[KATARIBE 21143] Re: [HA06P] 怪我をして温情に感謝する

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Date: Thu, 21 Dec 2000 16:53:54 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 21143] Re: [HA06P] 怪我をして温情に感謝する
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ども、gallowsです。
今までのぶんのまとめと、追加分流します。
ERさん、総統さん、ハリさん、久志さん、チェックヨロシクー。

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エピソード『怪我をして温情に感謝する』
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登場人物
--------
 坂本 麻依子 (さかもと・まいこ):音楽をやって生きている死人。貧乏。
 観海 珠洲子 (みうみ・すずこ) :通りすがりの女子高生。
 朱 晃 (あけ・あきら)     :喫茶店『あげは』の店番。自分の食べ
たいもんを好き勝手作ってる探偵。
 平田 阿戸 (ひらた・あど)   :吸血鬼ハンターにして歩く銃刀法違
反。豚汁が好きらしい。
 本宮 幸久 (もとみや・ゆきひさ):通りすがりの葬儀屋

プロローグ
----------
 くつくつと鍋が音を立てる。

 ここは喫茶店。
 看板も、内装も、入り口も喫茶店。

 なのに香る味噌の香り。

 朱       :「最近、メニューにねえもん頼む馬鹿が多いなぁ…」
 平田      :「文句言いながらでも出すからだろうが」

 ここは『あげは』という喫茶店。

 ……であるはずの店。
 鍋の中で煮えているのは、どうみても味噌汁。
 大根、人参、里芋、豚肉、牛蒡、油揚げ、豆腐……
 俗名『豚汁』

 平田      :「おい」
 朱       :「あ?」
 平田      :「豚汁と飯」
 朱       :「うるせぇ!言ったそばから、メニューにねえもん頼む
な!」
 平田      :「けちけちするな」

 そういうものではない。
 営業時間中に、かってに豚汁作る店員も店員だが。

 朱       :「うるせぇ!もう少し煮込んだ方がうめえんだ!
         :飯とたくあんで我慢してろっ(ドンッ)」
 平田      :「はやくしろよ」(ぽりぽり)

 結局出す。
 今日の日替わりメニュー、豚汁セット(メニュー無し)

 朱       :「ったく……うるせえ奴だ……ほれっ!」
 平田      :「いただきます」

 箸を割る乾いた音が響く。
 一口、汁をすする。
 具を口に運ぶ。

 平田      :「いい味だ。喫茶店とは思えない」
 朱       :「チッ……人の飯を横取りしやがって……」
 平田      :「ふん。まあしかしだ、店に入った途端に味噌のいい香
り
         :をかがされてだ、それを注文しない奴がいると思うか?
」
 朱       :「けっ。メニューにねえんだから、図太い奴以外は頼ま
ねえよ」

 図太くない常連が、あげはには居るのでしょうか。

 平田      :「まあ、客層を見るに、メニューに無いという理由で注
文
         :しない殊勝な奴はいなさそうだな(ずずずー)」
 朱       :「ふんっ」

 くつくつくつ
 豚汁は、おいしそうに煮えている


接近遭遇
--------
 クリスマスも近い。とても冷える12月の日中。麻依子はふらふらと歩く。足
取りがおぼつかないのは空腹からか、睡眠不足からか、あるいは死人であるが
ゆえか。
 さて、商店街をふらふら歩いているうちに喫茶店『あげは』の近辺にたどり
ついてしまった。そこの店員朱晃は友人であったが、ある事件をきっかけに今
は会いたくない間柄になってしまっていた。

 麻依子    :「……駅の方にいこ」

 思い出しただけでイヤな気分になったので180度方向転換をする。麻依子は
わりと好き嫌いがはっきり出る方であったが、あまり怒ることにはなれていな
い。だから誰か嫌いになるたびに自分の方が滅入ってしまう。

 ドン…………振り返って一歩進んだ
 ぐわん………空が広がる
 ジャーン……ギターが泣き喚く
 ゴスッ………視界が白くなる

 そして、時間は少々遡る。

 珠州子    :(あ、なんか良い匂い……お味噌汁?)

 学校帰り。いつも一緒に帰る友人達は、何故か今日に限ってそれぞれの用事
で居ない。何となく面白くないような心持ちのまま、とことこ歩いていたのだ
が。

 珠州子    :(……喫茶店?)

 硝子戸の向こうを、こそっと覗く。

 珠州子    :(…………でもなんか、変な人がいるなー)

 カウンターの向こうの大男と、カウンターのこっちの黒いコートの男。
 何だか一瞬、向こうからもこちらを見ているような気がして、珠州子は首を
縮めた。

 珠州子    :(怖いから帰ろう……)

 諦めて、何の気無しに方向を変えよう、とした……ところで。

 ドン…………背中から肩に何かがぶつかって
 ぐわん………何故か妙に和音のような
 ジャーン……音というよりその弦の響き
 ゴスッ………そして、ひどく痛い……音。

 珠州子    :(………うわ、うわうわうわっ)

 三歩後退……して、見えたものは。

 麻依子    :「(めきょ)」

 転がっている女性。

 珠州子    :「あ、うわ、す、すみませんすみませんっ(汗)」
 麻依子    :(あたま押さえてうずくまってる)
 珠州子    :「だ、大丈夫ですか……てあああう、痛みますか?
        :(おろおろ)」
 麻依子    :「……だ、大丈夫です。そっちは?(だくだく)」

 大丈夫でないのは、見ればわかるのに。
 
 珠州子    :「こっちは大丈夫ですけど……でもあの大丈夫って
(汗)」
 麻依子    :「うん、なんとか(だくだく)」

 顔半分真っ赤にして言う台詞ではない。

 珠州子    :「あう……大丈夫じゃないですよおっ」
 
 ハンカチを鞄から出して傷に当てる。押さえた途端、指先にじくじくとした
暖かいものの感触が伝わる。

 麻依子    :「ああ、気遣い無用。あたし慣れてますから」
 珠州子    :「ってそんな……」
 麻依子    :「よくこけるんですよね(あはは)」
 珠州子    :「そんな慣れてるったって……(うう、出血酷い)」

 自分がぶつかって、怪我をさせてしまったのだ。では何とか……と思うが、
近くには薬局も医院らしい店も無い。
 目の前の喫茶店を見る。
 硝子の向こうから、誰かが見ている。手に何やら持っている、と、そんなこ
とばかりこんな時には目に付いて。

 珠州子    :「……」

 やっぱり、カウンターの前の人も、見ている人も……恐いのだけど。
 喫茶店の手に重い扉を開けて。

 珠州子    :「す、すみませんっ……あのすみませんっ」


何処か違う人々
--------------
 一方、店内。
 ジャーンとかゴスッとか尋常でない物音がした後も、特に変わった様子はな
い。

 平田     :「なんだか表がさわがしいぞ」(もぐもぐ)
 朱      :「事故だろ」(ぐつぐつ)
 平田     :「じゃあ、しょうがないな」(ずずー)

 何がどう「しょうがない」のかは不明だが、そういう結論に達したらしい。
 それでも、多少は気になるのか、左手に椀を持ったまま席を立ち、平田はド
アのガラス越しに外の様子をうかがう。

 SE      :バタンッ

 珠州子    :「す、すみませんっ……あのすみませんっ」

 そこへ、ひどく慌てた様子の珠州子が入ってきた……のだが……。

 平田     :「事故の人が転げ込んできたぞ」(ずずー)
        :「なんとかしろ店員」

 平田は豚汁をすすりながら投げ遣りに言い。朱も面倒くさそうに鼻を鳴らし
ただけである。

 麻依子    :「あぁぁッ……とそのー、その店はやめといた方が……
        :(ぼそぼそ)」
 珠州子    :「……え?……(汗)」
        :「いえあのでも、血止めしないと……あの申し訳ありませ
        :んっ」
 麻依子    :「(うわぁー……逃げよ……)」
 珠州子    :(はしっ)

 怪我人が嫌がったり、店内の対応が常識的でなかったりと、珠州子は多少戸
惑ったが、とりあえず怪我の治療が最優先であると判断したようだ。常識人で
ある。

 平田     :「あー、ひどいなコレは」

 平田は椀を手にしたまま、麻依子のそばに立ち、朱に聞こえるようにそんな
事を言った。

 朱      :「しょうがねぇな」
 麻依子    :「(ヒィー)」
 朱      :(ごそごそ)
 珠州子    :「えと、消毒液とかもしありましたら、貸して頂けません
        :かっ」
 朱      :「止血帯と消毒液。あと包帯だ。勝手に使え(どん)」
 珠州子    :「あ、ありがとうございますっ(礼っ)」
 麻依子    :「(ペコリ)」

 さて、必要なものは出てきたものの、珠州子はどこから手をつけたものか戸
惑っているようだ。

 珠州子    :(……で、でも、止血帯ってどやって使うんだろう)

 とはいえ、(見た目には)大怪我で出血も多い怪我人を前にして手をこまね
いているわけにもいかず、気ばかり焦っている。
 と、不意にまだ湯気の立っているお椀が突き出された。

 平田     :「出血が多いから大怪我に見えるだけだ。これ持ってろ」
 珠州子    :「あ、はい………え?」

 なんとなく受け取ったものの、不可思議なものでも見るように眺めている。

 平田     :「それにしたって、派手な出血だなこりゃ」(てきぱき)
 麻依子    :「あ、ありがとう……」

 手際よく止血帯を頭に巻き、切り取った包帯と消毒液で傷口を拭く。普通は
痛がらないが気にするものだが、必要なだけ傷口を消毒し終えると、さっさと
新しい包帯を巻いていった。手慣れたというよりは機械的である。

 平田     :「まあこんなものだな」
 珠州子    :「……うわあ」

 平田は作業をすませると、手際のよさに素直に感心している珠州子に向かっ
て手を突き出した。

 平田     :「豚汁」
 珠州子    :「あ、はいっ」
 麻依子    :「人として問題あるけど、料理はうまいよ。あの人」
 珠州子    :「…………そうなんですか?」
 麻依子    :「そうだよね」
 平田     :「まあそうだな」(ずずー)

 豚汁をすすりながら答える。確かに豚汁はおいしそうだ。

 朱      :「まぁ、そうだな」

 その後ろで、朱が皮肉っぽく繰りかえすようにいった。

 珠州子    :「……………(うわなんかこわいようっ(;_;))」
 麻依子    :「……(くそ、聞いてやがった)」

 いつのまに、と少し驚いたようだったが、麻依子は聞こえよがしに、

 麻依子    :「人としてはホント問題だけどね」

 と言った。

 珠州子    :「えーとえと、えとあの……(ど、どーしよっ)」
 平田     :「元気そうでなによりだ。俺は飯にもどる」(ふらり)
 珠州子    :「あ、ありがとうございますっ」

 平田は後ろ手に手をふって、カウンターの席に戻る。

 珠州子    :「で、えとあの、これ、ありがとうございましたっ」
 朱      :「ふん」
        :「クックック、人でなしの飯で良ければ食ってけ、怪我人
        :と加害者」

 朱は無愛想に包帯と消毒液を受け取り、人の悪い笑顔で一応気遣いを見せて
いるようだ。

血と味噌と
----------
 店の中は、血と味噌の匂いがした。

 って、するかフツー?

 朱      :「いらっしゃい」

 頭にぐるぐるまきに包帯を巻いた女、血をぬぐった布、なぜか豚汁。
 どれひとつ取っても喫茶店に似つかわしくない。

 幸久     :「……なんだ、一体?」
 朱      :「もう済んだ」


 何が?

 幸久     :「んー」

 怪我した麻依子をちらりと見る。

 幸久     :「まだ出番はねーな」
 珠州子    :「出番?(汗)」

 朱      :「注文」
 幸久     :「ん、あーそれくれ」
 朱      :「わかった」

 豚汁大人気。


怪我をして……
--------------
 なんで頭の出血というのはああも派手なんだろう。もしかしたら、頭は出血
を派手にする事で自分の重要さをなんとかアピールしようとしているんじゃな
いか。そうすればこれからは大事に扱ってもらえるとでも思ってるんじゃない
か。頭のやつもあれでなかなか保身に熱心なんだね。

 ぐぅ……

 しかしそんな頭の自己主張なんかはねとばすように胃袋の方が悲鳴をあげて
いる。ここ一日半くらいはろくになにも食べていなかったし、なんだかおいし
そうなにおいもするし、みんなおいしそうに食べているし、怪我するとお腹が
へるし、みんなおいしそうに食べているのだ。

 麻依子   :「(ダメだダメだダメだ、あたしは死んでるから腹なんてす
       :かないんだ)」

 そうこうしてるあいだにもさっき注文した男にこんもり盛られたご飯とたく
わん、そして豚汁が運ばれる。

 麻依子   :「(ぎゅるるるる)」
 珠州子   :「……(こ、こわいけどこわいけど……)……あの、私、御
       :馳走させてください」

 まるで胃袋が「飯をおごれ」と言ってしまったような状況。とてもみっとも
ない気持ちでいっぱいになる。

 麻依子   :「じ、自分で払えますよ、これでも社会人なんだから(汗)
」

 ギターケースのポケットを漁って出てきたのは362円。
 それ以上でもそれ以下でもなくて、三日前から変らぬ我が財政を呪う。

 朱     :「豚汁と飯で500円だ」
 麻依子   :「……」
 平田    :「せつない所持金だな」
 麻依子   :「……」
 幸久    :「……(ぷっ)」
 麻依子   :「……」
 珠州子   :「あの、お詫び……って言うと変だけど……あの、御馳走さ
       :せて下さい」

 朱晃の豚汁を食べるのは癪だった。自分より若い子におごってもらうのは忍
びなかった。彼女を加害者ってことにしちゃうことのような気もした(あれは
事故だろう)。したのだ、一応。

 麻依子   :「……ああ、オイシイ」(とほほ)
 珠州子   :「……(あ、でもほんとに美味しい(汗))」

 朱は人でなしであったが、人でなしの作る料理には罪もなし。寒さと、たぶ
んさっきの出血で冷えていた体に豚汁はいい具合に染み込む。
 しばし黙々と食事をして、そのあとちょっと自己紹介がてらに世間話なんか
をしてみた。喫茶店「あげは」とはそういう名前の大衆食堂らしい。麻依子は
認識を改めることにした(ちなみに下町風)。
 喫茶店を出る時、別れ際に珠洲子が丁寧な感じで頭を下げた。

 珠州子   :「ご馳走様でした。……あと、あの、すみませんでした」
 麻依子   :「ああいや、あれはこっちも悪かったのに……」

 麻依子は彼女の温情に感謝することにした。豚汁をおごってもらえたからと
いって怪我したこと自体に感謝したりはしてない……つもり。

時系列
------
 2000年クリスマス直前。

解説
----
 喫茶店「あげは」ではメニューにない料理がでることが多い。
 坂本麻依子(無職)は観海珠洲子(学生)に申し訳なく思いながらも食事を
おごってもらう。

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