[KATARIBE 21804] [HA06P]EP: 『女という名の魔』

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Date: Fri, 1 Jun 2001 13:42:46 +0900 (JST)
From: Hisashi <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 21804] [HA06P]EP: 『女という名の魔』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200106010442.NAA19511@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 21804

2001年06月01日:13時42分45秒
Sub:[HA06P]EP:『女という名の魔』:
From:Hisashi


 久志@ふんにゃかふんにゃか です。
なんか前に書いたままほったらかしてたお話発掘しました。
よどみーこと幸久兄の話です。

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『女という名の魔』
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :本宮和久の兄、葬儀社勤務。妙に霊感のある軟派にーちゃん。
 辻美絵子(つじ・みえこ) 
     :幸久の元彼女、らしい。婚約者有

友引の日は
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 女とは魔である。
 中世暗黒期、魔女狩りや異教徒弾圧が横行した時代。敬遠なるキリスト教徒
の誰かさんがのべた言葉らしい。真偽はともかく、信心深き方々の恐れを知ら
ぬ言葉には敬服する。
 賛同するかは微妙だが。


「ゼルダ・フィッツジェラルドって知ってる?」
「知らん」

 友引、まあ今時のカレンダーではあまりお目にかかれない。んで、手帳の日
付のスミに手書きでチェックを入れている。まあ、最近は縁起だの大安だのに
うるさく言う奴は少なくなってきているが、それでもやはり好き好んで友引に
葬儀をあげようという奴はあまりいない。いつ仕事がはいるかわからねえ職業
だが、一応予定を立てられる日ではある。

「じゃあさ、フィッツジェラルドは?小説家なんだけど」
「グレート・ギャッツビーの作者だっけか?」
「そそそ、あたし個人的には邦題の華麗なるギャッツビーの方が好きだなぁ」
「……知るかよ」

 その、めったにねえオフの日になんでこやつに呼び出されにゃならんのだ。
ま、当の本人は至って上機嫌のようだけどな。

「そのフィッツジェラルドがどーしたっつーんだよ」
「うん、そのゼルダってひとはフィッツジェラルドの奥さんでね、昔に読んだ
『世界悪女列伝』ってのに出てたのよ」
「ってことは、それはそれはすげえ悪女だったのか?」
「んーそれがね、そうでもないように思うのよ」
「……どーいう話なんだよ」

 なんつうか、こう、前後脈絡のない話に付合う為にわざわざ休みをつぶされ
てんのか、俺は。というよりむしろオマエのが悪女なんじゃねえか。

「うん、その昔さ、彼女がフィッツジェラルドと付き合ってた頃って、いわゆ
るファッションリーダーみたいな感じだったのよ。派手な服着たり、ボーイフ
レンドと遊んだり、タバコ吸ったり、その当時じゃ考えられないような、ね」
「ああ」
「革新的っていうのかな、いままでの古い教えを捨てて、夫に尽くすだけのつ
まらない一生を送りたくないっていうような、そんな雰囲気があったの。でさ、
その頃は夫の執筆で稼いだお金で遊んだり、本人も若くて才もあったみたいで、
進んだ生活を楽しんでいたんだけど、結婚してしばらく経ってからは変わって
くるのよ」
「そりゃあ、そうだろな」
「子供が生まれて、育てて。夫の稼ぎもだんだん思わしくなくなってくるの、
とうとう夫は他の若い子と浮気をして、それを責められた夫がこう言うのよ
『彼女は若くても一人で立派に稼いでいるんだぜ』って。その頃にはね、すっ
かり自分が一番嫌っていたただのつまらない主婦になってることに気づくのよ」
「……」
「それからね、彼女は自分で身を立てようとした。昔に慣らしたバレエをもう
一度必死にレッスンしてみたり、ね。けどダメだった、ただ年はすぎてくばか
りで、夫は助けてくれない。ついには精神を病んで入院してしまうの、そして
立ち直れることなく死んだの」
「……悪女、なのか?それは」
「うーん、細かくは憶えてないんだけどね。結構作者の主観とか入ってたかも
しれないし、読んだのがずいぶん前だから、あたしも美化して読んでるのかも
しれない。けど、なんか印象に残ったのよ」
「……要するに、つまねえ女になりたくないってやつか。オマエの場合は」
「そそそ、なんかね一見無謀に思えても、自分が置いてかれてるって思っても
めげないで前向きに自分で稼いでいけるようになってやるっ!っていうような
気持ち、なんかわからなくもないなあって」
「へえへえ。まあ、そういう無駄に前向きってのはお前も近いかもな」
「いいじゃない、後ろ向きよりは」

 一本、タバコを灰皿にねじ込む。

「で、あっちのほうは決まったん?」
「ん、まあね」

 二本目のタバコに火をつける。

「今度ね、むこうに挨拶いくの。色々めんどくさい準備あるしね」
「めんどくさいってな……お前、晴れ舞台だろがよ」
「あたし別に式やんなくてもいいんだけどね、晴れ舞台は葬式だけでいいじゃ
ない」
「……別に晴れ舞台でもなんでもねえぞ、葬式なんざ」

 まーいつものアレ、というか女によくありがちな愚痴とも雑談ともつかない
しゃべることだけが目的ってヤツだ。別にこの女に限ったことでもないし俺も
だらだらとしゃべくるのは言うほど嫌いでもねえし。
 それにコイツの話はなんというか、脈絡もなくてぶっとんでる割に、たまに
的を射てる所もあってなんとなく気に入ってる。

「ねぇ、ユキ」
「なんだよ」
「あたし、行っちゃったら寂しい?」
「あのな……」

 男にんなこと聞くか、フツー。

「あ、心配してるなその顔」
「……ふざけんな」
「あはは、ごめんごめん」

 前言撤回。この女気に入る言葉と気に入らん言葉の落差がありすぎる。

「あ、もうそろそろ行かなきゃ。つきあわせちゃってゴメンね」
「へえへえ」
「ありがと、ユキ」
「ああ」

 伝票をつかんで席を立つ。

 女とは魔である。
 痛感はしねえけど、なんとなく理解はできる。
 正当な意味じゃねえけど。

解説
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 女って魔だなあと感じ入る幸久であった。

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いじょ

なんだか損な役どころだねえ。


    

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