[KATARIBE 22211] [HA06P]EP: 『守るべき者』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 19 Aug 2001 03:08:39 +0900
From: 夜月 天星 <nmhs@kun.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 22211] [HA06P]EP: 『守るべき者』
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <001601c12810$cfe71420$c11afcd2@eden>
X-Mail-Count: 22211

一哉、麗、雛。
全員わたしが作成したキャラです(笑)
とにもかくにも彼、彼女達にとってこれがはじめて出るEPです。

**********************************************************************
エピソード『守るべき者』
==========================

登場人物
--------
 
 弓月 一哉(ゆみづき・かずや) : 光速プログラマー。
 弓月 麗(ゆみづき・うらら)  : プログラムより生み出された少女。
 伏見 雛(ふしみ・ひな)    : 吐血舞姫。一応、プロダンサー。

"おとうしゃん"な朝
------------------
 
 麗      :「おきて、おとうしゃん!」
 
 一哉は目を擦りながら、上半身を布団から引き剥がした。
 
 一哉     :「ああ……」
 
 一哉は苦笑すると麗の頭に手を置く。
 
 一哉     :「ということは……もうすぐ仕事の時間か。ぱぱっと朝を
        :すませないと……麗も飲食不要とはいえ、これから人間の
        :ように生活するには味覚を学ばないといけないしな」
 麗      :「おとうしゃん、御飯できてるよ」
 一哉     :「はぁ?」
 
 そう言えば、さっきから部屋が煙で満ちているような気がしないでもない。
 
 一哉     :「……」
 
 テーブルの上には漆黒の物質が山のように皿に盛られていた。
 皿の横にあるマーガリンが不気味である。
 
 一哉     :「これは、なんだ?」
 麗      :「トースター……というものだよ、おとうしゃん」
 一哉     :「これはトースターとは言わない。炭だ」
 麗      :「……はぅ」
 一哉     :「俺が作るから座ってろ」
 
 一哉は麗を席につかせると台所に立つ。
 
 一哉     :「そういえば麗は和食と洋食はどっちが好きなんだ?」
 麗      :「ふぃ?」
 一哉     :「そうだよな……俺が設定して無いから悪いんだよな」
 麗      :「どっちでもいいー」
 一哉     :「なら、今日は和食にしよう。味噌汁は昨日のやつがある
        :から……」
 
 一哉はぱぱっと各種調味料を取り出すと、それをボールにいれ、5cmぐらい
に切ったほうれん草を入れ、混ぜながら胡麻を加えた。
 
 一哉     :「あまりいっぺんに多くは覚えられないだろうからな。今
        :日はこれだけだ」
 麗      :「わーい」
 一哉     :「これが御飯。わかってるよな?」
 麗      :「アジア圏のひとたちがおもにしゅしょくとするたべもの
        :だよっ」
 一哉     :「よし。……で、こっちがほうれん草の御浸しというもの
        :だ。そして最後にこれが味噌汁だ」
 麗      :「ミソー」
 一哉     :「味噌汁は熱いから気をつけて食べろよ」
 麗      :「はーい」

朝食が終わって
--------------
 
 一哉     :「じゃ、俺は仕事にいってくるから」
 麗      :「はいっ」
 一哉     :「いってきます」
 麗      :「いってらっしゃーい」
 
 一哉は家から出ると、鍵を閉める。
 
 一哉     :「やれやれ……ようやくこの生活にも慣れてきたな」
 雛      :「何に慣れたんですか?」
 一哉     :「!? ……なんだ、伏見か」
 雛      :「なんだとはなんですかぁ。あ、おはようございますぅ」
 
 雛はペコリと会釈した。
 
 一哉     :「あ、ああ。おはよう」
 
 一哉もそれに習う。
 
 雛      :「ところで最近大家さんが、"弓月さんのところ、住居者
        :が二人いるんじゃないの?"って言ってました」
 一哉     :「そうか……(あのジジイ……)」
 雛      :「そうなんですか?」
 一哉     :「そんなわけないだろ」
 雛      :「そうですよねぇ。弓月さんがまさか5歳ぐらいの女の子
        :と一緒にすんでいるわけ無いですよねー」
 
 一哉はその言葉に心臓が喉から飛び出すところだった。
 
 一哉     :「はっ、ははっ……じゃ、俺、今から仕事だから」
 
 一刻も早くこの場から逃れなければならない。
 一哉の頭の中はそのことで一杯になった。
 
 雛      :「あ、はい。いってらっしゃいですっ」
 
 その雛の顔を見て、麗と顔が少し似ていることに気づく一哉だった。
 
 一哉     :(そういえば、伏見って、いつ仕事をしてるんだ?)
 
 その疑問は小さいようで実は大きなことにも気づく一哉だった。

仕事
----
 
 一哉     :「やれやれ……やっと片付いた」
 
 一哉は今日のノルマを昼食前に片付け、背伸びを一つした。
 
 司      :「おつかれさん」
 
 彼は斎藤司(さいとう・つかさ)。一哉の同僚である。
 
 一哉     :「ま、楽勝だな」
 司      :「俺も終わったけどさ」
 
 一哉は司のほうのデスクを見る。
 するとそこには誰もいないことに気づいた。
 
 一哉     :「おい、一之瀬は?」
 司      :「今日はきてないな。あいつはメインじゃないからいいけ
        :どさ。問題は……」
 一哉     :「門田か」
 司      :「ああ、あいつがここの処理をどうするか決めないと進ま
        :ん」
 一哉     :「どうせ、二つに分割して近い奴を抜き出すんだろ」
 司      :「そうか? いっそのこと分割しないでやったほうが効率
        :よくないか?」
 一哉     :「まぁ、それで奴も悩んでいるんだろ?」
 司      :「そうだな」
 
 司はコーヒーを一哉に差し出す。
 
 司      :「とにかく休憩時間だ」
 一哉     :「悪いな」
 
 一哉はコーヒーを受け取ると口に一口含んだ。
 その時、突然パソコンが光った。
 
 一哉     :「あ?」
 麗      :「じゃーん☆」
 一哉     :(ぶっ!)
 
 突然画面に現れた麗に驚いた一哉はコーヒーを吐き出してしまった。
 
 麗      :「きたなぁーい(涙)」
 一哉     :「お、お前どうやって……」
 司      :「おい、一哉。誰かいるのか?」
 一哉     :「い、いやっ。誰もいないぞ」
 司      :「そうか?」
 
 一哉は司が自分のパソコンに目を落としたのを確認して、小声で喋る。
 
 一哉     :「なんで、ここにいるんだ」
 麗      :「うーんと……おとうしゃんに会いたいって思ってたら、
        :おうちのパソコンにすいこまれたの」
 一哉     :「ほう」
 麗      :「で、いまここにいるのー」
 一哉     :「便利な能力だな。元がデータだからか? まったく親は
        :いなくとも子は育つ、だな」
 麗      :「ふぃぃ?」
 一哉     :「まぁ、きてしまったものはしかたない。そこで小さくな
        :れるなら小さくなってくれ」
 麗      :「はーい」

あほんど
--------
 
 一哉     :「よしっ、今週の仕事はだいたい片付いたな」
 麗      :「ぱんぱかぱーん」
 一哉     :「それにしても……賑やかなデスクトップになったな」
 麗      :「?」
 一哉     :「黒一色だったのがな……ふっ」
 
 一哉は自嘲気味に小さく笑うとフロッピーディスクをパソコンにいれる。
 
 一哉     :「入れ」
 麗      :「はーいっ」
 一哉     :「……よし、これでいい」
 
 一哉は席を立つと、司の背後に行く。
 
 一哉     :「じゃ、俺、仕事終わったから帰る」
 司      :「おお。何かあったら電話するわ」
 一哉     :「ああ。じゃあな」
 
 一哉は仕事場を出ると、いつも行くあげはの方向に歩きださずに、自宅へと
向かった。

帰宅
----
 
 一哉は自宅につくと、麗の入ったフロッピーディスクをパソコンに入れる。
 その途端、ぱぁっとディスプレイが光り、麗が中から現れる。
 
 麗      :「ふぃ〜」
 一哉     :「さて、夕飯にするか」
 麗      :「ゆーはん?」
 一哉     :「ゆ、う、は、ん。一日の最後に食べる御飯のことだ」
 麗      :「さいごー」
 一哉     :「さて……作るか」
 
 一哉は台所に立って、20分ほどでいい匂いが部屋中に立ち込めだす。
 
 麗      :「おとうしゃん、これはなんなの?」
 一哉     :「とかげのから揚げ」
 麗      :「……ほんと?」
 
 麗の目が潤んでいる。
 
 一哉     :「御飯は残さず食べないとな」
 
 その時、麗は一哉の顔が悪魔のように見えたと言う。
 
 麗      :「いやぁー」
 一哉     :「嘘に決まってるだろ。今日はエビフライだ」
 麗      :「えびふりゃい?」
 一哉     :「ふりゃいじゃなくてフライ。えびの揚げ物だな」
 麗      :「えびー……おいしい?」
 一哉     :(ぐっ)
 
 一哉は何も言わず、ただ右手の親指を立てた。
 
 麗      :「おいしーんだ」
 一哉     :「多分な……よし、盛り付けて……できたぞ。ほら、席に
        :つけ」
 麗      :「いっただっきまーすっ」
 一哉     :「おいっ」
 
 一哉は苦笑すると自分も席につく。
 
 一哉     :「飲食不要のくせに……」
 麗      :(ぱくぱくもぐもぐ)
 一哉     :「……いただきます」
 
 一哉も箸を手に取ると、エビフライ(その他には御飯とオニオンスープがあ
る)を食べ始める。
 
 麗      :「おいしーよ、おとーしゃん」
 一哉     :「お褒めに預かり、光栄至極で御座います、お姫様」
 
 一哉は仰々しく右手で左手のわき腹をおさえながら会釈した。
 そして顔を上げウィンクを一つ。
 
 麗      :「だうー」
 一哉     :「吐くなっ。遊び心のわからんやつだな」
 麗      :「うぃー……きもーい」
 一哉     :「キモいって……エビフライ没収」
 麗      :「あぁぁ〜!? 嘘、嘘だよ〜」
 一哉     :「くっ……くっくっ」
 麗      ;「ふぃ?」
 一哉     :「ふ……くくっ、くくく……」
 
 それは笑いを堪えているように見えたが、麗はそれと違うような気がした。
 笑いを堪える人が――涙を、こんなにも流すはずはないから。
 
月光の元で眠れ父と子よ
----------------------

 その後、風呂に一哉が入り、就寝の時間となった。
 布団をかぶり、沈黙を守っていた麗が口を開いたのは午後11時ごろだった。
 
 麗      :「おとーしゃん。なんで……泣いてたの?」
 
 麗は遂に聞いた。
 
 一哉     :「……あの日のことを思い出してな。麗に似てたんだよ、
        :ある奴がな」
 
 部屋には月光が満ちている。
 
 一哉     :「そいつは特別な存在だった。結局、それで別れる事にな
        :るんだが……」
 麗      :「うぅ〜……」
 一哉     :「難しかったか? 簡単に言うと……そいつを俺は守れな
        :かった。それだけなんだ」
 麗      :「……」
 一哉     :「……う、麗……俺はお前をその、なんだ……」
 麗      :「……」
 一哉     :「ただのテストとかいってるが……本当はな……」
 麗      :「くー……すー……」
 一哉     :「ん?」
 
 麗の寝息は小さかった、本当に小さかった。
 
 一哉     :「はっ……何を言ってるんだろうな。俺は」
 
 一哉は、そっと布団から出ると窓から月を見上げる。
 
 一哉     :「……プログラムだろうが関係ない。守るべき存在である
        :ことには、な」
 
 一哉はカーテンを閉めると、布団にもぐり、目を瞑る。
 いい夢が見れそうだった。
 
**********************************************************************

なんというか。
一哉の過去に少しだけ触れたEPでした。
それでは。

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
一言:「力はあるだけじゃダメなんだよ」
NMHSこと、夜月天星
nmhs@kun.ne.jp
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage