[KATARIBE 21268] [HA06P] 『前髪』

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Date: Tue, 6 Feb 2001 17:00:11 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 21268] [HA06P] 『前髪』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200102060800.RAA49672@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 21268

2001年02月06日:17時00分11秒
Sub:[HA06P]『前髪』:
From:久志


 久志です。
すっかりMLをサボり倒してる今日この頃。
というわけでリハビリ兼ねて葬儀屋幸にーちゃんの話一本。

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『前髪』
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :本宮和久の兄、葬儀社勤務。妙に霊感のある軟派にーちゃん。

独り言
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 どうにも厄介なもんってのは、やっぱりあるわけで。
 その最たる奴がモノゴトがわかってねえガキってわけだ。

 よくのびる坊主の声が響いている。ついさっき読経が始まったばかり、弔問
の客もまだ増えるがしばらく挨拶や焼香で行き来が多くなる。隣室での宴席も
間近なことだし、厄介なことは今のうちにカタしておきてえもんだ。

「こんなところでどうしたのかな?」
「ママは?」

 ちょっと大きめの喪服、頬にかかるくらいのおかっぱに、きりりとまっすぐ
に揃った前髪。そのせいかガキのくせにやたら迫力があるように見える。

「ママはちょっとお出かけしてるんだよ」
「どこへ?」

 ぱん、と跳ね返すような声に一瞬返事に詰まった。
 全然馴れてないワケじゃねえけど、やっぱりどうにもこういう手合いは相手
にしづらい。

「ねえ、ママどこ?」
「こっちへおいで、迷子になっちゃうから」
「イヤ」

 取りつくシマもねえ。まあ、俺もお世辞にもガキウケするタイプじゃねえの
はわかってるんだが。

「ママとお家帰るの」
「ごめんね、ママはちょっとご用事があるから」
「イヤ!」

 喪服のスカートの裾をキツく握り締め、眉を吊り上げてにらんでくる。

 参った。

 こういう手合いが一番手に負えねえ。確かにやりきれねえ気持ちは確かにあ
る、けど、俺の立場上ここでこの子を放っておくわけにゃいかねえ。

「ほら、あっちでおばあちゃん達が待ってるから、後で一緒にママをお迎えに
いこう、ね?」
「イヤ」
「すぐ来てくれるから」
「……イヤっ」

 ふるふるとおかっぱ髪が左右に揺れる、テコでも動かねえ気合だ。

「……仕方ねえ、か」

 気持ちはわからなくもない。
 迎えはすぐそこまできてる。後はそれを受け入れてもらえるか、だ。

 ふわりと傍に気配を感じた。

「ちぃちゃん、こんなところにいたのね」
「おばあちゃん!」

 石のように動かなかったガキが転がり込むように喪服の婆さんの懐に飛び
ついた。

「お迎えの方ですね」
「ええ。すいません孫がご迷惑を」
「いえ、こちらこそお連れするのが遅れてすいません」

 まるで重さも感じないように軽々とガキを抱き上げて、ひとつ頭を下げた。

「では、後のことよろしくお願いします」
「はい、ご安心を」


 そのまま、影に溶けるように二人とも姿を消した。


 時計を見る。そろそろ焼香が始まる頃だ。
 親族の挨拶を済ませ次第、宴席の案内をしないといけねえ。

 まだ読経が響く斎場。

 親族席でやつれきった女が抱きかかえた写真。
 遠く、白い花に囲まれた仏壇の上に飾られた写真。

 きりりと切りそろえた前髪が、少し目に痛え。

解説
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 葬儀の最中で子供を見かけた幸久、その子は……
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いじょ

 ちょっと暗いかの


    

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