[KATARIBE 22310] [BM01N] 月姫と月鈴

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Date: Fri, 31 Aug 2001 05:12:42 +0900
From: Kakeru Aozora <kakeru@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 22310] [BM01N] 月姫と月鈴
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <20010831050433.C318.KAKERU@trpg.net>
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 かけるんです。世界観の参考に、ブルームーンの小説なんか書いてみたり。

[BM01N]月姫と月鈴
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 青い月光のなか、飛空船サイレントミスト号は雲の上をゆっくり飛行してい
る。
「ふわぁう」
 甲板のうえで、見張りの兵士があくびをしたのを、帝国騎士アンスヘルムは
睨み付けた。
「気を抜くな」
「あ、はいっ。失礼しました」
「まだアルファローズ領空だ」
 アンスヘルムは下を見た。青く染まった雲海に、サイレントミスト号の影が
映っている。
「追ってきますかね」
「おそらく、それはあるまい。我々が離陸した時点で、他に飛行準備をしてい
る船はなかった。そして、わが帝国の船に敵う速度の船はあるまい」
「はい。確かに、そうであります」

 サイレントミスト号の船首にある艦橋には、後ろ手に縛られた美しい少女が
いた。
 名前を“月姫”ビアンカという。アルファローズ王国の王女だ。
 艦橋には六人座っている。それぞれ手元の道具をいじったりして、伝声管を
通して指示を出している。
 正面及び上部は水晶の板が填められていて外が見える。ビアンカは青い月を
見上げている。
「これが見納めになると思うからな。よかったら下でも見てみたらどうだ?」
 彼女の後ろに座っている、船長が揶揄するように声をかける。
「最も、下は雲だがな」
 そういって一人笑う。
「その必要はありません」
 ビアンカは正面を向いたままだ。
「クライドが助けに来てくれます」
「気にいらねえなぁ」
 船長はビアンカの肩を乱暴につかみ、自分のほうに振り向かせた。
 縛られて動けないビアンカの頬に平手を叩き込む。
「澄ました顔をしやがって。助けに来るだと。馬鹿言うんじゃない。辺境の船
が、このハルトヴィヒさまの船に追いつけるか」
「来るわ」
 ビアンカは頬を腫らし、唇の端から血を流しながらハルトヴィヒを睨み返す。

「アンスヘルム様っ」
 見張りが声をかけてくる。
「どうした?」
 雲海を指差す。
「そこ、なにかいます」
 雲をかき分けて、布の固定された2つの羽根を両脇にもつ、飛翼とよばれる飛
行物体が姿を現した。風防を開いて、でっかい筒のようなものをサイレントミ
スト号に向けている。
「敵襲っ」
 見張りが怒鳴る。
 どん、と音がして、黒い砲弾が飛んでくる。アンスヘルムは抜刀した。手持
ちできる程度の武器で装甲は抜けない。よって、砲弾に細工があるはずだ。
 上段に構えて全力で振り切る。剣圧は空気を経ち真空の刃となって砲弾に向
かった。
 砲弾に命中する。外枠が破壊され、中から符が散る。書かれていた文字が光っ
たと思うと、黒い煙を吐き出す。風にながれて後方へと飛んでいく。
 大砲が打ち込まれるが、小さい機体には当らない。飛翼はそのまま船首に向
かう。

「クライドは必ず来る」
 ビアンカの唇から血が流れている。ハルトヴィヒは気迫に押されて一歩下がっ
た。
「お、お前。この船で、俺に逆らうということがどういうことか解かっている
のか」
「黙りなさい。女ひとり暴力でしか支配できないとは」
「こっ。このぅ」
 ハルトヴィヒが平手を振りかぶった。ビアンカは奥歯をかみ締めて大きく目
を見開いている。その時。
『て、敵襲です。飛翼が一機』
 伝声管から大声が聞こえる。
 ハルトヴィヒは舌打ちをして手を下ろした。伝声管をつかむ。
「他に船は?」
『見当たりませんが』
「はぁ。よく探せ」
「遅いじゃないの」
 ビアンカにっこり笑った。
 サイレントミスト号に背を向けて、飛翼が正面を通過する。
「来るわよ。覚悟しておいたほうが良いわよ」
 飛翼から飛び降りた人影が落下してくる。剣を構えているようだ。
 中を向いてなにかわめいているようだが、聞こえない。ビアンカは船室の端
のほうに逃げる。風防に叩き付けられる寸前、剣を振り、風防を切る。
 甲高い音がして風防がこなごなに砕かれる。空中で1回転してバランスを取っ
て剣を持った男は艦橋に着地した。
「進入成功。“月鈴”ただいま参上、っと。首は痛いが」
 男は首を回した。
「遅いですよ。クライド」
 腕を縛られたまま駆け寄ってきたビアンカを見て。男は眉をひそめた。
「どうした、ここ」
 そういってビアンカの唇の傷をハンカチで拭く。
「んー。ちょっとね」
 といいつつ、突然の乱入に腰を抜かしているハルトヴィヒを横目で見る。
「……殴っとく?」
「弱者に上げる拳はなし」
「了解」
 クライドは周囲を見回した。風防だったもので機械はあらかた潰れている。
頭から肩から血を流しているものが何人か居る。
「とっとと逃げますか」
 ビアンカの腕を縛っていたロープを切る。
「うん。ありがと」
「さて、そろそろのはずなんですが」
 通路へ続く扉が開いた。同時に真空の刃が飛んでくる。
 クライドは剣で弾いた。
「挨拶無しでいきなり切ってきますか。帝国騎士が」
「何とでも言え」
 睨み合いになる。
「ちぃ。隙がねぇ。お荷物抱えてなきゃ喜ばしい状況なんだがなぁ」
「すまない」
「あ、いや。そういう意味じゃないんだ」
 クライドはポケットから一枚の符を出した。
「これなーんだ」
 符が光る。黒い煙が室内に充填される。煙くはない、ただ見えないだけだ。
「飛ぶぞビアンカっ」
 クライドはビアンカを抱きしめた。かがみ、そしてそのまま、どん、と床を
蹴り音だけ出す。
 風切り音が聞こえる。真空の刃がしゃがんでいるクライドの髪を数本切る。
「まぁこうくるよなぁ」
 そう言い、こんどこそビアンカといっしょに空中へと飛び出した。
 下に見えるは雲海。そしてその上を走る飛翼の影。相対的に静止している飛
翼の上に、クライドとビアンカは着地した。

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