[KATARIBE 21302] [WP01N] 『壊色連続』

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Date: Thu, 15 Feb 2001 23:08:41 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 21302] [WP01N] 『壊色連続』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200102151408.XAA70613@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 21302

2001年02月15日:23時08分41秒
Sub:[WP01N]『壊色連続』:
From:E.R


こんにちは、E.R@きまぐれ野郎 です。
ふっと、こういう季節に、こういう話。
……ある意味、とんでもなく厭味(^^;;

そーらゆけ譲っ(爆)

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壊色連続
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登場人物
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 青天目 譲(なばため・ゆずる):エンパシストの狩人。永遠の受験生。

本文
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 歩く。
 ただ歩く。
 
 茫々と、風の音。
 

 緑がやっぱり少ないな、と、譲は思う。
 試験。そしてその下見。
 歩く度に、思う。こちこちと並ぶ壁と窓。それが途絶えることが無い。
 何となく、風がどこかで吹き止められるような気がする。

 自分が歩く道のりの二割程度は迷うことと道を見つけることに使っている自
覚はある。だからこそ必ず一度は下見をしなければ不安なのだけれども。
「あんたの場合、笑い話にならないもんね」
 そこら辺をよく知っている叔母は、そう言って笑う。構わないから家に泊まっ
て、よく試験会場までの道を調べておくように……と。
「試験に受かるほうは、案外あたしはあんたを信用しているんだけど、試験会
場にたどりつかない可能性もあるわけだしね」
 痛いところを突かれている自覚はあるから、譲としては笑うしかない。

 もより駅。そして会場の確認。
 ひりひりするほど明るい日差しと、まだ緩むことの無い冷気。
 明日の試験に備えてか、やはり数人の学生が厚手のコートに身を包み、白茶
けた道をぽくぽくと踏んで歩いている。

 風が一筋流れる。

 同時に流れ込む、様々な色合いの流れ。
 それは不安であり、時には恐慌であり、時には深く落ち込んだものだったり
するけれども。
 (似通ってる。どれもこれも)
 その不安、その恐怖に流されかける感情を一度矯めて、そして静める。確か
に強力ではあるが、しかしそれは自分を圧倒する程の質を持たない。
 明日に試験本番を控えた受験生達の、それはある意味、ごく普通の感情。
 (普通の感情、か)
 そして一瞬閃く、自己嫌悪。
 これはあくまでも、自身の感情として。


 感情を見るという能力の一番の弊害は、そういうことじゃないかな、と、譲
は思う。
 例えば不安。例えば嫌悪。例えば怒り。
 感じている本人にしてみれば唯一無二の感情なのだが、彼の目にはそれが大
差無いものに映るのだ。
 (誰も彼も、同じ感情を抱え)
 (それを唯一無二の悲しみであり苦悩であると思う)
 私の気持ちなんかわかるものか、という捨て台詞が通用しない青年は、しか
し同時に、わかったところでどうしようもないことをも学んでしまっている。
 (冷酷)
 わかるからといって、介入が正しいものであるわけでもない、と。
 (同情なんて、既にもう不可能で)
 何の役にも立たない、と。


 『自己嫌悪というのは、辛かろう』
  それは、祖母の声。
 『恥をかくのも辛かろう。傷つくのも辛かろう……で?』
 『……』
 『それを、お前が自分で消すことも……出来るだろうけどね』
  りん、と、真正面から振り下ろす刀のように。
 『辛さから、そんな手で逃げるのならば、お前も下の下だ』


 不安、恐慌、自己嫌悪、自己不信。
 それらの感情は、勿論のこと負の方向にあるものだけれども。
 ……けれども、今、こうやって集まっている受験生達からその感情を抜いて
しまったとしたら。
 
 彼らは数年後に、崩壊しないだろうか?
 彼らがもっと過酷な選択肢に、これ以降出会った時に……


 (あ)


 ふと。
 笑いがこみ上げた。
  
 (先に、進めないんだっけ、もしかしたら)

 実感だけが欠け落ちた知識。
 一度、信じたことを知っている過去。
 それは仕方の無いことだから、と、風音は伝えてきた。
 (東京ニ、アナタガ来ナイト困リマス)
 (ダカラ、今ハ受験ノコトダケ考エテ)
 1999年がループしつづけている、という、その知識。
 それが本当であるならば、彼等は……否、自分自身は、幾度でも幾度でも、
この受験前の臓腑が黒くえぐれるような恐怖を味わうのだろうか。
 そうと知らぬ間に。
 そうと、知ることも出来ぬ間に。


 『二十年後を考えてから、介入するならばしなさい』
  それは、祖母の言葉。
  介入が、不可能でない孫に対する……


 命題:
 時が一年のループで回っています。
 これは、自分が強くなるには最適な条件ではありませんか?

 ……莫迦げた、自問。


 爪でしごいたような鋭い風が、流れた。
 ふと気がつくと、片目の端から、涙がこぼれていた。
 やはりひりひりするような……寒さ。

 譲は、うっすらと笑った。

 (たとえ、時が流れなくても)
 (たとえ、時がまた元の通りに流れ出しても)
 自分は、この鋭いような寒さとかなしさを、憶えているのだろうか。

 (時が、自ずから止まっているのだとすれば)
 (それを再び流すことは、正しいことだろうか)
 自問自答。自嘲を刻む口元を、片手で軽く覆って隠しながら。
 (正しいなんて)
 (誰にも分かりはしないのに)

 たとえ時が先に流れてゆかないとしても、ここで止まるとしても、自分の目
に映るものは、大して変わらないだろうな、と、譲は思っている。
 人の価値観なぞ、たかが数日で変わる。
 その介入を、お節介といって振り払うか、ありがたいことと感激するか。
 そんなもの。
 (どうせ数ヶ月で変わる)
 (一年なんて、必要ない話で)
 そして、時間のループを知る人々がいて、自分はそれを覚えている。
 世界は……だから、確かに揺れているのだ。
 
 時が止まっていることは、良いことなのか、悪いことなのか?

 (人の評価なんか)
 (どうせころころと変わる。何が良いか悪いかなんて)
 (本人だってわかっていやしない)

 それを……そのように、既にして知ってしまっていることが不運である、と。
 そして、そのように判断すること自体が。

 (だから、年寄りじみてるって言われるんだろうな)
 
 けれども。

「あ、すみません」
「はい?」
 振りかえると、やはりどこか不安そうな学生が、地図を片手に立っている。
「試験会場の建物は、この正面ですか?」
「え、いえ、右の2階か1階らしいです」
「入れない……んですよね?」
「ええ、今日は入れません」

 けれども。

「有難うございます」
「……いえ」

 ぴりぴりと鋭さを増す氷青色の細い針。
 緊張。
 それを無意識のうちに散らしている自分がいる。

 風に乗り、細く細く流れる鋭い青の…………


「じゃ」
 口の中で呟いて、譲はその場を離れた。やはり小さな声で、ども、と、返る
挨拶を微かに意識野に留めながら。

 時は、巡っているのかもしれない。
 時は、流れているのかもしれない。
 けれども全く、それは自分に関係がない。
 少なくとも……今日、この日には。

 明日が試験。



時系列
------
 3回目の1999年の3月。


解説
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 永遠の受験生、こと青天目譲の受験日の前の風景。
 住人と関わることで、去年「東京にいた」記憶のある譲にすれば、ある意味
既に期待されてしまっている未来を実現せねばならないことは、それなりに、
きついことだろうな、と。

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 ちうわけで。

 がんばれー(苦笑)>おおる

 であであ。


    

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