[KATARIBE 22318] [BM01N] 幻視

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 02 Sep 2001 17:21:04 +0900
From: Kakeru Aozora <kakeru@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 22318] [BM01N] 幻視
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <20010902171557.C424.KAKERU@trpg.net>
X-Mail-Count: 22318

 かけるんです。

[BM01N]幻視
===========

「うぅ。まだひりひりする」
 “月姫”ビアンカは頬をすすりながら王宮の渡り廊下を歩いていた。服はひ
らひらしたドレスではなく、紺のズボンに白いシャツだ。
 反対側から歩いてきた、盆を持っているメイドがビアンカを見て声をかける。
「おはようございます」
「おはよう、クレア」
「姫様。そーいう服を着ていると陛下が嘆かれますよ」
「気にしない。このほうが動きやすいし」
「もっと女性らしい服をお召しになったほうがよろしいかと。そのほうが殿方
に喜ばれますわよ」
「機会が会ったらそうします」
 話を打ち切って行こうとするビアンカに、クレアと呼ばれたメイドは背中に
向かって話を続ける。
「クライド様も喜ばれるのではないですか?」
 ビアンカは振り返り、顔をしかめて、首を振った。
「無駄です。なぜなら、このあいだの晩餐会で、父様に無理矢理胸元の開いた
服を着せられたのですが、クライドはおもしろくなさそうでした」
「それはきっと、他の殿方のためにそんなに美しい姿をしたので嫉妬していらっ
しゃるのですよ」
「そうですか」
「そうですわよ。ちゃんとアタックしないと、別の娘に取られちゃいますわよ」
「いあ、別にクライドはそういう対象じゃないんだけど」
「そうでございますか。それでは、遠慮せずに、私がクライド様と仲良くなっ
ても構いませんのね」
「駄目。クライドは私のものです」
「そうでしたら、逃げられないように捕まえておきませんとね。ずっと彼がア
ルファローズにいるとは限らないのですからね」

 王宮の外れにちいさな格納庫がある。ビアンカは中に入った。
 中には飛翼が一つある。通常のものとは違い、でかい筒に、左右に翼を一つ
ずつつけた形になる。ちょうど人が手を左右に伸ばしたように。翼の布は外さ
れ、クライドが引っ張り、飛翼のよこで並べられている。翼はは木製の骨格と
金と銀と鉄のワイヤーだけだ。船体の装甲も一部剥がされ、先頭にある飛空石
が露出している。
「あ、きたきた」
 元は白い……色々な染料が染み込んだ作業着を来た眼鏡の女性が声をかけた。
シルビアという名前の飛行艇技師だ。
 飛行艇技師とは船を飛ばす魔法を制御する仕事である。
 シルビアは手に持ってたコップを一飲みしてから、台の上に置いた。ポット
が一つとコップが別に2個置いてある。
 コップに紅茶を注いでビアンカに薦める。
「いただきます」
 クライドは一人黙々と布を引っ張り伸している。
「手伝わなくて良いのでしょうか?」
「いーのいーの。昨日たたき起こされた代償だから」
 クライドが、パンパンと埃を落とすように手を叩く。
「こっち終わったぞ」
「ああ、じゃぁ、はじめますか」

 翼に当る布は、青と白の2色で染められ、所々に、黄、緑、紫、赤がアクセ
ントのように塗られている。
「破損無し、ですね?」
「そうみたいね。よいしょっ」
 シルビアとクライドは布の端を持ち、えいやっと裏返した。
「問題ないみたいだな」
 飛船は空を飛ぶ。
 なぜかと言うと、翼持つ古代種と同じく、羽根をもっているからだ。塗られ
た色は精霊達の加護のしるし。
「船体はもうチェックしたから、あとは飛行石だけね」
 船体の先端部、装甲板が剥がされたところに、水晶でできた少女の像がある。
なにかに祈るように、ひざまずき頭を垂れ、羽根をもつ古代種の像。これが飛
行石だ。
 古代種はその命を終える時、体を透明で硬い石にするという。この石は古代
種の「空に戻りたい」という意志を持ち、空に浮くと言う。
 飛行石には金と銀の細い糸がいくつも結ばれている。それらは船体の各所に
つながっている。船体そのものが飛行石と同じく、宙に浮くためである。
 縛り付けられている。ビアンカの眼にはそう見える。
 ビアンカは金糸銀糸をかいくぐり、飛行石の頬にそっと手を触れる。
 チューナーと呼ばれる人が居る。幻視と言う形で同調することによって、飛
行石の能力を引き出す能力を持っている。自律して上昇するには常にチューナー
が幻視する必要がある。また、この飛船のように、ただ宙に浮かぶ場合でも、
定期的に幻視しないと能力が落ちるといわれている。
「昨日は、ありがとう」
 そういって目をつぶる。
 自分の羽で空を飛ぶ感覚。幻視の中で、浮遊大陸を見下ろして羽ばたいてい
る。風に包まれ、守られている。
 さらに下には海が見える。
 声をかけられたような気がして後ろを振り向くと、奇麗な顔の男の人が飛ん
でいる。兄なんだろうか恋人なんだろうか。
 彼の微笑みにうなずき、翼に力を込める。もっと高く空を目指して。
 ビアンカはため息を吐いた。飛行石が、冷たい感触を手に与えている。
「ねぇ、クライド」
 ビアンカは頬から手を放して振り向いた。
「この子は何を願っているんだろうね」
 ビアンカの左目からだけ、涙が流れていた。クライドは指でそっと拭った。


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-==-=-=-=-=-
蒼空かける                       kakeru@trpg.net

TRPG Scramble                    http://www.trpg.net/user/kakeru/
TRPGシステム セイエリス          http://www.trpg.net/cre/SeiEris/
オンラインサークル ブルーヘブン  http://www.trpg.net/online/BlueHeaven/

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage