眠る場所は、王都ローゼリアの船着場から大分北に離れた場
所にある小さな丘にあった。

 晩年、病に倒れた師はかつての弟子達を集め、こう告げた。

『我が子らよ。今まで私を師と仰ぎ慕ってくれた子達よ、血はつながらなくと
も私はお前達すべてを我が子と思い、教え、説き、慈しんできた。
 私の命はじきに果てる。
 私はこの最後の命を、私が生まれ愛した国、アルファローズに捧げる。
 私の子達よ。魔術を受け継いでいった子達よ。どうか悲しまないで欲しい。
 そして誓って欲しい。
 緑多き国、祖国アルファローズを護ること
 私が伝えた魔術をまた新しい子らに伝えていくこと
 青い月満ちる大陸を愛し、力を尽くしていくことを』


 最後の命が消える時。師は病の体を押して、王都を一望できる丘へ行くこと
を望んだ。。

 アンテ。
 エドヴィ。
 フリデリーケ。
 コーデリア。
 キャシアス。
 私。
 ユノー。

 一人づつ、名を呼びしっかりと手を握り、微笑んだ。
 王都を眺め、跪き、願いを込めて、ゆっくりと眠るように逝った師。

 小さな墓標は四年の歳月を経て色あせて緑の苔が生茂っていた。
 王都の景色は変わらず、眼前に広がっている。

「姉さん」

 手に白い花束。

「リサの花?」
「ええ、私が育てたのよ」

 異国クレスタの南部海岸沿いにしか咲かない、小さな白い花。
 その香りは花の十倍の金より価値があると歌われる程でもある。

「びっくりした?アルファローズでは咲かないはずだものね」

 一度だけ、師と私とユノーとでクレスタへ渡ったことがあった。海岸に咲く
白い花を一目で気に入り、この花をいつかアルファローズで咲かせてみせると
目を輝かせて話していた。

「成功したのね」
「ええ、これが私の魔術の成果。レン姉さんと師に見て欲しくて今日持ってき
たの」

 師の墓前に供えられた白い花。ユノーの髪から微かに匂ったのはこの香り。

「我が師、エルミン。久しく、戻ってまいりました」
「我が師、エルミン。成果をごらんになってください」

 跪いて、祈る。
 風にに吹かれた花だけがゆらゆらと揺れる。


 祖国アルファローズを護ること。
 魔術を新しい子らに伝えていくこと。
 青い月満ちる大陸を愛し、力を尽くしていくこと。


 私が師の意志を継ぐのはこれから。

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いじょ


    

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