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Date: Sun, 19 Aug 2001 03:08:39 +0900
From: 夜月 天星 <nmhs@kun.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 22211] [HA06P]EP: 『守るべき者』
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
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一哉、麗、雛。
全員わたしが作成したキャラです(笑)
とにもかくにも彼、彼女達にとってこれがはじめて出るEPです。
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エピソード『守るべき者』
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登場人物
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弓月 一哉(ゆみづき・かずや) : 光速プログラマー。
弓月 麗(ゆみづき・うらら) : プログラムより生み出された少女。
伏見 雛(ふしみ・ひな) : 吐血舞姫。一応、プロダンサー。
"おとうしゃん"な朝
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麗 :「おきて、おとうしゃん!」
一哉は目を擦りながら、上半身を布団から引き剥がした。
一哉 :「ああ……」
一哉は苦笑すると麗の頭に手を置く。
一哉 :「ということは……もうすぐ仕事の時間か。ぱぱっと朝を
:すませないと……麗も飲食不要とはいえ、これから人間の
:ように生活するには味覚を学ばないといけないしな」
麗 :「おとうしゃん、御飯できてるよ」
一哉 :「はぁ?」
そう言えば、さっきから部屋が煙で満ちているような気がしないでもない。
一哉 :「……」
テーブルの上には漆黒の物質が山のように皿に盛られていた。
皿の横にあるマーガリンが不気味である。
一哉 :「これは、なんだ?」
麗 :「トースター……というものだよ、おとうしゃん」
一哉 :「これはトースターとは言わない。炭だ」
麗 :「……はぅ」
一哉 :「俺が作るから座ってろ」
一哉は麗を席につかせると台所に立つ。
一哉 :「そういえば麗は和食と洋食はどっちが好きなんだ?」
麗 :「ふぃ?」
一哉 :「そうだよな……俺が設定して無いから悪いんだよな」
麗 :「どっちでもいいー」
一哉 :「なら、今日は和食にしよう。味噌汁は昨日のやつがある
:から……」
一哉はぱぱっと各種調味料を取り出すと、それをボールにいれ、5cmぐらい
に切ったほうれん草を入れ、混ぜながら胡麻を加えた。
一哉 :「あまりいっぺんに多くは覚えられないだろうからな。今
:日はこれだけだ」
麗 :「わーい」
一哉 :「これが御飯。わかってるよな?」
麗 :「アジア圏のひとたちがおもにしゅしょくとするたべもの
:だよっ」
一哉 :「よし。……で、こっちがほうれん草の御浸しというもの
:だ。そして最後にこれが味噌汁だ」
麗 :「ミソー」
一哉 :「味噌汁は熱いから気をつけて食べろよ」
麗 :「はーい」
朝食が終わって
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一哉 :「じゃ、俺は仕事にいってくるから」
麗 :「はいっ」
一哉 :「いってきます」
麗 :「いってらっしゃーい」
一哉は家から出ると、鍵を閉める。
一哉 :「やれやれ……ようやくこの生活にも慣れてきたな」
雛 :「何に慣れたんですか?」
一哉 :「!? ……なんだ、伏見か」
雛 :「なんだとはなんですかぁ。あ、おはようございますぅ」
雛はペコリと会釈した。
一哉 :「あ、ああ。おはよう」
一哉もそれに習う。
雛 :「ところで最近大家さんが、"弓月さんのところ、住居者
:が二人いるんじゃないの?"って言ってました」
一哉 :「そうか……(あのジジイ……)」
雛 :「そうなんですか?」
一哉 :「そんなわけないだろ」
雛 :「そうですよねぇ。弓月さんがまさか5歳ぐらいの女の子
:と一緒にすんでいるわけ無いですよねー」
一哉はその言葉に心臓が喉から飛び出すところだった。
一哉 :「はっ、ははっ……じゃ、俺、今から仕事だから」
一刻も早くこの場から逃れなければならない。
一哉の頭の中はそのことで一杯になった。
雛 :「あ、はい。いってらっしゃいですっ」
その雛の顔を見て、麗と顔が少し似ていることに気づく一哉だった。
一哉 :(そういえば、伏見って、いつ仕事をしてるんだ?)
その疑問は小さいようで実は大きなことにも気づく一哉だった。
仕事
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一哉 :「やれやれ……やっと片付いた」
一哉は今日のノルマを昼食前に片付け、背伸びを一つした。
司 :「おつかれさん」
彼は斎藤司(さいとう・つかさ)。一哉の同僚である。
一哉 :「ま、楽勝だな」
司 :「俺も終わったけどさ」
一哉は司のほうのデスクを見る。
するとそこには誰もいないことに気づいた。
一哉 :「おい、一之瀬は?」
司 :「今日はきてないな。あいつはメインじゃないからいいけ
:どさ。問題は……」
一哉 :「門田か」
司 :「ああ、あいつがここの処理をどうするか決めないと進ま
:ん」
一哉 :「どうせ、二つに分割して近い奴を抜き出すんだろ」
司 :「そうか? いっそのこと分割しないでやったほうが効率
:よくないか?」
一哉 :「まぁ、それで奴も悩んでいるんだろ?」
司 :「そうだな」
司はコーヒーを一哉に差し出す。
司 :「とにかく休憩時間だ」
一哉 :「悪いな」
一哉はコーヒーを受け取ると口に一口含んだ。
その時、突然パソコンが光った。
一哉 :「あ?」
麗 :「じゃーん☆」
一哉 :(ぶっ!)
突然画面に現れた麗に驚いた一哉はコーヒーを吐き出してしまった。
麗 :「きたなぁーい(涙)」
一哉 :「お、お前どうやって……」
司 :「おい、一哉。誰かいるのか?」
一哉 :「い、いやっ。誰もいないぞ」
司 :「そうか?」
一哉は司が自分のパソコンに目を落としたのを確認して、小声で喋る。
一哉 :「なんで、ここにいるんだ」
麗 :「うーんと……おとうしゃんに会いたいって思ってたら、
:おうちのパソコンにすいこまれたの」
一哉 :「ほう」
麗 :「で、いまここにいるのー」
一哉 :「便利な能力だな。元がデータだからか? まったく親は
:いなくとも子は育つ、だな」
麗 :「ふぃぃ?」
一哉 :「まぁ、きてしまったものはしかたない。そこで小さくな
:れるなら小さくなってくれ」
麗 :「はーい」
あほんど
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一哉 :「よしっ、今週の仕事はだいたい片付いたな」
麗 :「ぱんぱかぱーん」
一哉 :「それにしても……賑やかなデスクトップになったな」
麗 :「?」
一哉 :「黒一色だったのがな……ふっ」
一哉は自嘲気味に小さく笑うとフロッピーディスクをパソコンにいれる。
一哉 :「入れ」
麗 :「はーいっ」
一哉 :「……よし、これでいい」
一哉は席を立つと、司の背後に行く。
一哉 :「じゃ、俺、仕事終わったから帰る」
司 :「おお。何かあったら電話するわ」
一哉 :「ああ。じゃあな」
一哉は仕事場を出ると、いつも行くあげはの方向に歩きださずに、自宅へと
向かった。
帰宅
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一哉は自宅につくと、麗の入ったフロッピーディスクをパソコンに入れる。
その途端、ぱぁっとディスプレイが光り、麗が中から現れる。
麗 :「ふぃ〜」
一哉 :「さて、夕飯にするか」
麗 :「ゆーはん?」
一哉 :「ゆ、う、は、ん。一日の最後に食べる御飯のことだ」
麗 :「さいごー」
一哉 :「さて……作るか」
一哉は台所に立って、20分ほどでいい匂いが部屋中に立ち込めだす。
麗 :「おとうしゃん、これはなんなの?」
一哉 :「とかげのから揚げ」
麗 :「……ほんと?」
麗の目が潤んでいる。
一哉 :「御飯は残さず食べないとな」
その時、麗は一哉の顔が悪魔のように見えたと言う。
麗 :「いやぁー」
一哉 :「嘘に決まってるだろ。今日はエビフライだ」
麗 :「えびふりゃい?」
一哉 :「ふりゃいじゃなくてフライ。えびの揚げ物だな」
麗 :「えびー……おいしい?」
一哉 :(ぐっ)
一哉は何も言わず、ただ右手の親指を立てた。
麗 :「おいしーんだ」
一哉 :「多分な……よし、盛り付けて……できたぞ。ほら、席に
:つけ」
麗 :「いっただっきまーすっ」
一哉 :「おいっ」
一哉は苦笑すると自分も席につく。
一哉 :「飲食不要のくせに……」
麗 :(ぱくぱくもぐもぐ)
一哉 :「……いただきます」
一哉も箸を手に取ると、エビフライ(その他には御飯とオニオンスープがあ
る)を食べ始める。
麗 :「おいしーよ、おとーしゃん」
一哉 :「お褒めに預かり、光栄至極で御座います、お姫様」
一哉は仰々しく右手で左手のわき腹をおさえながら会釈した。
そして顔を上げウィンクを一つ。
麗 :「だうー」
一哉 :「吐くなっ。遊び心のわからんやつだな」
麗 :「うぃー……きもーい」
一哉 :「キモいって……エビフライ没収」
麗 :「あぁぁ〜!? 嘘、嘘だよ〜」
一哉 :「くっ……くっくっ」
麗 ;「ふぃ?」
一哉 :「ふ……くくっ、くくく……」
それは笑いを堪えているように見えたが、麗はそれと違うような気がした。
笑いを堪える人が――涙を、こんなにも流すはずはないから。
月光の元で眠れ父と子よ
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その後、風呂に一哉が入り、就寝の時間となった。
布団をかぶり、沈黙を守っていた麗が口を開いたのは午後11時ごろだった。
麗 :「おとーしゃん。なんで……泣いてたの?」
麗は遂に聞いた。
一哉 :「……あの日のことを思い出してな。麗に似てたんだよ、
:ある奴がな」
部屋には月光が満ちている。
一哉 :「そいつは特別な存在だった。結局、それで別れる事にな
:るんだが……」
麗 :「うぅ〜……」
一哉 :「難しかったか? 簡単に言うと……そいつを俺は守れな
:かった。それだけなんだ」
麗 :「……」
一哉 :「……う、麗……俺はお前をその、なんだ……」
麗 :「……」
一哉 :「ただのテストとかいってるが……本当はな……」
麗 :「くー……すー……」
一哉 :「ん?」
麗の寝息は小さかった、本当に小さかった。
一哉 :「はっ……何を言ってるんだろうな。俺は」
一哉は、そっと布団から出ると窓から月を見上げる。
一哉 :「……プログラムだろうが関係ない。守るべき存在である
:ことには、な」
一哉はカーテンを閉めると、布団にもぐり、目を瞑る。
いい夢が見れそうだった。
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なんというか。
一哉の過去に少しだけ触れたEPでした。
それでは。
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一言:「力はあるだけじゃダメなんだよ」
NMHSこと、夜月天星
nmhs@kun.ne.jp
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