[KATARIBE 22510] [HA06N] 『移籍』

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Date: Thu, 27 Sep 2001 00:32:12 +0900
From: Takuji -Gombe- HOTTA <gombe@gombe.org>
Subject: [KATARIBE 22510] [HA06N] 『移籍』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200109261532.AA02272@gombe-pc.gombe.org>
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 ごんべです。


 ろくに動かしていないコンビニパートタイマーの三月恵理ですが、ちょっと
情景が浮かびましたので、小説にして流します。

 本人の一人称なのであれこれ口数が多くなっていますが、実際の人当たりは
とてもソフトです、と主張しておきます(笑)。と言うか、そういう矛盾をはら
んでしまうので流すのをためらったのですが、流します(^^;
 文筆力というかキャラ構築力が上がったら、矛盾もなくなるかなあ、と期待。


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小説『移籍』
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登場人物
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 三月 恵理 (みつき・えり)
    :「スラモン」のベテランパートタイマー。大人の雰囲気の女性。
    :オーナーや店長の補佐も任されているらしい。

本編
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 人生はまるで、波打つ水面のよう。
 無数の思いが広がり、重なり合って。


 きっかけは、ほんの一石。

「三月さん、ちょっと来て」

 その頃パートタイムで勤めていた大手のスーパーマーケットの、食料品フロ
アのやり手の女性マネージャーに呼ばれたとき、私は「またどこかのパートの
ヘルプに出されるのかな」と言うくらいにしか考えていなかった。

「何でしょう?」
「ちょっと相談があるんだけど……」

 珍しい話ではないはずだが、その日はいつになく歯切れが悪かった。

「実はね、仕事の話じゃないのよ。……うーん、やっぱり仕事の話かな?」

 訳が分からなくて演技でなく首を傾げてしまった私に、どう切り出そうか迷っ
ていたマネージャーの次の一言は、実にこの人らしい単刀直入な言葉だった。

「あなた、コンビニで働くつもりはない?」
「…………は?」

 話によれば、マネージャーの自宅の近所の知り合いで、コンビニを創業しよ
うと言う人がいるらしい。その開店時のスタッフとして、この手の実務経験者
を探しているのだとかどうとか。

「三月さんなら、私は自信を持ってその人に薦められるのよ。棚出しやレジ打
ちだけじゃなくて、仕入れや棚卸しの方もわかってもらってるし、コンビニな
ら仕事の中身もほとんど同じだし、経験も長いし、三月さんに行ってもらえれ
ばその人もとても助かって、頼りにしてくれると思うの」

 まさか、まだ20代のしかもただのパートタイマーに、ヘッドハンティング
(?)の話が降ってくるとは夢にも思っていなかった。しかも、今の勤め先の
責任者から直々に。

「今のお給料と同じくらいは出してもらうように頼んでみるし、多分頑張れば
正社員みたいな待遇にしてもらうこともできると思うわ……どうかしら?」

 逆に、態の良い解雇のような気がしないでもなかったが、自分の仕事ぶりが
評価されていることが、たとえ方便だとしても嬉しかった。

 その時は考えておきますとだけ答えたが、その後直接紹介してもらって話を
聞いた結果、私は職場を移ることを決めた。
 2001年春、コンビニエンスストア「スラモン」開店。私は、その第1号パー
トタイマーとして、さらに店内作業の手順をひととおり任されて、店の起ち上
げに立ち会うことになった。


 本当は、望んでスーパーでパートタイマーをやっていたわけじゃなかった。

 おそらく、自分に一番合っている仕事の一つではあるのだろう。
 でも、その会社に勤めて、人生の幾ばくかでもその仕事に賭けようと言う気
には、正直なれなかった。自分にできることは他にあるような気がした。その
ために勉強もいろいろした。でも、やはり人生の幾ばくかを費やした結果、自
分が何かできるようになったかと言えば、そうは思えなかった。……今の自分
がその結果だとは、思いたくなかった。

 だから私は、パートタイマーであり続けたのだ。


 開店の慌ただしさも過ぎ、ようやく軌道に乗り始めて、約半年が経った秋。

 前に勤めていたあのスーパーの経営が、破綻した。
 もちろん、勤めていた店舗も、その影響から逃れられるはずもなかった。

 件のフロアマネージャーを含め、多くの元同僚達が、リストラの危機に直面
することになった。パート仲間も、おそらくはほとんどが辞めさせられること
になるだろう。店舗自体も、これからどうなるかわかったものじゃない。

 あの人は、予想していたのだろうか、こうなることを。

 私は、日々の稼ぎで糊口をしのいでいるパートタイマーに過ぎない。
 しかも、分不相応な夢を曖昧に追い続ける、夢見がちな小娘に過ぎない。
 それでも、こうして平穏に生きている。生きることが、できる。明日をも知
れぬ人々がそこかしこにいる、その裏で。
 生かされている。誰かに支えられて、ここに在る。

 今の勤め先からの帰り道。
 定休日のスーパーのシャッターに向かって、私はそっと頭を下げた。


 人生はまるで、波打つ水面のよう。
 ままならないけれど、悪いものでも、ないようだ。


時系列
------

2001年9月下旬


$$

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 以上、何か感想とかもらえると嬉しいです。
 彼女を動かす参考にもなります(笑)。


 ではでは。

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Takuji HOTTA ("Gombe") = 堀田 拓司 ("ごんべ")
E-mail  : gombe@gombe.org
SiteURL : http://gombe.org/
    

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