[KATARIBE 21175] [HA06N] 『福とぶつかって……』

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Date: Wed, 03 Jan 2001 22:56:05 +0900
From: "Hikaru.Y" <kara@grn.mmtr.or.jp>
Subject: [KATARIBE 21175] [HA06N] 『福とぶつかって……』
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 こんばんは。月夜龍神丸@沈没潜水艦浮上作戦遂行? です。
 今年『こそ』は頑張ってみようという夢を抱きつつリハビリがてら小説を。

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小説『福とぶつかって……』
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 北風が一つ、吹いた。
 目を細めて少し仰け反る。
「寒い……」
 そんなことは分かり切っているのだが、言ってみた。
 それにしてもやっぱり寒い。コートのポケットに入れている手は一向に暖ま
る気配を見せないでいる。
 ポケットから手を出して右手で左腕を、左手で右腕を掴む。
 掴んだ手はほのかに温かく、掴まれた腕はひんやりと冷たい。
 まるで妙な中国人だな、と自分の格好を見て思う。
 背中を丸めて下向き気味に足を進める。外を出歩く人はやはり少ない。

 ゴツン。

 何かにぶつかる。
 まさか電信柱ではあるまい。もしそうだったらお笑いだ。
 頭を上げると目の前で子供が痛そうに頭を抱えていた……宙に浮かんで。
 その子はダボダボの着物みたいなものを着て、自分と同じ大きさくらいの袋
を左手に持っている。腰には何やら金色の小槌がさしてあった。そう、まるで
大黒様を小さくしたような子だった。
「大丈夫か?」
 声をかけてみる。
 頭をさすりながらその子は頷いた。頷いてから、動きを止める。そして勢い
よくこちらを向いた。
「おじさん、僕が見えるの?」
 しばし沈黙。
 ため息一つ。
「見えるから声をかけたんやけども」
 彼はまじまじとこちらを見つめた。
「おじさん……普通の人間?」
「生物学的にはどうもそうらしいな」
「どうして見えるの?」
 そこにアンタがいるから、と答えたくなったが、たぶんこの子は意味が分か
らないだろう。だから言わないでおく。
「そんなことより、気をつけよ。いや、ワシも気をつけなあかんけども」
 その子が頷く。
「んじゃ」
 軽く手を挙げてから、その子の脇を通り過ぎていこうとする。
「ちょっと待って!」
 いきなり、コートのフードを引っ張られた。首が絞まる。
 少し咳き込んで振り返った。
「……アンタ、鬼」
「いや、僕は鬼じゃなくて福の神なんだけど」
 いいボケだ。
 そういう意味で言ったんじゃないんだが。
「んで、何か用?」
 その子は少しもじもじした後、顔を上げた。
「竹原泰之という人の家を探しているんだけども……」
「だけども?」
「知らない?」
「知らない」
 ガクン、と彼は体全体で失望を表した。
 落とした肩が小刻みに震えてくる。
 ……やばい。はっきり言ってやばい。どれくらいやばいのかというと、地頭
に勝てないくらいやばい。
「分かった分かった。一緒に探してやるから、な?」
「本当?」
「本当」
 やれやれ。
「大体の場所は分かってるん?」
「うん。確かこのあたりのはずなんだけども」
 さっきまでの失望はどこに行ったのか、嬉しそうに周りをくるくると回って
いる。
 そうして、十分ほど歩いただろうか。意外と簡単に目的地である竹原氏の家
を発見した。
「たぶん、ここやろう」
「うん」
「ほんじゃな」
「うん。ありがとう、おじさん」
 ……まあええか。
 その子が家に入っていくのを見届けて、再び家路についた。
 
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 題名がいまいちかもしれませんな……

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〜透き通ったような寂しい空に漂う雲〜
月夜龍神丸 UIN:68054102
Web Page:http://www.geocities.co.jp/Bookend/5637/
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