[KATARIBE 22197] [HA06N] 『時葉月 想亡君』

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Date: Fri, 17 Aug 2001 00:11:37 +0900 (JST)
From: 真琴  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 22197] [HA06N] 『時葉月 想亡君』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200108161511.AAA71247@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 22197

2001年08月17日:00時11分36秒
Sub:[HA06N]『時葉月 想亡君』:
From:真琴


真琴%頭の中で叫ぶから。

つうわけで誠君が叫ぶので、さらっと小説にしてみました。
ろんりーずぶらっくの過去のトラウマ編。

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『時葉月 想亡君』
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 遊野 誠(あすの まこと)
     :便利屋稼業の遊び人。願望使い。

本編
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  時間なんてものは、こっちがどう思おうとかってに過ぎていくもんなわけで。
  こっちがなにを望んでいるかなんて関係ないんだよな、結局。

 貧乏暇無しとは本当に故人はよく言ったものだ。
 一見、年中遊んでるように見える便利屋稼業だが、実のところ手帳が真っ黒に埋まる程度には仕事は来る。遊び人一人、糊口を凌ぐには十分すぎるくらいだ。
 それでも、手帳の白い日というのは存在する。たとえば、偶然何の仕事も入らない日。前日が徹夜仕事で休みたい日。急なキャンセルの入った日。
 ……あるいは、誰にも邪魔されたくない、日。

  今日が、そんな日だった。

 八月の山中というのは、思っているよりも涼しい。毎年のこととは言え、数分間は空気に体が馴染んでくれない。拒絶されている気すら、する。
「……んなわきゃない、と思いたいけどね」
 ぽつりと呟きつつ、ただ黙々と山を登る。
 いつもの服でなく、今日だけ着る昔の服。鞄の中には酒。
 大事な商売道具の携帯電話は、二本とも電源を切って部屋に放り出してきた。此処に来る時に、些末時に煩わされたくはない。
 この日に、余計な雑音はいらない。自分を苛む音は。

 獣道を一時間も歩いただろうか、ようやく見覚えのある山門が見えてくる。古びた、というには荒れ過ぎたそれは、それでもまだかろうじて荘厳さを保ちつづけている。
 寒気すら感じるその雰囲気の中を抜け、荒れ寺の裏手へと足を進める。
 手入れをする者もいないらしいこの寺の裏手に、目的の場所は、ある。

  あのひとの、墓が。

 雑草が好き勝手に生い茂り、墓石を半ば覆っている墓地の中を、迷うこともなく進む。
 墓地のはずれ、他の墓からはすこし離れたところに、ぽつん、と、その墓はある。

  名も刻まれぬ、無縁仏の中に、彼女は眠っている。

 雑草を刈り、墓を掃き、四隅に清めを撒く。一年分の時間を、綺麗に片付けていく。日が地平線の彼方に消えるころになって、ようやく少しばかりの体裁が整う。
 ふ、と息を吐き、傍らに置いてあった鞄からボトルを取り出す。
 96年物のマルゴーなどという、墓参りにはどうみてもふさわしくないそれの栓を切り、墓石に盛大に流し掛ける。あっという間に中身が半分方なくなったボトルから、ワインを一口、口の中に流し込んで。
 俺は、ぺたん、と腰を下ろした。
「……ひさしぶり」
 墓の向こう側に『居る』彼女に、一年ぶりの挨拶を交わす。
「あれから五年も経つんだねぇ。結局、俺は何にも進めてないけどさ」
 ボトルからまた一口酒を呷る。
「『そっち』は住みやすいのかな?こっちは住みずらくてしょうがないのだけど」
 もう一口、呷る。
「あの時さ、なんで俺には力がなかったんだろうって、ずっと考えててね」
 もう一口。
「いまだったらどうにかなってるかもしれないってのに……」
 一気に、ボトルの残りを飲み干す。
「……後悔役立たず。杖は転ばなきゃ手にしない、ってことだよなぁ」
 鞄から新しいボトルを取り出して。
「あの時、『これ』が使えてたら……」
 半分ほど一気に飲み干して、
 目を閉じて、少し呟く。

  ぱちん、という、頭の中で何かが焼き切れる音と。
  一気に襲い掛かる酔いとともに。

  彼女の姿が、目の前に浮かんでいる。

「……ま、きっと、君がいなくなった代わりに身につけたってことなんだろうけど」
 急速に流れていく視界の中、
「……いらないから、生きててほしかったよなぁ……」
 呟きとともに、目の前に闇が降りた。

 目が覚めたら、すっかり夜も暮れていた。
 頭が割れるように痛い。いつもの、力の反動のせいだ。
 当然、彼女の姿はない。俺の『願望』だったのだから。
「さってーと。また来年くるわ。のんびりまっててな」
 立ち上がり、供え物を置いてゆっくり歩き出す。
 頬を伝った雫を指先で払って、
「あげはでもにぎやかして帰るかねぇ……」
 いつもの調子で一人ごちて、山を降りていく。

  その視界の隅で、彼女が手を振ったような、そんな気がした。

時系列
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 2001年8月。どこかの廃寺にて。

解説
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 昔の彼女の墓参り、死なせてしまったことへの後悔。

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まぁ、人生いろいろあるってことで。
ではでは。





    

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